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魔女のハーブは、あんまり甘くない5ー7
◯森の泉(夜・満月のころ)
アカリ、セーラ、レオーナの3人が、森の泉のそばで横になっている。
ココが、セーラのほっぺたを前あしでつつく。
セーラが、うーんとゆっくりと起き上がる。
セーラ「・・あれ、で、出れたの?地上に?」
セーラ、頭をふって、ココにたずねる。
セーラ「これは・・、森の中?」
セーラがあたりを見回しながら言うと、アカリが起きる。
アカリ「あ、セーラちゃん。・・・・うん、森の泉のそばだよ、ここは」
アカリ、セーラにつぶやく。
アカリ「ココちゃん。わたしたち、前に、きたよね?」
アカリが言うと、ココ、「ニャ」と鳴く。
セーラ「・・よかった。ちゃんと、地上に出れたんだね」
レオーナ「う・・ん」
レオーナが目を覚ます。
アカリ「よかった。レオーナさん、大丈夫?無事に、地上に着いたよ」
アカリがいうと、レオーナ、小さく頭をふって目を開ける。
レオーナ「これが、地上・・」
レオーナ、森の木々と、遠くに見える街の明かりをじっと見る。
アカリ「どう、地上の景色は?」
レオーナ、たちあがって手を胸にあてる。
レオーナ「・・ステキです。森の香りと、ひとびとの声が伝わってきます」
セーラ、うんうんと、うなずく。
アカリ「・・でも、テティスさんたち、怒ってるかな、やっぱり」
アカリ、苦笑いする。
レオーナ「心配ありませんわ。それくらい、説得してみせます。なんせわたくし、王女ですから」
レオーナとアカリ、いっしょに笑う。
レオーナ「きれい、これが満月・・」
レオーナ、夜空の満月につぶやく。
アカリ、ほほえみながらレオーナを見ていたが、やがて、奥の木々のあいだで、なにか動くものにきづいた。
ぴょこっと、木々のあいだから、小さな白うさぎが顔をだした。
セーラ「あら」と嬉しそうに、声をあげる。
アカリ、わあ、と立ち上がって、白うさぎのそばにかがむと「?」の表情。
アカリ「・・え、この子、前あしをケガしてる・・?」
白うさぎの前あしが、すりむいていた。
アカリ、白うさぎを、抱き上げる。
セーラ「あれあれ、かわいそうに。家族と、はなれちゃったのかな・・?」
セーラ、アカリのそばにいき、うーんとあごにゆびをあてる。
レオーナ「・・アカリさん、胸のペンダントを、その子の足にむけてくれませんか?」
すると、レオーナが、落ち着いた声でアカリにいう。
藍色の瞳が、自信にあふれていた。
アカリ、こくりとうなずき、ペンダントを白うさぎの足にちかづけた。
ペンダントから、あわい光がひろがって、白うさぎの前あしを、やさしく包みこんだ。
アカリ・セーラ「・・・・」
2人とも、光のわたに、見とれている。
レオーナ、にこりと笑みをうかべている。
しばらくすると、光のわたがきえた。
やがて、白うさぎの前あしが、元気に動きはじめた。
セーラ「え、どうして・・?」
セーラがおどろいていると、白うさぎは、アカリの手をはなれ、ぴょんぴょんと、あたりを飛びはねる。
レオーナが「ね」と、アカリとセーラにほほえむ。
「きゅー」と、白ウサギが小さく鳴いた。
レオーナ、はっとした顔になる。
アカリ「あれ、レオーナさん、どうかした?」
レオーナ、夜空の星をじっと見る。
レオーナ「あれは・・、魔女の星座ですわ」
レオーナが、つぶやく。
アカリ「魔女の・・星座?」
7つの星が、夜空にきらりと光っていた。
レオーナ「ええ、まちがいないです。幻といわれた魔女たちがつくった星座・・」
アカリとセーラ、顔をあわせる。
セーラ「・・なにが、おこるの?」
レオーナ「星の奇跡が起きると、聞いてますが」
アカリとセーラ、星空を見る。
アカリ「・・つまり、魔女座?」
レオーナ「そう、魔女座です。妖精の国にも、よく知られています。あの光こそが、すべての命のみなもと・・」
アカリの胸のペンダントが、光りだす。
すると、光のわたが、どんどんと大きくなり、アカリをつつみこむ。
アカリ「え、ええ?」
アカリとセーラ、驚きの表情。
レオーナ「ほら、ペンダントも・・。魔女座をもとめてる証拠ですわ」
ココ、ぴょんと、アカリの肩にのる。
アカリの足が、ふわっと地面から浮く。
セーラ「な、なに・・?」
光のわたにつつまれたアカリが、空へとあがっていき、木々とおなじ高さで宙にとまる。
肩にのったココが、アカリの頬に鼻先をつける。
レオーナ「・・ほら、星空の魔女が、呼んでいるんですわ」
セーラ「星空の・・魔女?」
セーラ、アカリを見ながらいう。
◯船の中(朝)
リサ、部屋の窓から見える景色に、よろこびの声をあげる。
はしごを降り、下のベッドで眠っているノアの肩を、手でゆらす。
リサ「ほら、ノアちゃん、街が見えたわよ」
ノア、ゆっくり目をあけると、リサの顔を見て笑顔になる。
ノア「え、着いたんですか?」
ノア、がばっとベッドからでて、窓の外を見る。
赤とオレンジの屋根が見える街が、波のむこうに見えた。
ノア「わあ、キレイ。素敵な街!」
リサのペンダントが、小さくひかった。
リサ「・・ほら、あの街にアカリちゃんがいるのよ」
リサ、ペンダントを見ながらいうと、ノアがつよくうなずく。
ノア「あの街に、おねえちゃんが・・」
ノアの瞳が、かがやく。
リサ「さ、ノアちゃん、街にでる準備をするわよ」
リサとノアが、いきよいよく部屋を出てバスルームにいくと、エドワウが顔を洗っていた。
ノア「あ、エドワウさん。おはよーございます」
エドワウ、ぬれた顔をあげる。
エドワウ「お、おはよう・・」
リサ「あら、はやいのね。よく眠れた?」
エドワウ、すこし照れたように、白いタオルで顔をふく。
ノア「昨夜は、ありがとうございました。とても助かりました」
ノアが、ぺこりとおじぎしながら、笑顔をむける。
エドワウ「そ、そう。それはよかった・・」
エドワウが、目をそらしながらタオルをたたむ。リサ、不思議な顔で2人を見ている。
リサ「・・あら、なにかあったのかしら?」
リサが、2人につめよる。
ノア「いえ、本を読んでもらっただけです、ね」
ノア、エドワウを見ながらいう。
リサ「あら、そうなの・・。エドワウも、すみにおけないわね」
リサ、すこし意地悪そうにエドワウを見る。
エドワウ「べ、べつに、たまたまさ・・」
たたんだタオルを、棚に置くエドワウ。
リサ「ほら、レディーが顔を洗うんだから。すぐにどいてあげなさい」
リサが、じっとエドワウをにらむ。
エドワウ「わ、わかってるよ、うるさいな・・」
エドワウがバスルームの外に歩いていくと、リサ、ぷっとふきだして、手を口にあてる。
ノア「え、どうしたんですか?」
リサ「だって、あの子が、あんなおろおろするの、はじめてだから・・」
ノア「それは、どうして・・?」
リサ、ノアをちらりと見る。
リサ「さあ、どうしてかしらねー。じきにわかると思うけど」
ノア「・・・・?」
ノアの不思議な視線をよそに、リサ、水色のタオルを棚からとる。
リサ「さ、顔をあらって、着替えましょ」
ノア、はいと言って、蛇口をひねって水を出す。
ノア「わっ、つめたい・・、でも、気持ちいい」
ノアが、あふれる水をさわって、声をあげる。
リサ「エドワウには、思わぬ出会いの旅になったみたいね・・」
リサ、顔を洗っているノアを見ながらつぶやく。
◯街のストリート(朝)
たくさんの人が、わいわいと街のストリートで買い物を楽しんでいる。
青年、人にもまれながら、何かをさがしてる様子。
青年「やれやれ、本当に広い街だな、ここは」
青年、青果売り場の屋台がならぶ通りにくると、
道のベンチに、どさっと座る。
すると、のら猫が、ちかづいてきた。
青年「はは、この街の猫は、本当に人なつっこいな・・」
青年、バックの中から水筒をとりだすと、ふたにミルクをそそぎ、のら猫にあげる。
青年「ふふ、ヤギのミルクだからね。きっと元気いっぱいになるよ」
のら猫が、ぴちゃぴちゃとミルクをなめはじめる。
青年「でも、あのハーブのお店の猫、かわいかったな・・」
のら猫が「ニャ?」と顔をあげる。
やがて、大きな馬車が、向かいの道を、ぱかぱかと音をたてて走っていく。
青年「立派な馬だな。あんなのは、たぶん貴族エリアにもいない・・」
青年、笑いながらつぶやく。
青年「でも、いったい、どこに・・?」
青年、ポケットから写真を取り出す。
ほほ笑んだアカリが、そこに写っていた。
〈5ー8に、つづく〉