魔女のハーブは、あんまり甘くない 1ー8
8.魔女、再会する
○山の下公園(昼)
アカリ、人びとに囲まれて、すっかり人気者扱いされている。
少年「どうやって、あんな虹を創るんですか?」
少女「あたしにも、教えてー」
女性「わたしも、空飛びたい」
アカリ「え・・と、じゅ、順番にいいですか?」
アカリ、両手をひろげて、ひとびとを制止しながら言葉を発する。
小1時間すると、ようやくひとびとは去っていき、アカリはへとへとになってベンチに座る。
セーラ「すっかり人気者だね、アカリちゃん」
アカリ「(苦笑い)た、たまたまだよ、セーラちゃん」
セーラは、公園の屋台に行き、ジェラートを2つ買ってきた。
セーラ「はい、おつかれさま」
セーラ、ジェラートを1つ、アカリにわたす。
アカリ「(受け取って)ありがと、セーラちゃん。あーつかれた」
セーラ「いやいや、大したもんだよ。もう、あれだけ飛べれば」
セーラは、ジェラートを口に入れながら空の虹を見る。
セーラ「虹だって、ちゃんと創れたし」
アカリ「うん、この石のおかげだよ」
セーラ「ううん、アカリちゃんの魔力が、その石の力を呼び起こしたんだよ」
アカリ、照れたように顔をふせる。
男性「おい、また盗みだってよ!」
とつぜん、男性の声がひびき、二人は公園の外を見る。
以前見た、宝石店の男性たちだった。
今回は、警官たちといっしょにいる。
アカリ、顔を下げる。
男性1「でも、今回は、犯人がカメラに映ってたってよ」
男性2「ああ、犯人は、女性らしいぞ」
男性たちが、警官たちといっしょに去っていく。
アカリ、ジェラートをを一気にぜんぶ食べると、カラをゴミ箱に捨てて立ち上がる。
アカリ「・・セーラちゃん、戻ろっか」
アカリ、セーラの手を引いて公園を出ると、お店に戻っていく。
○アカリのお店(夕)
アカリとセーラがお店に帰ると、ココがなにかをくわえていた。
セーラ「あれ、ココ、なにソレ?」
セーラ、ココが紙をくわえているのを見ると、紙を手にしてひろげる。
<明日の3時に、港がよく見える丘公園で
待ってます。 リサ>
アカリとセーラ、だまって顔を合わせる。
セーラ「アカリちゃん、コレ・・」
アカリ「うん、行くしかないね」
ココが、紙にくんくんと鼻を鳴らす。
セーラ「あれ、ココ?」
セーラ「え? この匂い、知ってるって?」
アカリ「ココちゃん? どういうことなんだろ?」
アカリとセーラ、不思議そうに顔をあわせる。
ココ、やがて、あくびをしてニャアと鳴く。
二人、いっしょに吹き出す。
セーラ「そうね、まずは腹ごしらえをしますか」
アカリ「ようし、今日は、特大のオムライスにしよう!」
アカリ、エプロンを身に着け、腕まくりをしながら厨房に入る。
○山の手の坂道(昼)
アカリとセーラ、並んで坂道をあるく。
二人とも魔女の服装で、セーラはホウキを持っている。
ココは、セーラの肩に乗ってあくびをしている。
セーラ「あのね、アカリちゃん」
アカリ「?」
セーラ「ずっと、気になってたんだけど」
セーラ、前を向いたまま言う。
アカリ「リサさんが、やったんじゃないかってこと?」
セーラ、口を閉じる。
アカリ「うん、ずっと心にひっかかってたけど」
セーラ「いまでも、信じてるの?」
アカリ、強くうなずく。
セーラ「そう・・、わかった」
二人とも、だまって歩いていると、やがて、公園が見えてきた。
○港がよく見える丘公園
公園の中は、家族で遊んでいる人が大勢いる。
公園の時計の針は、2時55分をさしていた。
アカリとセーラは、公園の中をゆっくり探すが
リサは見当たらない。
時計の針が、3時をさした。
いつの間にか、リサがベンチに座っていた。
アカリとセーラ、視線を合わせると、ベンチの方に歩み寄りリサの前で足をとめる。
リサ「ひさしぶりね」
リサは小さく笑うと、セーラに視線を移す。
リサ「あなたは、セーラさんね」
アカリ「(おどろいた様子)どうして、知ってるんですか?」
リサ「あのね、私、ずっと、あなたたちを見ていたの」
アカリとセーラ、おどろいてリサを見る。
リサ「ごめんなさいね、こんなこと。でも、とても楽しかったわ。あなたたちが、魔女になっていくのを見るのは」
<アカリ、最近、だれかに見られている気がしたのがフラッシュバックする>
リサ「私は、魔女なんかじゃないわ」
港の汽笛が聞こえる。
リサ「私は、ニセモノなの。そう、サギ師と呼んでもらってもいいわ」
リサ、ポーチから宝石を手のひらに出して、アカリに見せる。
リサ「これ、全部、私が盗んだの」
アカリ「どうして・・」
アカリ、信じられないような表情。
セーラ「アカリさん」
セーラがとつぜん、口を開く。
セーラ「あなたは、あたしと同じ街にいましたね」
アカリ、ハッとしてセーラを見ると、すぐにリサに視線を移す。
リサ、表情を変えないまま。
ココ「ニャオ」
セーラ「ほら、ココが匂いを覚えてるっていうのは、同じ街にいたってことなんです」
リサ、手のひらの宝石をポーチにもどす。
セーラ「たぶん、スラム街にいました?」
時計の針が、3時5分をさす。
リサが、口を開く。
リサ「大正解よ。セーラさん。そう、私は、そこで育ったのよ」
セーラ、小さくうなずく。
アカリは、おどろいて口を開ける。
リサ「魔女のニセモノがいるっていうのは、ご存知だったのね?」
セーラ「もちろん、ずっと聞かされてました」
セーラ「街にいたとき、ニセモノの人たちの顔が街の広報誌に載ってて。その中に、リサさんの顔があったのを覚えてたんです」
<セーラ、自分が街にいたときの記憶がフラッシュバックする>
リサ「記憶力がいいのね。これでもずいぶん、髪型もメイクも変えたつもりだったんだけど」
リサとセーラが目を合わせていると、ココが、ゆっくりとリサの足元に近寄る。
セーラ「ココ・・?」
ココが顔を上げてリサを見ると、ぴょんとジャンプして、リサのひざの上に乗る。
リサ「・・・・」
セーラ「ココ、どうしたの?」
ココ、大きくあくびをすると、そのままリサのひざの上で丸くなって眠り出す。
リサ「・・・・?」
アカリ「ココちゃん?」
リサ「どうしたのかしら、この子? 私が怖くないの?」
セーラ「・・おかしい。だって、ココは、魔女の匂いのする人にしか・・」
アカリ、セーラの前に手を出してさえぎる。
アカリ「リサさん、もう少し、くわしく話してくれませんか?」
アカリがじっとリサを見ると、リサは小さく笑い
ココの背中を指先でそっとなでる。
ココの耳がぴくっと揺れる。
リサがくすっと笑うと、顔をアカリにむける。
リサ「そうね。じゃあ、もう少し話そうかしら・・」
ココが、目を細く開けて、ニャアと鳴く。
エピソード8 END