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魔女のハーブは、あんまり甘くない 1ー6
6.魔女、告白する
○港がよく見える丘公園(昼)
よく晴れた日曜の空の下、アカリ、セーラは、魔女の服に着替え公園に来ていた。
ココは、ペット用のカゴから出て、港の風を気持ちよさそうにすっている。
公園の中に立ててある時計は、12時30分をさしていた。
アカリ「気温よーし、風よーし、日差しよーし」
アカリ、空を指差しながら声を出す。
ココ「ニャ」
アカリ「(笑って)ココちゃんの機嫌よーし」
セーラ「条件は、バッチリだね」
アカリ「うん。今日は、おっきな虹を創るぞー」
アカリ、空に向かって両手をひろげる。
セーラ、アカリの胸のペンダントを見る。
セーラ「アカリちゃん」
アカリ「?」
セーラ「その石なんだけど・・」
警官1「キミたち、なにをしてるんだね?」
いきなり声がしたので、アカリとユイ振り向く と、うしろには警官が二人立っていた。
アカリ、公園のわきにパトカーが止めてあるのが目に入るとストリートの宝石店で見た光景がフラッシュバックする。
アカリ「(心の声)あの人たちは・・」
警官2「ちょっと、聞かせてもらっていいかな?」
事務的な声と笑顔を浮かべ、警官たちがアカリたちの前まで歩み寄ってきた。
セーラ、いそいでココをカゴの中にいれる。
アカリ「なんですか?」
セーラ、やや固まった表情になる。
警官たちは、アカリとセーラを交互に見ると顔を合わせる。
警官1「その格好は、どうしたんだね?」
アカリ「魔女の修行をしてるんです」
警官2「(困惑して)魔女の修行? なんだね、それは?」
アカリ「一人前の魔女になるための修行です。それだけです」
警官1は、しばらく困惑して黙り込む。
やがて、警官2が口を開く。
警官2「最近、この町で盗みが起きているのは、ご存知かな?」
アカリ「はい、知ってますが・・」
警官たちは、じっとアカリたちを見る。
アカリ「まさか、私たちがやったって言うんですか?」
警官1「ふむ、まあ、そんな格好をしてるとね」
警官1、セーラを見る。
警官1「あと、キミはどこからきたんだね。この町では、見たことのない顔だが」
セーラ「・・海のむこうからきました」
警官たち、二人で首をかしげる、
警官2「住民票は、あるのかね?」
セーラ「いえ・・」
警官たちが、ざわつく。
アカリ「わたしの家に住んでるんです」
警官1「ふうむ。それは、この子をかくまっているともとれるな」
セーラ「な、なんですか、それは?」
ココ「(強く)ニャー」
警官1「な、なんだ、この猫は?」
ココが、カゴの中から、すごい目つきで警官たちをにらんでいる。
警官1が、迫力に押されて後ずさりをする。
警官2「とにかく、許可もなく町に入って、勝手にいそうろうしているのは、問題だ」
警官1「われわれといっしょに、来てもらおうかな」
警官たち、パトカーのほうへとアカリたちをうながす。
セーラ「そ、そんな、ひどすぎます。あたしだって、魔女の修行を終わらせなきゃならないのに」
警官2「そんなことは、そっちの都合だ。この町にいる以上、ルールにはしたがってもらう」
警官1「さあ、乗って」
警官1、セーラの袖をつかむ。
セーラ「いや、いやです!」
とつぜん、アカリのペンダントが光りだす。
アカリ、目をつむる。
光は公園全体を強く照らし、すぐに消えた。
アカリ、ゆっくり目を開ける。
警官たちの姿がなかった。
アカリとセーラ、驚いて顔を合わせる。
セーラ「消え、ちゃった・・?」
アカリ「これも、魔女の力なの?」
セーラ「あ、あたしも知らない・・」
アカリ、公園の時計を見ると、針は、12時10分をさしていた。
アカリ「・・・・?」
<さっき見た時間が、フラッシュバックする>
アカリ「たしか、さっきは、12時・・」
アカリ、ハッとしてペンダントをにぎる。
アカリ「セーラちゃん、急いでもどろう。彼らがくる」
セーラ「え?」
アカリは、 わけがわからないと言った顔のセーラをつかみ、ココが入ったカゴを手にすると、公園を走り去っていく。
○店の中(夕)
アカリとセーラ、店にもどるとぐったりとカウンターのイスに座る。
アカリ、カゴのふたを開けると、ココが元気そうに飛び出してくる。
アカリ「ココちゃんは、元気だね・・」
壁の時計は、ちょうど5時をさしている。
セーラ「あー。あたし、なんか疲れちゃった」
アカリ「(苦笑いして)セーラちゃん、休んでていいよ。あとは、わたしがやっとくから」
セーラ「ごめんね。じゃ、お言葉にあまえて」
セーラが二階に上がっていく。
とつぜん、店の電話が鳴る。
アカリ、受話器を取る。
アカリ「はい、魔女とハーブのお店ですが」
カズマ「・・アカリちゃんかい?」
アカリ「(驚いて)カズマさん?」
アカリ「え、どうして・・?」
カズマ「ごめん。勝手に、お店にかけて」
アカリ、言葉がでてこない。
カズマ「今晩7時。赤いレンガ倉庫の広場まで、いいかな?」
アカリ「え、それは・・」
カズマ「じゃ、待ってるから」
電話が勝手に切れる。
アカリ、受話器を置いて、厨房に入る。
水をコップにそそいで、ぐっと飲み干すとテーブルの上のスパイスの缶を見る。
アカリ「そうだ、カレーがあったんだ・・」
壁の時計が、5時10分をさしている。
○赤いレンガ倉庫ひろば(夜)
アカリ、腕時計を見ながら小走りにひろばに向かっていくと、ベンチにカズマが座っていた。
カズマ、アカリに気づくと腰を上げる。
カズマ「(笑って)時間、ぴったりだね」
アカリ、深呼吸して息をととのえる。
カズマ「考えてもらえたかな?」
港に係留している船の、汽笛がひびく。
アカリ「・・ごめんなさい」
カズマ「・・・・どうして?」
アカリ「わたし、いま、とっても大事なものがあるから」
カズマ「大事なもの・・?」
アカリ、小さくうなづく。
アカリ「・・じゃ、また」
アカリ、帰ろうとするが、ぴたっととまるとカズマに振りむく。
アカリ「あ、ユイちゃんを大事にね」
アカリ、カズマの視線を背中に感じながら、山の下公園のひろばに入っていく。
やがて、ひろばの反対側にユイがいるのが見えた。
なにか急いでいる様子で、アカリには気づいていない。
アカリ、ユイとすれちがうと小さく笑う。
船の汽笛が、もう一度ひびく。
アカリ「さーてと、今晩は、カレーだー」
アカリ、港の夜空の下を歩く。
エピソード6 END