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魔女のハーブは、あんまり甘くない 5ー4
◯レオーナの部屋(月が笑みをうかべるころ)
レオーナ、部屋のすみにある紅石英のイスに座り、顔をふせている。
アカリ、ちょっと心配そうな顔でレオーナを見る。
アカリ「また、寝てるのかな・・?」
セーラ、アカリの胸のペンダントを見て、ぷくっと腕組みをしている。
セーラ「ふーん。アカリちゃんだけ、ずるいんだから」
セーラ、ホウキをぶんぶんとふりまわす。
アカリ「・・セーラちゃん、子どもみたいなまねしないの」
アカリ、苦笑いしてセーラを見る。
アカリ、そっとレオーナのそばにいって顔をのぞく。
すると、レオーナの頬に、キラリと光るものが見えて、アカリ、はっとする。
アカリ「レオーナさん・・?」
レオーナ、アカリに気づいて、顔をあげると笑みをうかべる。
レオーナ「・・わたくしも、地上に行ってみたいですわ」
地上から射し込む光を見ながら、レオーナがつぶやく。
レオーナ「ええ、あなたたちを見ていると、なんだか、とってもうらやましいんです」
レオーナ、指で、頬をふく。
セーラ「え、まだ、見たことないの?」
レオーナ「だって、わたくし、生まれたときから、ずっとこの国ですから」
レオーナの藍色の瞳がゆれている。
レオーナ「ときどき、あの光にまじって、地上のひとびとの楽しそうな声が聞こえてくるんです」
アカリ「(小声で)あの泉が、通路になってるのかな・・?」
レオーナ「そのなんというか・・、胸が高鳴るんです。あのふりそそぐ光を見ていると」
レオーナ、あこがれのような視線を、地上からの光にむける。
やがて、レオーナが口をとじると、アカリとココは、顔を見合わせる
アカリ、よしとうなずく。
アカリ「じゃあ、わたしたちが、地上へ連れて行ってあげましょうか?」
レオーナ、おどろいた表情。
レオーナ「ほ、本当ですか?」
セーラ、目をひらく。
セーラ「ア、アカリちゃん。そんなこと言っちゃって・・」
アカリは、胸のペンダントをかざした。
アカリ「ほら、新しいペンダントをくれたから。だから、そのお礼に」
すると、ペンダントから、光のすじがのびて、どんどんのぼっていく。
アカリ「ほら、この光のさきに、地上への入口があるのよ、きっと・・」
セーラとレオーナ、たがいに顔を見合わせる。
ココ「ニャオ」と鳴く。
◯森の中(夜)
ふくろうおじさん、森の木の枝にとまって、大きな黄色い目を開いている。
おじさん「うん、今夜も、森は平和だ・・」
ふくろうおじさん、安心したように目をつむろうとすると、森のむこうから光が飛びだして、「わっ」と声をあげる。
そのさい、枝から落ちそうになり、ふくろうおじさん、両腕で枝につかまる。
おじさん、「う、腕があって助かった・・。で、あの光は・・?」
ふくろうおじさん、目を開き、視線を下にむける。
おじさん「あそこは・・、泉から・・?なにが起こっているのかな・・?」
となりの枝にとまっていたシロフクロウが、おじさんの肩にとびうつってくる。
おじさん「そういえば、むかし魔女さんたちは、いろいろ光らせていたな・・」
ふくろうおじさん、シロフクロウにつぶやく。
おじさん「・・でも、あんな強い光は、見た記憶がないなあ・・」
シロフクロウ、クックと鳴く。
夜空には、満月が顔を見せはじめていた。
◯船の食堂(昼)
船内の食堂で、リサ・ノア・エドワウがテーブルに座っている。
ノア「すごい、ヒカワノ丸って、こんなに豪華な食事なんですね」
テーブルの上には、オムレツ、パスタ、サーモンなどがならんでいた。
リサ「ええ、噂にはきいていたけど、私もおどろいたわ」
ノア「わあ、おいしそう。いただきまーす」
ノア、スプーンをかかげ、オムレツにとりかかる。
リサ「あれ、エドワウ、お腹空いてないの?」
エドワウ「い、いや、そういうことでは・・」
リサ「エドワウ、大きくなったわね。育ちざかりなんだから食べなさい」
リサ、母親のような口調でエドワウにいう。
エドワウ「じゃ、じゃあ・・」
エドワウ、大きなお皿にのったパンに、手をのばす。
ノア「はい、どーぞ」
ノアが、パンを小さなお皿にのせ、エドワウにわたす。
エドワウ「ど、どうも・・」
エドワウ、目をそらしながら言う。
お皿を受け取ろうとすると、指さきがノアの指にふれる。
エドワウ、はっとしたように、手をひっこめる。
ノア「・・?」
エドワウ、こほんと気をとりなおし、お皿を受けとると、パンを口のなかにつめこみ、あわてて目を白黒させる。
ノア「?」
リサ、手で口元をおさえる。
ノア「あたし、ちょっとお手洗いに行ってきます」
ノア、席をたつと食堂のそとに歩いていく。
リサ「エドワウ。ほら、ミルクね。さっきから、どうしたのよ? みょうに落ち着かないみたいだけど 」
リサ、ミルクの入ったコップをエドワウにわたす。
エドワウ、ミルクを飲み干すと、はあっと息をはく。
エドワウ「べ、べつに・・」
リサ「あなた。あんな子が好みなのね。はじめて知ったわ」
エドワウ、コップを落としそうになる。
エドワウ「な、なな・・」
リサ「<おれは、女の子には、興味ない>って、よく言ってたくせに」
リサ、ちょっとからかうような視線をエドワウにむける。
エドワウ、ふうっと息をはいて、気を取り直す。
エドワウ「姉さん・・、叔母さんには、あってくれるの。あってくれるよね?」
エドワウ、顔をリサに近づける。
エドワウ「叔母さんとは、あまりうまくいってなかったのは、知ってるよ。でも、本当は、姉さんのこと、大事に思ってたんだよ」
リサ、しばらく無言だったが、やがて、ふっと笑みをうかべる。
リサ「あら、エドワウ。言うようになったじゃない」
リサ、指さきで、エドワウのほっぺをつねる。
エドワウ「いてて・・、いつまでも子どもあつかいしないでよ・・!」
ノアが食堂に戻ってきた。
リサが、指さきをほっぺからはなす。
エドワウ、ぱっと、リサからはなれる。
リサ「おかえりなさい。おそかったわね」
ノア「ええ、むこうがわのデッキに行ってきたんですが、人がいっぱいいて」
ノア、デッキの方角を見ながらいう。
ノア「でも、こんなの、もらっちゃいました」
ノア、にこっと笑い、テーブルに花をひろげる。
リサ「まあ、すてきな花。どうしたの?」
リサ、目をひらく。
ノア「デッキに花売りの人がいて。道を教えてあげたら、お礼にどうぞ、って」
白と紫色の花びらをひろげた、美しい花のたば。
リサ「・・すごい、でも、どこの花かしらね?」
リサ、花を見てつぶやく。
エドワウ「・・たぶん、地中海の花じゃないかな」
エドワウが、声をだす。
ノアとリサ、エドワウを見る。
リサ「あら、エドワウ、くわしいのね」
エドワウ「いや、まえに本で見たことがあるから・・」
ノア、おどろいて、エドワウを見る。
ノア、花を手にすると、輪をつくりはじめる。
リサ「あら、ノアちゃん、じょうずね」
リサ、感心した表情。
ノア「えへへ・・、むかし、おねえちゃんと、よく作りましたから」
ノア、花のかんむりをつくると、リサにわたす。
リサ「わあ、うれしい。でも、これは・・」
リサ、エドワウの帽子を取ると、花のかんむりを、エドワウの頭にすぽっとかぶせる。
エドワウ「な、ななな・・・・!」
エドワウの顔が、トマトのように赤くなり、ノアとリサ、思いきりふきだす。
〈5ー5 へ、つづく〉