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魔女のハーブは、あんまり甘くない 2ー9
○夢の中
はてしなく広がる花園の中に、ミサキとミオが立っている。
ふたりとも、深い青のドレスを着ている。
ミサキ「またね、お姉ちゃん」
ミオ、ずっとだまっている。
風が吹き、花びらが舞い上がる。
ミオ「ミサキ、どうして・・」
ミオ、小さく口を開くと、ミサキ、小さく笑う。
ミサキ「私、やらなきゃいけないことがあるの」
風がやんで、花びらがひらひらと舞い落ちてくる。
ミオ「そんな、大事なものなの?」
ミサキ、だまってうなづく。
ミサキ「大丈夫よ、お姉ちゃん」
ミオ「?」
ミサキ「お姉ちゃんは、ずっと、私の心の中にいるから」
ミオ、右手でそっと髪をなでると、笑みをうかべる。
ミオ「・・なんとなく、そう思った」
ミサキ「?」
ミオ「ミサキの目を見ててね。前から、そんな気がしてたの」
ミサキ「・・・・」
ミオ、両手でお皿をつくり、花びらがその中に落ちる。
花びらの一枚を、指でつまみミオは微笑む。
ミオ「ミサキ、変わったね」
ミサキの肩に花びらが、落ちる。
ミオ「なんか、いろいろあったみたいだけど」
ミサキ、すこし照れたように表情をゆるめる。
ミオ「その表情・・、お母さん、そっくりよ」
ミオ、手の中の花びらにふうっと息をはく。
花びらが舞い上がる。
ミサキ、前に走り出す。
ミサキ、ミオに口づけをする。
そのままふたりとも、花の中にたおれこむ。
2つの青いドレスが花の中でもつれあい、二人とも長い間、たがいを強く抱きしめ合う。
ふたたび、風がふいてやむと、ミサキ、ミオから離れて立ち上がる。
ミサキ「私、お姉ちゃんのぬくもり、忘れないから・・」
花の中のミオが、小さく笑う。
やがて、すっとミオの姿が消えると、風が強く吹き、無数の花びらがミサキを包みこむ。
ミサキ、目を覚ます。
目の前には、花園でなく、いつもの寝室の光景がひろがる。
そして、今夜は風もない。
ソファを見ると、モモが心配そうに見ていた。
ミサキ、肩の力を抜いて笑う。
ミサキ「ただいま・・、もう、大丈夫だよ」
モモ、歩きだすと、ミサキのひざの上にぴょんと乗る。
そして、スースーと寝息を立て始めるモモ。
ミサキ「私は、ここにいるから・・」
ミサキ、モモの頭をゆっくりとなでる。
窓の外は、しずかだった。
ミサキ、ペンダントを見ると、ペンダントは小さく光っていた。
ミサキ「またね、お姉ちゃん・・」
○丘のてっぺん(夜)
ポニーテールの少女、夜空の下を歩いている。
少女、ややつかれた表情。
少女「あれ、ちょっと、きすぎちゃったかな・・」
少女、あたりを見回すと、丘のむこうに高い木々が並んでいるのが、見える。
少女「あれは・・」
少女、足に力を入れてあるき出すと、木々の中に入っていく。
そしてしばらく木々の間を進むと、とたんにひらけた場所に出た。
少女「わあ・・」
花にかこまれた美しい泉が、少女の前にあった。
やさしい水の音が、奥からひびいている。
少女「こんなとこ、知らなかった・・」
少女、泉にちかづくと、水と花の香りが流れてきた。
少女「いい香り・・、みんなきれい」
少女、夜空を見る。
木々の葉のすき間から、夜空にまたたく星が見える。
少女「なんか、ここ、星の世界みたい・・」
少女、はっとする。
少女「光の街・・?」
少女、泉のそばの岩に座ると、目をつむりすやすやと眠りはじめる。
○丘の上(朝)
アイが、丘をゆっくりと下っている。
両手をお腹にあて、穏やかな笑みをうかべている。
やがて、うしろから人の声がするのに気づく。
ミサキ「アイちゃん、待って」
アイ、振り向く。
アイ「ミサキ・・?」
ミサキ、アイのそばにくると、はあはあと息をきらしながら微笑む。
ミサキ「やっぱり、ここに・・。家に電話してもでないから」
ミサキ、ふうっと息をととのえる。
ミサキ「昨夜、ここで、何かしてたの?」
アイ「う、うん、まあ・・ね」
アイ、すこし困惑した顔を見せる。
アイ「と、ところで、ミサキは、どうして、あたしを探してたの?」
ミサキ「うん、これ」
ミサキ、ペンダントをアイにさしだす。
アイ「それは、たしか・・」
ミサキ「アイちゃん。これをつけてみて」
アイ「え?」
ミサキ、アイの後ろにまわってペンダントをつける。
アイ「・・・・」
ミサキ、よしといって笑顔になる。
ミサキ「アイちゃん、今夜、ゼッタイ、いい夢見るよ」
ミサキ、ペンダントを見ながら言う。
アイ「夢・・?」
ミサキ、強くうなづく。
ミサキ「それに、なんか、アイちゃんからは、不思議な力、感じるし」
アイ、ハッとした表情。
アイ「(小声で)ユウキさんと、おんなじこと・・」
ミサキ「え?」
アイ「ううん、なんでもない。じゃ、これ、もらっておくね。なんか、ほんとにいい夢見れそう」
ミサキ、うん、と笑顔になり、ポケットに手をいれる。
ミサキ「ああ、あと、これも」
アイ「?」
ミサキは、えんじ色のハーブが入ったパックをミサキに渡す。
ミサキ「オリジナルブレンドなの。すごく、飲みやすいと思うから」
アイ、お腹をなでる。
アイ「ありがと・・、ミサキ」
ミサキ「じゃ、私、店番があるから」
ミサキとアイ、たがいにグーサインを出して、それぞれの方向に歩きだす。
アイ、ペンダントにキスする。
○ミサキの店(昼)
お店のうらのあき地で、ミサキ、ホウキを手にする。
モモが、そばでちょこんと見ている。
ミサキ「ペンダントは、ないけれど、でも、がんばれば・・」
ミサキ、ホウキにまたがる。
ホウキは、いっこうに動かない。
ミサキ「セーラさんみたいな魔力はないけれど、でも、私だって・・」
ミサキ、もう一度、体に力をこめる。
ミサキ「ん・・、んん・・」
ホウキの先が、かすかに浮き始めた。
ミサキ「う、ういた? やった」
ホウキ、ふらつきながらも、すこしずつ地面から離れていく。
ミサキ「よし、あと一歩・・」
とつぜん、モモが走り出し、ぴょんとミサキの肩にのる。
すると、ホウキが、空に向かってぐんぐんと舞い上がった。
ミサキ「え・・、ええ?」
ミサキは、はるか下に見えるお店や町を見て、おどろく。
ミサキ「ど、どうして・・?」
ミサキ、はっとする。
ミサキ「モモ、あなた、まさか・・?」
モモ、ニャオといつも通りの声を出す。
○アイの家(夜)
アイ、窓を開けて夜空を見る。
北斗七星がくっきり見えた。
アイ「キレイ・・」
アイ、つぶやくとペンダントをぎゅっとにぎる。
棚の上には、すこし色褪せた写真がたてかけてある。
アイと、アイそっくりの少女が並んだ写真。
アイ「おやすみ・・」
アイ、写真に言うと、ベッドにもぐりこむ。
<Episode10へ、つづく>