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魔女のハーブは、あんまり甘くない 2ー4

<魔女の証明>

○町はずれの丘(昼)
丘の上で、空を見つめるミサキ。
心地よい風が吹き、さらさらと草のなびく音。

ミサキ「アイちゃん・・」

ミサキ、空にむかってつぶやく。
しばらくの間、静かに雲が流れていたが、とつぜん、空に小さなつぶが見えた。

ミサキ「?」

やがて、つぶはだんだん大きくなり、空からなにかが降ってきた。

ミサキ「・・・・え?」

そのなにかは、人の形をしているのがわかると、ミサキは、あわててその場から逃げる。

ミサキ「わ、わああああ・・!」

すとっ、と大きな音とともに、丘の上に人がおりた。

ミサキ「・・・・!」

ミサキ、振り向くと、丘の上に少女が立っていた。
よく見ると、ミサキは少女に見覚えがあった。

セーラ「こんにちは」

しばらくすると、ミサキ、ハッとする。

ミサキ「あ、あなたは、この前、カウンターにいた・・」

セーラ「ええ、セーラっていうの」

セーラ、にこりと笑うと、ぺこりと頭を下げる。

セーラ「この前は、宿を紹介してくれて、どうもありがとう。ほんとに助かりました」

ミサキ「(両手をひろげて)い、いえ、そんな」

セーラ、ホウキを手に持つ。

セーラ「言ってた通り、宿のひげのおじいさんも、とってもいい人だったし、アカリちゃんもよろこんでました」

ミサキ「あ、それは、よかったです。それで、お友達のかたは?」

セーラ「ああ、アカリちゃんね。あの子、今、ココといっしょに町を散策してるわ」

セーラ、眼下にひろがる町をながめる。

セーラ「ふたりとも、この町がとっても気に入ったみたいで、ぜんぶ見て回りたいって」

ミサキ「(笑って)よかった。この町を好きになってくれて。それで、セーラさんは、今日、なにを?」

セーラ、こほんと小さくせきばらいをする。

セーラ「あたし、実は、魔女なの」

ミサキ「え?」

セーラ「ふふ、いきなりそんなこと言われても困るよね。これ、見ててね」

セーラ、ホウキにまたがると、ホウキの先がゆっくりと浮く。

やがて、セーラのつまさきが地面からはなれると、セーラの体が空にむかって飛ぶ。

ミサキ「わ、わああああ・・!」

雲のじゅうたんの中で、セーラのシルエットが右へ左へと動くのが見える。
セーラ、空を何度か旋回すると、ゆっくり丘におりてくる。
セーラ、ホウキを手に持ってミサキを見る。

セーラ「ふふ、どう?」

ミサキ、大きく息をはく。

ミサキ「す、すごい、魔女さんって、本当のいたんですね」

セーラ「へへ、そうなのよ。(真剣な顔になって)それで、その石なんだけど・・」

セーラ、ミサキの胸のペンダントを見る。

ミサキ「?」

セーラ「それは、魔女の石ね」

ミサキ、ペンダントを指さす。

ミサキ「魔女の・・石?」

セーラ「この前、あなたのお店で見たときから気になってたんだけど。まあ、すごーく簡単に言うと、それで魔法を使うことができるのよ」

ミサキ「魔法って・・あ」

  ミサキ、夢の中の出来事がフラッシュバックする。
ミオのぬくもりが、手の中に蘇るのを感じる。
 
セーラ「あら、何か心当たりが?」

ミサキ「え、ええ。もしかしたら、この石で不思議な夢を見たことが・・」

セーラ、腕を組む。

セーラ「やっぱり。なら、あなたも魔女の力があるってことね」

ミサキ「(おどろいて)わ、私に? そんな・・」

セーラ、ホウキをミサキにさしだす。

セーラ「これ、持ってみて」

ミサキ、無言でホウキを手にする。

セーラ「それに、乗ってみて」

ミサキ「こ、こうですか?」

ミサキ、足を上げホウキにまたがると、ホウキがふわっと地面から浮く。

ミサキ「う、ういてる・・・・?」

ミサキ、きょろきょろとあたりを見回す。
セーラ、笑みをうかべる。

セーラ「ほら、魔女の力ね」

だが、ホウキは、すぐにふらふらと傾き、ばたっと地面に落ちる。

ミサキ「いったあ・・」

ミサキ、腰に手をあてる。

セーラ「ふふ、アカリちゃんといい勝負ね」

セーラ、落ちたホウキをひろう。

セーラ「あたし、海のむこうの街で育ったんだけど、おばあちゃんが魔女でね。魔法も、おばあちゃんから教わったの」

ミサキ「おばあさまも・・」

ミサキ、地面に座ったまま、つぶやく。

セーラ「でね、おばあちゃんいつも言ってたわ。魔女は、人を助けるものだって」

セーラ、空を見る。

セーラ「魔女って聞くと、怖がる人もいるみたいだけど、ゼッタイそんなことないわ」

空の雲のうごきが、はやくなっている。

セーラ「魔女は、正しい存在だって、あたしが証明してみせる」

セーラは、えへんと腰に手をあてミサキを見る。

セーラ「だから、ミサキちゃんも、たくさん魔法を覚えて、あたしを手伝ってね」

セーラ、ミサキの左手をにぎり地面から起こす。

ミサキ「は、はい。もちろん・・!」

ミサキ、右手で背中についた草をはらう。

ミサキ「(小声で)あれ、なんか、うまくのせられたような・・」

セーラ、ホウキを立てると、一度せきばらい。

セーラ「それでね。ミサキちゃんのハーブティー、飲ませてもらっていいかな?」

ミサキ「はい?」

丘に吹く風が、強くなり始めていた。


○ミサキの店(夕)

セーラ、カウンターに座り、透明なティーカップをゆっくり口にはこぶと、満足そうに微笑む。

セーラ「んー、おいしい。なんかすっごい元気になる」

ミサキ、小さく笑う。

ミサキ「ローズマリーに、手をくわえたんです。酸味をちょっと強くしました」

セーラ、感心した顔。

セーラ「じゃ、ミサキちゃんのオリジナルってとこね」

ミサキ、指先で頬をかく。

セーラ「それに、ミサキちゃんは、お医者さんだねって、この前言われてたね」

ミサキ、おばさんの顔がフラッシュバックする。

ミサキ「あ、ああ、そうですね。でも、私に、そんな力がるわけ・・」

セーラ「それは、どうかなー」

ミサキ「?」

セーラ「なんか、ミサキちゃん見てるとね、不思議な力を感じるんだよねー」

セーラ、ティーカップをおく。

セーラ「じゃなかったら、空に浮かんだりは、できないんだよねー」

ミサキ、だまってお皿をふく。

モモ「ニャオ」

とつぜん、床から声がして、セーラがおどろいて視線を下に落とす。

セーラ「お、おお。キミは?」

ミサキ、くすっと笑う。

ミサキ「私の猫で、モモっていいます」

モモ、セーラの足もとにちょこんと座る。

セーラ「へえ、賢そう。ココより若いかな?」

ミサキ「すごく、人懐っこいんですよ。(苦笑い)ボーイフレンドばっかりつくって」

セーラ「(笑って)ふふーん。キミとは、気が合いそうだね。一度、ココに会ってみない?」

セーラ、モモの頭を指先でなでる。
モモ、気持ちよさそうに目をつむる。

セーラ「あの子の、この町の最初のともだちになってよ」

モモ、ゆっくり目を開けると、ぴょんとカウンターに飛び乗り、セーラの方を向いて眠りはじめる。

セーラ「あれ、OKってことかな?」

ミサキとセーラ、目をあわせて笑う。

窓の外を見ると、夜の空が顔を見せている。
ミサキ、小さな胸騒ぎを感じた。

                                          <Episode5へ、つづく>

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