魔女のハーブは、あんまり甘くない 5ー5
◯レオーナの部屋(月がのぼるころ)
レオーナの部屋のまんなか。
水晶のテーブルのまわりを、アカリ、セーラ、レオーナの3人。
ココは、セーラの腕の中でくるまっている。
アカリ「じゃあ、どのタイミングで、ここを出ればいいかな?」
アカリがたずねると、レオーナ、うーんとすこし考える。
レオーナ「そ、そうですわね。やはり、みんなとはなれているときが、よろしいかと・・。それにテティスのチェックは、けっこうきびしいので・・」
セーラ「やっぱり、2人とも、本気なのね・・」
セーラ、ややあきれたようにココの頭をなでる。
レオーナ「わたくし、ずっと気になってたんですが・・」
セーラ「?」
レオーナ「こちらの黒猫ちゃん、ココちゃんというのですか?」
セーラ「ええ、あたしの猫だけど。かわいいでしょ?」
セーラ、眉をあげて、キラキラ顔になる。
レオーナ「ええ、あなたには、もったいないくらいの、かわいい猫ちゃん・・」
レオーナ、セーラとココを交互に見ながらつぶやく。
セーラ「・・え、何かいった?」
セーラの眉が、きゅっとさがる。
アカリ「・・ま、まあ、それで、どうやって出ればいいかな?」
アカリ、あわてて口をはさむ。
レオーナ「・・そうですわね。やはり、そのホウキがいいかと」
レオーナ、セーラのホウキを見る。
セーラ「ふっふーん。やっぱり、あたしの力が不可欠ってわけか」
セーラ、ひとさし指を鼻のしたにあてる。
レオーナ「はい。ですがそれよりも、そのココちゃんが・・」
セーラ、え? とゆがんだ顔。
アカリ「そうだ。それでね、さっき、泉のうえを歩いててびっくりしちゃった」
セーラ「(おどろいて)え、ココが?」
アカリ、こくりとうなづく。
セーラ「そういえば、魔力を持った猫がいるって、ソアラおばあちゃんから聞いたことあるけど・・」
セーラ、腕のなかのココを見る。
セーラ「まさか、モモちゃんだけじゃなくて、ココも・・?」
ココが、顔をあげ、ニャオと鳴く。
レオーナ「わたくし、この子は、もしかしたら・・」
アカリ「・・・・?」
アカリとセーラ、レオーナを見ていると、部屋のトビラが開いた。
新しいドレスを着た、テティスが立っていた。
テティス「あら、こんなところで、なにをなさっていたのですか?」
テティス、3人を見ていう。
レオーナ「いや、なんでもないわ。なにか?」
テティス、こほんとせきばらいをする。
テティス「レオーナさま、祈りの儀がひかえていますので、準備をしてくださいますか?」
レオーナ、あ、そうねと口を動かす。
レオーナ「(笑顔で)ええ、もちろん、わかってるわ。すぐに行きますわ」
テティス、お願いしますと言って、戻っていく。
セーラ「・・祈りの儀って?」
レオーナ「はい・・、言うのを忘れてましたが、妖精たちみんなで、星に祈るのです」
アカリ「あの、射し込む光のこと?」
アカリ、地上から射し込んでいる光を見ていう。
レオーナ「はい。あの星の光は、この国の生命の源。さしあげたペンダントも、もとは星の一部ですから」
アカリのペンダントが、小さく光る。
レオーナ「では、おふたりとも、着替えてくださいます?」
アカリ・セーラ「?」の表情。
レオーナ、おくのクローゼットから、金と銀にかがやいた、きらきらのドレスを出してくる。
アカリとセーラ、目をまるくする。
セーラ「すごい・・、これなに?」
レオーナ、くすっと笑う。
レオーナ「このときのための特別なドレスですわ。わたくしも、人に見せるのは、はじめてですの」
ココも、興味ありげにドレスを見ている。
セーラ「じゃ、あたしは、金のドレスを・・」
セーラが金のドレスに手をのばすと、レオーナ、さっとよける。
セーラ「?」
レオーナ「いいえ」
セーラ「・・・・?」
レオーナ「こちらは、アカリさんに着てもらいますわ」
セーラ「・・え、なんで?」
セーラ、信じられないような顔。
レオーナ「こちらのサイズは、あなたには大きすぎます。ですから、銀のドレスを着ていただきますわ」
セーラ「えー、なにそれ。ワケわかんないよー」
2人が、金のドレスをひっぱって、ぎゃいぎゃいさわぎだす。
アカリ「あー、もうなんで、こうなるのかしら。2人とも、ドレスがちぎれちゃうって・・」
アカリ、手で頭をおさえながら、2人をとめにはいる。
ココ、あきれたように、「ニャ」と鳴く。
◯ミサキのお店(夕)
青年、ティーカップをおくと、カウンターに銀貨をおく。
青年「ごちそうさまでした。とても、おいしかったです」
と笑顔をむける。
ミサキ、おどろいた顔。
ミサキ「え、こんなに・・。おおすぎます」
ミサキ、銀貨を見ながらいう。
青年「いいんです。こういうときのために持ち歩いてるんです。ふだんは、けっこうケチですから、大丈夫ですよ」
青年がいうと、ミサキ、くすっとふきだす。
ミサキ「いいんですか? じゃ、遠慮なく・・」
ミサキ、銀貨を手に取る。
青年が、じゃと言って、トビラへ向かおうとすると、「ニャオ」と床から声。
モモが、ぴょんと青年のそばに歩みよる。
青年、にこりと笑うと、モモの頭を、ゆっくりとなでる。
ミサキ「まあ、めずらしいです。その子、めったに、人には近づかないのに」
青年「・・へえ。ぼく、猫は大好きなんです。子どものころは、よくいっしょに寝てました」
青年は、モモから視線をあげると「あれ?」と、ミサキを見て不思議な顔。
ミサキ「・・・・?」
青年「そのリボン、さっきのとちがいますか?」
ミサキ「え? 同じものですが・・」
ミサキ、髪をむすんだリボンを指でさわる。
青年「そうですか? なんか、さっきと模様が違うような・・」
ミサキ「え・・・・?」
青年、小さく頭をさげると店をでていく。
モモが、青年が見えなくなるまで見送っていた。
ミサキ、かべの鏡を見る。
リボンが、オレンジになっていた。
ミサキ「どうして・・?」
窓の外に、うっすらと月の輪郭が見え始めていた。
リボンから、小さい音がひびいた。
ミサキ「・・・・?」
◯城の外(満月がでるころ)
城の外にのびるクリスタルの道を、アカリたち3人と、ココが歩いている。
セーラ「あーもう、しかたないなあ。今回だけは、ガマンしてあげるから」
銀のドレスを着たセーラ、ぷくっとしながら言う。
アカリ「まあまあ、次は、これ着ていいから・・」
金のドレスを着たアカリが、セーラをなだめる。
レオーナ「まあ、ぜいたくを言って。それは、この国でも、最高級のドレスですのよ」
ふーんと、セーラ、腕組みをする。
アカリ、やれやれ、と苦笑いをしているとクリスタルの道が終わり、純白にかがやく広場にでた。
広場の入口では、ミレイユとソレイユが、笑顔をむけていた。
ミレイユ「ようこそ。もうみんな、そろってますよ」
ミレイユ、広場をゆびさしていう。
ソレイユ「さ、こちらへ」
ソレイユが、アカリを手でうながす。
広場では、テティスが深い青のドレスを着込んでいて、小さな妖精たちも同じ色のドレスを着ている。
セーラ「なんか、あたしたちだけ、めだちすぎのような・・」
セーラ、銀のドレスにさわりながら言う。
アカリたち、テティスと目をあわせると広場のいちばん後ろの列にならぶ。
ミレイユたちは、テティスの横に飛んでいく。
テティス「みんな、そろいましたね。じゃ、始めましょうか」
テティスと妖精たちは、地上からふりそそぐ光にむかって、両手をひろげはじめる。
レオーナ「ああやって、手をあげて星の光を受けとり、感謝するのです」
レオーナが両手をひろげると、アカリとセーラも同じように光にむかって両手をだす。
セーラ「これじゃ、みんなとはなれるどころか、いっしょだよー」
セーラが、小さな声をあげる。
レオーナ「・・いえ、逆にチャンスかもしれませんわ。うまくここを出れば、もう、だれもいないはずですから・・」
アカリ、こくりとうなずく。
うしろには、だれもいないのを確かめる。
アカリ「大丈夫みたいね・・。じゃ、いいですか?」
セーラとレオーナ、アカリに目をあわせると、3人とも、そろりそろりと、うしろへさがる。
ココが、アカリの肩にぴょんとのる。
レオーナ「今です。音を立てないように走って」
セーラ「け、けっこうむずかしいな、それって」
アカリ、セーラ、レオーナ、来た道にむかって走り出す。
アカリ、振り向くが、妖精たちは、だれも気づいていない。
レオーナ「この道を渡ります、いそいで」
レオーナ、広場のわきの小さい道を指さして、その方向へ走っていき、アカリとセーラがすぐあとにつづく。
アカリたちの姿が、広場から消えていく。
やがて、広場では祈りが終わり、ざわざわと妖精たちがしゃべりだす。
テティス「あら、レオーナさまは、どこです?」
最前列にいるテティスが、広場を見渡しながら声をだした。
ミレイユ「あれ? さっきまで、いたはずですが・・?」
きょろきょろしながら、ミレイユがこたえる。
ソレイユ「あ、レオーナさまは、またどこかで、お眠りになってるんですよ、きっと」
ソレイユ、のんきな声をだす。
<5ー6に、つづく>