魔女のハーブは、あんまり甘くない 5ー3
◯妖精の城(月が色づきはじめるころ)
城の廊下を、レオーナ、テティスが先頭に歩く。
アカリと、ココを抱いたセーラが、そのすぐうしろ。
やがて、小さな妖精たちが、白いわたのようなものをアカリに差しだしてくる。
アカリ「え、くれるの?」
セーラ「あたしにも?」
アカリとセーラ、白いわたを指でつまむ。
テティス「それは、この国の花、たしか地上で、タンポポとよばれている花からとれるお菓子ですわ。どうぞ、おめしあがりください」
アカリ、ゆびさきの白いわたを口にいれる。
アカリ「・・あ、おいしい。ほんのり甘くて」
セーラ「え、ほんとに?じゃ、あたしも」
セーラも、白いわたを口にいれる。
セーラ「ほんとだ。これ、ミサキちゃんの、ハチミツみたい」
セーラ、笑顔になる。
アカリ「え、それって、おいしいの?」
セーラ「・・あ、そうか。アカリちゃんは、まだ、飲んだことないんだね」
セーラがハチミツのことをアカリに教えていると、レオーナがぴたっと廊下の奥のトビラの前ででとまる。
レオーナ「テティス、このトビラを開けてくださる?」
テティス、おどろいた顔。
テティス「レオーナさま・・、このさきは、まだ、だれにも見せたことは・・」
レオーナ「いいんです。わたくしが許します」
レオーナ、おだやかな顔で、強く言う。
テティス「は、はい・・」
テティス、ポケットから大きなカギを出すと、トビラを開ける。
アカリたち、レオーナにつづくと、なかには、色とりどりの水晶が光りかがやき、あざやかなグラデーションをつくりだしていた。
アカリ「わあ、まるで、虹の世界・・」
レオーナ「アカリさん、こちらへ」
レオーナ、おどろいているアカリの左手をにぎり、自分のそばにひっぱる。
セーラ「ちょ、ちょっと」
セーラ、目をひらく。
セーラ「アカリちゃん、こっちのほうが、安全だよ」
セーラ、アカリの右手をぐいとひっぱり、自分のほうへよせる。
レオーナ「だめです。わたくしと、いっしょにくるんです・・!」
レオーナ、アカリの左腕をぐいっとひっぱる。
アカリの体が、ぐらぐらと左右にゆれる。
アカリ「わ、わわ。2人とも、いたい・・!」
セーラとレオーナの視線がぶつかり、ばちっと音をたてる。
アカリ「ふ、2人とも、仲よくね・・」
アカリ、ひきつった笑みをうかべると、2人とも、ふうっと息をはいてアカリから手をはなす。
レオーナ「まあ、いいですわ。おふたりとも、ここでお待ちください」
レオーナ、部屋の奥にすすむと、すぐに小さな箱を出してきた。
箱は、きらめく鉱石でできていた。
レオーナ、箱のふたを開けると、かがやくペンダントが入っていた。
レオーナ「これを、アカリさんにさしあげます」
レオーナが、ペンダントをアカリに見せる。
アカリ「え、わたしに・・?」
アカリ、ペンダントを手にとる。
ペンダントが手のなかでキラリと光る。
アカリ「・・すごい、リサさんにあげたのより、大きい・・」
レオーナ「ええ。星空から落ちてきた石、つまり星のカケラです」
アカリ「星のカケラ・・」
レオーナ「きっと、あたらしいペンダントに、できますわ」
アカリ「(笑顔で)うれしい。どうもありがとう。大事に使います」
アカリ、首のうしろに手をまわしペンダントをつける。
レオーナ「おいしいハ―ブティーを、いただいたお礼ですわ」
レオーナ、にこりと笑う。
テティス「よかったですね」
テティス、手をあわせてよろこぶ。
セーラ「ちょっと、あたしのは?」
セーラが、レオーナをにらむ。
レオーナ「あら、これは、ひとつしかない貴重な石です。もうありませんわ」
レオーナ、すました顔でいう。
セーラ、「はあ?」と顔を赤くしてレオーナにつめよる。
セーラ「それ、どーゆーこと?」
レオーナ「いま、申し上げたとおりですわ。この石は1つしかありません。2つは、ないんです」
セーラ「・・うそ。ほんとは2つあるんでしょ?」
セ―ラ、うたがいの目をレオーナにむける。
レオーナ「いいえ。わたくし、ウソは大嫌いです。だから本当です」
レオーナ、首をつよくふって言う。
レオーナ「まあ、もう少し時間がたてば、可能性がゼロというわけでは、ありませんが」
セーラ「え、なにそれ?」
セ―ラがレオーナにからんでいると、テティスが、ふっと笑みをうかべる。
テティス「よかったですわ」
アカリ「・・・・?」
テティス「いえ。レオーナさまは、いままで、わたしたち妖精としか、話したことがないんですよ」
アカリ、2人を見る。
テティス「・・ですから、ああやって、友だちができたことが、内心うれしいんですわ、きっと」
セーラとレオーナが、たがいに箱をゆびさし、ガミガミ言いあっている。
アカリ「友だち・・、ね」
アカリ、指さきで、頬をかく。
やがて、レオーナが、ふうっとため息をつく。
レオーナ「まったく、おかしな人ですね。ところで、どうやって、この国にきたんですの?」
セーラ「え? べつに。小さな泉に手をいれたら、すいこまれてここにいただけ」
レオーナ「・・泉? どういうことですの、それは?」
レオーナが、首をかしげる。
アカリ「あ、泉なら・・」
アカリ、はっと気づいた顔。
アカリ「わたし、ココちゃんと行ったことがあります」
テティス「あら、知ってますの?」
テティスが反応する。
アカリ「ええ。森の奥にある大きな泉。星空の光がさしこんで、とってもキレイな」
テティス「・・そう、おそらく、その泉ですわ。小さな妖精たちも、そこからたまに、地上の様子を見ていますから」
テティスが話していると、レオーナの目があやしくひかる。
アカリ「・・・・?」
セーラ「ふーん。そんなのあるんだ。2人で、こっそり」
そばで話を聞いていたセーラが、すこしふくれる。
アカリ「(苦笑い)ち、ちがうの。森を歩いてたら、たまたま見つけただけ。ね、ココちゃん?」
ココ、ニャとなだめるように鳴く。
セーラ「・・ま、いいわ。今度、ちゃんと案内してくれれば」
セーラ、ふうっと肩をおろす。
レオーナ「さ、おふたりとも、ここはあまり長くいる場所ではないので、わたくしの部屋にご案内しますわ」
アカリの胸のペンダントが、キラリと光る。
ココが、ニャオと嬉しそうに鳴く。
◯ミサキのお店(夕)
ミサキ「あら、これは・・」
ミサキ、リボンを見ながらつぶやく。
ピンク色のリボンのせんたんに、<МIО>と名前が書いてあった。
ミサキ「お姉ちゃん・・?」
ミサキ、鏡を見ながら髪をうしろにたばねると、リボンでむすぶ。
ミサキ「お、ちょうどいい感じかな?」
モモ「ニャオ」
ミサキ「あら、にあう?」
ミサキ、モモに髪を見せて笑っていると、店のトビラが開いて「こんにちは」と背の高い青年が、入ってきた。
背の高い、ゆるやかな表情。
ミサキ「いらっしゃいませ」
ミサキ、青年をカウンターにすすめる。
青年「・・魔女とハーブの、お店なんですね」
ミサキ、笑顔でうなずくと、青年は、カウンターに座り
「じゃあ、あまり甘くないハ―ブティーを」と注文する。
ミサキ、かしこまりましたと言ってお湯を沸かしはじめると、
「・・あの、お電話、お借りできますか?」
と青年が身をのりだす。
ミサキ「はい、奥にあります」
青年、奥の電話を取ると、ダイヤルをまわす。
ミサキ、ハ―ブティーを淹れながら、視線を青年にむける。
青年「・・はい、目的の街まで、きました」
モモ、床で、じっと耳をすましている。
青年「ええ。アカリさんは、まだいません。はい、見つかったら、すぐに電話します。ではまた」
青年、電話を切るとふうっと息をはく。
ゆっくりとカウンターにもどる。
ミサキ「おまたせしました」
ミサキ、ハーブティーとハチミツを青年の前にだす。
青年「すごい、いい香りだ」
青年、笑顔になって、ハーブティーを飲むと、「おいしい」と大きな声をあげる。
ミサキ、「嬉しいです」と笑顔で言うと、青年は、ごくっとハーブティーを飲み干す。
さらりと、リボンから音がした。
ミサキ「あれ、さっき、ちゃんと結んだのに・・?」
ミサキは、指で髪をさわると、リボンが床まで落ちていた。
モモが、リボンのさきを、小さくなめている。
さきが、オレンジ色をおびていた。
ミサキ「え・・・・、こんな色だっけ・・?」
窓の外は、たそがれをむかえていた。
オレンジの光のすじが、窓から射し込んでいた。
〈5ー4に、つづく>