魔女のハーブは、あんまり甘くない 3ー7
◯ストリート(朝)
港のそばの中央公園に、パレードの参加者たちが集まっている。
みんなワイワイと、お互いのコスチュームを見せあって笑っていた。
ドルイド「よーし、みんな、それぞれのグループに集まってー」
ドルイドが、メガホンを持って大声で指示をだすと、参加者たちが各グループのブースに集まっていく。
黒猫のコスチュームを着たナナは、グループCのブースに集まる。
ナナ「わあ、かわいいよ、リリアちゃん」
赤ずきん姿のリリアが、カゴを持って嬉しそうにしている。
リリア「えへへ、このカゴに、お菓子いっぱいもらうんだー」
ナナ「そーだね、楽しみだね。あたしも黒猫になって気分いいし・・って、ええっ?」
ナナ、おどろいて、その場ではねる。
リリアのうしろに、ガイコツが立っていた。
ナナ「だ・・、だれ?」
ガイコツが、マスクを外す。
カミーユ「ぼ、ぼくだよ・・」
思いっきり苦笑いをしたカミーユが、顔をだした。
ナナ「あ、カミーユ・・、あはは、似合う似合う!」
ナナ、思いっきりふき出す。
カミーユ「(まっ赤になって)あ、あんまり笑うなよ・・」
リリア「お兄ちゃん、似合うよー。リリアが作ったから、ぴったりしょ?ー」
しばらく、笑い声がブースにひびきわたる。
サウィン「あらー、お似合いね」
うしろから声が聞こえると、ナナとリリア、笑うのをやめる。
ふり向くと、派手な魔女の衣装をまとったサウィンが、ナナたちに杖を向けて笑っている。
サウィンのうしろには仲間の少女3人もいたが、こちらは、ゾンビの衣装をまとっている。
少女1「でも、サウィンさん。なんで、あたしたち、こんな格好・・」
少女2「もうちょっと、カッコいいコスチュームが・・」
少女3「ゾンビ歩きって、あたし、自信ないし・・」
3人とも、情けない顔でサウィンを見る。
サウィン「あなたたち・・、このくらいガマンしなさい。あとで、服を買ってあげるから」
少女1「ほ、本当ですか?」
少女2「さっすが、お金持ち!」
少女3「ようし、みんなをビビらせちゃおう!」
3人とも、元気にゾンビの動きをはじめる。
サウィン「この子たち、けっこう単純なのかしら・・」
サウィン、肩をすくめる。
ナナ「(苦笑い)まあ、うちのグループは、大丈夫かな・・」
やがて、公園のすみのベンチに、黒いコートを頭からかぶった人がいるのにナナは気がつく。
ナナ、黒猫の姿でベンチまで歩いていくと、コートの中をのぞくように声をだす。
ナナ「おじさん、時間ピッタリですよ」
ふくろうおじさん、コートのすき間から黄色い目を見せる。
ふくろう「そ、そうか。なんとかバレなかったかな・・。しかし、こんなに人を見るのは何十年ぶりかな・・」
ナナ「ほら、かぼちゃの衣装をかぶって」
ナナ、ベンチのそばのしげみから大きなジャック・オ・ランタンの飾りを出すと、おじさんの頭にすぽっとかぶせる。
ふくろう「に、似合うかな・・」
ナナ「ええ、バッチリ! みんなと溶け込んでますよ」
ナナ、グーサインを出す。
ふくろう「・・すまんね。気を使わせて。たしかに、わしも街のみんなと会いたいなとは思ってたんだ」
ふくろうおじさん、かぼちゃの2つの穴から黄色い目を見せる。
ふくろう「・・といっても、もう、わしの知り合いはみんな天国にいるからね。だから、この子たちは、知り合いの孫たちになるんだね」
ドルイドが、さあ、まもなくですよーとみんなに伝えている。
ナナ「あ、シロフクロウたちは?」
ふくろう「ああ、あそこさ。あの屋根の上」
かぼちゃ頭のおじさんが、黒いコートの下から翼をだす。
翼の先を見ると、ストリートわきの白いお店の屋根の上に、シロフクロウたち7匹がとまっていた。
ナナ「あ、あんなとこに・・。ぜんぜんわかんなかった・・」
ふくろう「な、ああやってじっとしていれば、誰もきがつかないさ」
ドルイドが、先頭にたって手をあげる。
ナナ「ようし、じゃ、おじさん、はじまりますよ」
ナナ、おじさんの横にならび、パレードの列につく。
リリア、かぼちゃ頭のおじさんを見て、きょとんとする。
リリア「あれー、ナナさん、その人は?」
ナナ「うん、あたしのお友だち。いっしょにパレードするの」
リリア「ふーん・・」
サウィン「ほら、カミーユくん、わたしたち、同じグループなんだから」
サウィン、カミーユの腕を自分のほうへひっぱる。
カミーユ、その拍子に、視界のすみに目をとめる。
カミーユ「あれ、あの人たちって・・」
公園の柵のむこうに、黒い帽子をかぶった男性が5人いた。
サウィン「ああ、気にすることないわ。海のむこうから来た、ただの観光客でしょ」
カミーユ「そうなんだ・・」
カミーユ、ガイコツのマスクをかぶる。
ドルイド「では、みなさん、いよいよスタートです!マリンの塔まで、パレードします。けっして、列をみださないように!」
参加者のみんなが、オーと声をあげる。
パレードがはじまった。
ドルイドが先頭に立って、参加者みんながゆっくりと歩き出す。
街の人たちが、手をふりながらパレードを見ている。
カメラを手にしている人たちも、多くいた。
「トリック・オア・トリート!」
街の人たちが、参加者のこどもたちに、お菓子をわたしてくる。
こどもたち「わあ、ありがとうございます!」
こどもたちが、カゴにお菓子をつめる。
ナナ「ほら、楽しいでしょ? おじさんも、いっぱいはしゃいで」
ナナ、コートの下で、翼を小さくはためかせているおじさんに言う。
ふくろう「ああ、こんなワクワクした気分は、本当にひさしぶりだよ・・・・、ん?」
ナナ「おじさん、どうかした?」
ふくろう「いや、あの子たちがな。なんだか、落ち着かない様子なのさ」
ふくろうおじさん、屋根の上のシロフクロウたちを見ながら言う。
ナナ「パレードで、興奮してるんですよ」
ふくろう「そうか・・、うん、そうだな」
ナナ、すこし離れた位置で魔女姿のサウィンと、カミーユのガイコツがならんで行進しているのを見る。
サウィンは杖を振り、カミーユは、ガオーとやや迫力にかける声を出している。
ナナ「まあ、こんなときもあっていいか・・」
ナナ、苦笑いをして、ニャンと猫の声を出す。
すると、リリアが、ナナにむかってストリートのむこうを指さす。
リリア「ねえ、ナナさん。あれ、シカさんだよねー。野毛の山動物園の子たち?」
ナナ、ストリートわきの路地の奥を見ると、シカたちがコンテナのようなボックスに運ばれているのが見えた。
ナナ「え・・。園長さんから、そんなこと聞いてないけど・・」
ナナ、ハッとする。
ナナ「まさか・・」
ナナ、黒い帽子の男たちが、路地の奥に消えていくのが見えた。
すこしすると、屋根の上のシロフクロウが、路地の奥に追うように飛んでいく。
ナナ「もしかして・・」
◯洞窟の中
アカリ、大きな泉の前で、しばらくたちつくしていた。
やがて、足もとに羽が落ちているのに気づきひろいあげる。
アカリ「ここにも、羽が・・」
アカリ、そっと泉の中をのぞく。
青く透き通った世界がどこまでもひろがり、アカリは、緊張が消えていくのを覚える。
アカリ「きれい・・、なんてすてきな世界・・」
アカリ、つぶやくと、泉の底になにか光るものが見えた。
アカリ「・・・・?」
そして、光るものは、だんだん底からあがってきた。
アカリ「・・・・え?」
アカリ、思わず後ずさる。
やがて、泉の表面が、音をたててもりあがりはじめる。
アカリ「(目をあけて)・・・・!」
とつぜん、はげしい水しぶきとともに、美しい水色の衣をまとった女性が泉の中から現れた。
アカリ「お、女の人・・?」
泉の上に、美しい女性が立っていた。
アカリ、しばらくぼうぜんと女性を見ている。
やがて、ココが泉の方へ歩きだす。
アカリ「ココちゃん・・?」
<3ー8へ、つづく>