魔女のハーブは、あんまり甘くない 5ー2
◯妖精の国(月が見えはじめるころ)
セーラ、宮殿のトビラの前に横たわっている。
うえから、しずくが落ちてくる。
しずくが、セーラのほっぺたに落ちる。
ーぴちょん。
セーラ「う・・・・ん。つめた・・」
セーラ、ゆっくりと目をあけて、よいしょと体をおこす。
セーラ「こ、ここは・・?」
セーラ、頭をふってあたりを見回すと、目の前の
宮殿にあっとおどろく。
セーラ「え、これって、お城とかなにか・・?」
セーラ、ホウキをかかえ、うーんとかんがえこむ。
セーラ「・・えーと、たしかあたしは、モモちゃんに連れられて、そのあと、泉を見てたら、なんだか体がひっぱられて・・」
セーラ、ホウキをふる。
すると、2つの小さな光が、セーラの目のまえにあらわれた。
セーラ、わっと声をあげる。
セーラ「え? な、なに・・?」
青い光と白い光が、宙にういていた。
やがて、光がきえると、羽がはえた小人が2人、
うれしそうにセーラを見ていた。
青の妖精「ようこそ、妖精の国へ」
青の妖精、にこりと笑う。
白の妖精「レオーナさまに、お会いですか?」
つづいて、白の妖精。
セーラ「レオーナって・・」
ミレイユ「ああ、紹介します。わたしは、ミレイユ。この白い子は、ソレイユです」
ミレイユとソレイユ、同時に同じ笑顔をだす。
セーラ「そ、そうなの・・」
セーラ、2人を交互に見ながら、ひきつった笑みをうかべる。
ソレイユ「レオーナさまでしたら、こちらです。どうぞ、ご案内します」
ソレイユが宮殿のなかへ飛んでいき、ミレイユがセーラを見ている。
セーラ「なんかよくわかんないけど、面白そうなにおいがする・・」
セーラ、その場から立ち上がると、ミレイユのすこしあとを宮殿へむかって歩いていく。
宮殿はクリスタルで輝き、セーラ、驚きに目をひらく。
セーラ「すっご。キラキラだね・・」
セーラ、ホウキをくるくるまわす。
セーラ「あれ、なんか、ハーブのかおりが・・」
セーラ、くんくんと鼻を小さくうごかす。
テティス「あら、あなたたち」
廊下のむこうから、テティスが歩いてきた。
ミレイユ「あ、テティスさん」
ソレイユ「ただいま、もどりました」
ソレイユ、ぺこりと頭をさげる。
テティス「・・ちょっと、2人とも、どこ行ってたの? 心配してたんですよ?」
テティス、2人を、じろっとにらむ。
ミレイユ「えへへ・・、ちょっと地上のほうへ」
テティス「は?」
ソレイユ「森の庭園があるとこに。なんか、面白そうな子たちがいたから、つい、おっかけちゃって」
ミレイユとソレイユ、顔をあわせる。
テティス「森の庭園って・・。だめですよ。もう、こんな勝手なことをしては」
ミレイユ・ソレイユ「「はぁい」」
2人とも、気のぬけた声。
テティス「ほんとに、わかってるのかしら・・。あら?」
テティス、セーラを見てキョトンとする。
テティス「・・あら、そのかたは・・?」
ソレイユ「あ、このかたは、レオーナさまに、お会いになりたいそうです」
ソレイユ、セーラをゆびさす。
セーラ「あ、いや、そういうことじゃ・・」
セーラ、ちょっと、困惑した顔。
テティス「でも、そのおすがたと、ホウキは・・」
テティス、しばらくセーラを見ると、ふっと笑みをうかべる。
テティス「・・わかりました。どうぞ、こちらへ」
テティスが歩き出すと、セーラ、ミレイユたちといっしょに廊下を進んでいく。
しばらくすると、大きな広間にでた。
セーラ「おお、なんか、すごいとこにきたけど・・、あれ?」
セーラ、視線のさきのアカリに目をひらく。
セーラ「ア、アカリちゃん?」
アカリが、セーラに気づいて、ティーポットを落としそうになる。
アカリ「セ、セーラちゃん?」
アカリ・セーラ「「な、なんで、ここに・・?」」
2人で、いっしょに言う。
レオーナ「あら、お友だちですの?」
レオーナ、ハーブティーを飲みながら言う。
やがて、テティスのそばのセーラをまじまじと見る。
レオーナ「あら、そのかっこう・・。その方も魔女さんですの?」
アカリ「・・ええ。本物の魔女です」
アカリが言うと、レオーナ、小さくうなずく。
レオーナ「・・よろしいですわ。お二人とも、では、こちらにきていただけませんか」
レオーナの目が、キラリと光る。
テティス、なぜかおどろいた顔になる。
アカリ「・・・・?」
レオーナ、テティスにカップをわたすと、すたすたと廊下を歩いていく。
そのあとに、アカリとセーラがつづいていく。
テティス「レオーナさまの、あの目・・」
テティス、ごくっとのどを鳴らす。
ミレイユ、ソレイユ 「?」と不思議な顔をする。
◯街の港(朝)
ヒカワノ丸が、港に係留していた。
大きな汽笛がひびく。
たくさんの人が、迎えにきていた。
船客たちは、身をのりだし、人びとに手をふっている。
ノア「すごい。こんなに人が。きれいな景色」
ノア、船の甲板の柵につかまり、港にいる人びとを見ている。
リサ「ね。ワクワクするね。あ? あれ」
リサが、港をゆびさす。
ノア「あ、ユイさんが、あそこに」
いちばん先頭の列にユイが立って、ノアたちに手をふっていた。
リサ「ほんとだ。来てくれたのね。ユイちゃん、しばらくお店、お願いね!」
ユイ「まかしといてー!」
ユイ、船にむかって大きな声をだす。
ノア「すぐ帰ってきますね!」
ノアとリサ、ユイにむかって手をふる。
ユイ、2人にむかって大きく両腕をふる。
〈それでは、出港です〉
アナウンスがかかり、港が、小さくなっていく。
ヒカワノ丸は、青い海のうえを進みだした。
たくさんのカモメたちが、甲板にとんできた。
ノア「・・すごい、あたし、海にでたのってはじめて」
ノア、カモメを見ながらいう。
リサ「そうか。ノアちゃんは、汽車でこの街まで、きたんだものね」
まわりの船客たちが、手にのせたエサをカモメに与えているのを、2人は楽しそうにながめていた。
「姉さんかい?」
うしろから声がして、はっとしたようにリサが振り向く。
帽子をかぶった少年が、立っていた。
少年「・・リサ姉さんだね」
リサ、無言のまま、少年を見ている。
少年「・・姉さん。こんなとこに、いたんだね」
リサ「エドワウ・・?」
ノア「え・・?」
ノア、目をぱちぱちさせて2人を見る。
エドワウ、リサの目の前に歩みよる。
エドワウ「いっぱい探したよ。でも、見つからなくて、もう帰るとこだったんだ」
リサ、顔をふせる。
エドワウ「・・姉さん。一度、叔母さんの顔を見に来てよ」
甲板に、海からの風がふく。
リサ「ねえ、エドワウ。私は、言ったはずだけど・・」
リサが口をつぐんでいると、エドワウの帽子が、風で飛ぶ。
エドワウ、帽子に手を伸ばすと、ノアがさきに帽子をつかむ。
エドワウ「・・え?」
エドワウ、帽子を手にしたノアを見て、ぽかんとする。
ノア、にっこり笑って、帽子をエドワウにわたす。
エドワウ、ぽっと頬が赤くなる。
エドワウ「ね、姉さん、この人は・・?」
エドワウ、リサを見る。
リサ「うん。この子は、新しい友だちで、ノアちゃんっていうの」
エドワウ、ノアに振り向く。
ノア「はじめまして、ノアです」
ノア、にこりと、おじぎをする。
エドワウ「は、はじめまして・・」
エドワウ、手から帽子を落とすが、まるで気づかない顔。
リサ「あれ、エドワウ・・?」
とつぜん、船内に、チャイムが鳴った。
〈まもなく、お昼です。みなさま、食堂にお越しください〉
アナウンスが、船内にひびいた。
リサ「あ、もう、お昼ね。ねえ、2人とも、食堂に行きましょう」
ノア「わあ、船内の食事って、どんなんだろ?」
ノア、両手を胸のまえにあわせる。
リサ「ほら、エドワウ。あなたも」
リサ、帽子をひろって、エドワウに言う。
エドワウ「ぼ、ぼくも・・?」
ノア、振り返って、リサとエドワウを目でさそうと食堂のほうへ歩いていく。
エドワウ、帽子を深くかぶり、顔をかくす。
リサ「・・・・?」
リサ、エドワウをじーっと目でおった。
〈 5ー3に、つづく〉