魔女のハーブは、あんまり甘くない 3ー6
◯学校の体育館(昼)
ジャック・オ・ランタンの大きな飾りや、ドラキュラのマントが床のシーツの上にならんでいる。
生徒たちや参加者が、たがいにパレードの衣装をあわせている。
リリア「いよいよ、明日だねー。ワクワクするー」
リリア、赤ずきんの衣装を身に着け、ぴょんぴょん飛び跳ねている。
ナナも、黒猫のコスチュームに着替えている。
ナナ「お、リリアちゃん、ノリノリだねー」
リリア「ナナさんも、黒猫、めっちゃかわいいー」
サンキューと、ナナはリリアにグーサインを出す。
リリア「でも、あのドルイドさんって人、ストリートのみんなにあいさつにいってたよー。すっごい気合い入ってるし」
ナナ「そうねー。ドルイドくんって、まとめ役がピッタリだからね。声おっきいし」
ナナ、黒猫の耳の飾りを頭にかぶせる。
ナナ「よーし、これでカンペキ。・・あれ?」
右耳の飾りが、ポロリととれて床に落ちたので、ナナ、右耳をひろおうとかがむ。
その時、だれかの手が先に右耳をひろい、ナナにさしだしてきた。
ナナ「(顔をあげて)・・?」
サウィン「ナナちゃん、こんにちは」
サウィンが目の前にいた。
ナナ「・・あ、サウィンちゃん。ありがと」
ナナ、サウィンの手から右耳をとる。
サウィン、黒猫の仮装をしたナナをじっと見る。
サウィン「へー、似合うじゃない。カミーユくんに気に入られようとしてるの?」
ナナ「え? べつに、そういうわけじゃ・・」
ナナ、右耳をつけながら言う。
サウィン「ふふ、それでね。カミーユくんには、話つけてきたわ」
ナナ「?」
サウィン「明日のパレードは、わたしといっしょに歩くって」
ナナ、しばらく無言になる。
ナナ「・・そ、そうなの。わかった」
サウィン、ふっと、どこか勝ち誇ったような笑みをうかべる。
サウィン「じゃ、明日のパレードは、みんなでがんばりましょうね」
ナナ「うん、じゃ、明日ね」
サウィン、小さく手をあげて他の参加者のほうへ悠然と歩いていく。
リリア「なんか、嫌な感じー」
リリア、サウィンにむかって、イーと舌をだす。
ナナ「やれやれ・・」
ナナ、肩をすくめる。
◯森の中(夕)
きりかぶのうえで、ナナがふくろうおじさんに、パレードの説明をしている。
ふくろう「な、なんか、いざとなると緊張するなあ・・。本当に、わしが参加しても大丈夫なんだろうか・・」
ナナ「(笑って)大丈夫ですよ。あたしがちゃんとフォローしますから」
ナナ、母親のような笑みを、ふくろうおじさんにむける。
ふくろう「そ、そうか・・。なら、平気かな・・」
ナナ「おじさんは、もと、街の保安官さんでしょ?」
ふくろう「ま、まあ、そうだが。でも、もう、はるかむかしの話だしね・・。空を飛んでしまうのは、マズいのかな?」
ナナ「そ、それは、さすがにキビしいかな・・」
ナナ、苦笑いをする
ナナ「・・おじさん。あたし、このペンダントの使い方がわかってきたんです」
ふくろう「?」
ナナ、暮れかかった空にむかってペンダントをかざす。
やがて、ペンダントが強く光りだす。
ふくろう「これは・・!」
ペンダントから、光のすじがのびて、きりかぶのそばの枯れた花にあたる。
しばらくすると、枯れた花が、みるみると青くのびて満開の花びらを開かせた。
ふくろう「お、おお。枯れた花が・・」
ふくろうおじさん、おどろいたように黄色い目をひらく。
ナナ、にっこりする。
ナナ「ね? あたし、すこしできるようになったでしょ? まだ、こんな小さなものしかできないけど」
ふくろう「これは、生命の魔法・・」
ナナ、小さく笑う。
ナナ「おじいちゃんの話を聞いてるうちに、だんだん使いかたがイメージできて。それにあたし、よく星と話してたから、たぶんそれで・・」
ふくろうおじさん、うなづく。
ふくろう「うむ。ナナちゃんは、むかし見た魔女さんたちに、ほんとそっくりだ」
ナナ「へへ・・」
ナナ、照れながら笑う。
ナナ「あたし、この魔法が使えるようになったら、きっと、おじさんを人の姿に戻せると思うんです」
ふくろうおじさん、うれしそうに翼をひろげる。
ふくろう「そうか、それは、楽しみだな。じゃ、腕もはえてくるのかな?」
ナナ「たぶん、星の魔法なら・・」
ナナ、空を見上げる。
ナナ「星の魔法が使えるようになれば、できるはずです」
ふくろうおじさん、ナナとおなじように空を見上げる。
ふくろう「星の魔法・・、そう、むかし、そんな言葉を聞いたな・・」
ふくろう「それができれば、ナナちゃんは、さらにいろんな魔法が使えるようになるよ」
ナナ「本当に? わあ、楽しみ」
ナナ、両手を胸のまえであわせる。
その時、ばさばさと上から音がすると、シロフクロウが、ナナの肩にのる。
ナナ、わっとおどろく。
ふくろう「おお、この子は、ナナちゃんのことをすっかり気に入ったみたいだな。で、兄弟たちは、まだ寝てるのかな?」
ナナ「(おどろいて)え、兄弟がいたんですか?」
ふくろう「ああ、全部で7羽かな。ほら、あそこに」
ナナ、上を見ると、長い枝の上にシロフクロウたちが、横一列にとまっていた。
ぜんぶで6羽。
みんな、じっとナナを見つめている。
ナナ「あ、あんなに・・」
ナナ、指でシロフクロウたちの数をかぞえる。
すると、いちばんひだりはしのシロフクロウが、ふくろうおじさんに高い声をあげる。
ふくろう「ん、何かあったのかい?」
ナナ、しばらくやりとりを見ている。
ふくろう「え、シカさんたちが、最近いない? ・・ふむ、そういえば・・」
ふくろうおじさん、あたりを見回す。
ナナ「どうかしたんですか?」
ふくろう「いや、なんでもないよ。・・でも、めずらしいな、こんなこと・・」
ナナの肩に乗ったシロフクロウが、小さく鳴くと、枝の上の6羽も合わせるように鳴き始めた。
ナナ「だ、だいぶ、さわがしいな・・」
ふくろう「はは、はじめての人の友達ができたから、みんなよろこんでるのさ」
ナナ、指先でほおをかく。
◯森の洞窟(夜)
アカリ、ココと洞窟の中をゆっくりと進む。
洞窟の奥から、ぼんやりと青い光がのびてきて、アカリとココを音もなくつつんでいた。
アカリ「この洞窟、どこにつながってるのかな・・」
アカリ、ココにつぶやくと、ココは、ぶるっと小さく体をふるわせる。
アカリ「うん。ちょっと、寒いね、この中・・」
アカリ、洞窟のなかをぐるっと見回す。
アカリ「でも、きれい・・。なんだか、妖精の世界みたい」
アカリ「あれ、あれは、なに?」
アカリ、先に見える小さな岩の上に、何か光るものを見つけると、それを指でつまむ。
アカリ「これも・・、妖精の羽?」
さっき、泉のそばでひろったのと、そっくりの羽が指の間で輝いていた。
ココ「ニャオ」
アカリ「ココちゃんも、そう思う?」
アカリ、洞窟の先を見る。
アカリ「この先は、もしかして・・」
アカリ、いちど、ココを見てうなづくと、先にむかってどんどん進んでいく。
ココも、アカリにならぶように足早に歩く。
アカリ「わっ」
とたんに目の前がひらけ、上からふりそそぐまぶしい光に、アカリは目をつむる。
アカリ「ん・・」
アカリ、ゆっくり目を開けると、森の泉がいくつも入ってしまうくらいの大きな青い泉がひろがっていた。
アカリ「・・・・」
アカリ、ぼうぜんと立ちつくす。
やがて、ココがニャと声をかけてきたので、アカリ、はっと声をあげる。
アカリ「こんな大きな泉・・」
<3ー7に、つづく>