魔女のハーブは、あんまり甘くない 3ー2
◯山のおじいちゃんの小屋(夜)
山のてっぺんにある、おじいちゃんの小屋の窓から光がもれている。
小屋の裏手にある厩舎では、牛たちがぐっすり眠っている。
小屋の台所では、ナナとカミーユがイスに座って、はあはあと肩で息をしている。
ナナ「び、びっくりしたあ・・」
カミーユ「し、死ぬかと思った・・」
おじいちゃん「おいおい、どうしたんじゃ、2人とも? そんなヒドイ顔をして?」
おじいちゃんが、ナナとカミーユにミルクを出すと、2人ともカップを取り、ぐーっと一気に飲み干す。
ナナ「あー、落ちついたあ・・」
カミーユ「ふう・・、おいしい」
おじいちゃん、カベによりかかりながら、二人を見てにこりと笑う。
おじいちゃん「ふふ、おいしいじゃろう。今日の朝、とれたてのミルクだよ」
ナナ「で、でたのよ。おじいちゃん」
おじいちゃん「?」
ナナ「でたの、オバケが!」
おじいちゃん、しばらく、きょとんとしてたが、やがて、笑みをうかべる。
おじいちゃん「ああ、もうすぐ、ハロウィンだから、そのことかい?」
ナナ「ちがうの! 本物のオバケ!」
おじいちゃん「(おどろいて)本物? どんな?」
ナナ「ふ、2つの大きな黄色い目で、体が人みたいで、それから・・」
おじいちゃん「・・ははあ、それは、たぶん」
ナナとカミーユ、二人とも、?と目を開く。
おじいちゃん「ふくろうおじさんだよ、それは」
ナナ「・・・・え?」
ナナ、ぽかんと口を開く。
カミーユ「・・なんですか、それ?」
おじいちゃん「そうか、 2人は、まだ知らなかったかね。まあ、無理もないか」
おじいちゃん、よいしょと自分用のイスに座る。
おじいちゃん「ナナには言ったと思うが、むかし、この街は、黒い大地に覆われていたのは知ってるね?」
ナナとカミーユ、いっしょにうなづく。
おじいちゃん「そして、魔女さんたちが、魔法で光る大地にしてくれたのも、知っとるかね?」
カミーユ「はい、聞いたことあります」
おじいちゃん、カミーユに微笑む。
おじいちゃん「ワシが、君たちくらいのころの話だからな。・・だが、その魔女さんたちも、どこか遠くの地でみんな亡くなったそうじゃ」
ナナ「・・・・」
おじいちゃん「魔女さんたちが亡くなったあとは魔法が切れて、また黒い大地になってな。その時じゃ」
おじいちゃん、一度、窓の外の夜空を見る。
おじいちゃん「黒い大地の毒を吸って、体が変形してしまった人たちがいてな。気の毒な話じゃが・・」
カミーユ「それが、あのフクロウの・・」
おじいちゃん、小さくうなづく。
おじいちゃん「ああ、その通り。彼がそうじゃよ」
ナナとカミーユ、顔を合わせる。
おじいちゃん「もともとは優秀な保安官でな。この街のみんなに好かれていたよ」
おじいちゃん、引き出しからパイプを出してくわえると、火をつける。
おじいちゃん「・・だが、体の半分がふくろうになってしまってからは、森に引っ込んでしまってな。それ以来、ワシも見てない」
おじいちゃん、窓を少し開けると、ふーっと外にむかって煙をはく。
おじいちゃん「・・そうか、君らの前に現れたか。まだ、元気なら、ワシも嬉しいんじゃが」
カミーユ、あごに手をあてて、うーんと考え込む。
ナナ、両手を頭のうしろに回し、目を左右に動かす。
やがて、ナナがハッとなにかにきづく。
ナナ「あ、いけない」
カミーユ「ん?」
ナナ「ハンカチ、森に落としてきちゃったみたい・・」
ナナ、右のポケットに手をいれながら言う。
おじいちゃん、小さく笑う。
おじいちゃん「また、明日にでも取りにいけばいいさ。今日は、もう遅い」
ナナ「お気に入りのハンカチなのに・・」
「ニャーオ」
奥の部屋から声がして、ナナが振り向く。
ナナ「あら、アップル。まだ、起きてたの?」
小さなさび猫が、奥の部屋から台所に入ってきた。
ナナ「お腹すいたの?もう、夜だもんね」
カミーユ、窓の外を見て、少し心配そうな顔をする。
おじいちゃん、イスから腰をあげる。
おじいちゃん「こんな時間じゃ。ワシが家まで送ってあげるよ」
カミーユ「え・・」
おじいちゃん、パイプをおくと、奥の部屋からランタンを持ってくる。
そして、カミーユの手を引いて、いっしょに外に出る。
おじいちゃん「ナナは、留守番よろしくな」
ナナ、うんとうなづくと、カミーユがちらりとナナを見る。
ナナ、しばらくすると、にやーっと口元をゆがめる。
ナナ「あれあれ、残念だった? あたしといっしょに寝れると思ってた?」
ナナ、意地悪そうな視線をカミーユにむける。
カミーユ「へ、変なこと言うなよ。そんなわけないだろ」
カミーユ、顔を真っ赤にする。
ナナ「(舌をだして)じょーだんだって」
おじいちゃんとカミーユが、夜の山を下りていく。
ナナは二人を見ていたが、やがて、足もとでアップルがうずくまっているのが見えた。
ナナ「そうそう、晩ごはんだったよね・・」
ナナ、戸棚からお皿を取り出すが、左のポケットになにかが入っているのに、気づく。
ナナ「あ、そうだった。ハーブティーをもらったんだった・・」
ナナ、ミサキからもらったハーブの小びんを出す。
ナナ「これ、飲んでみよーっと」
ナナ、戸棚からティーカップを取り出すと、ポットに水を入れて火につける。
やがて、ぽこぽこと水がふっとうをはじめた。
ナナ「ふくろうのおじさん、か・・」
ナナ、窓の外を眺めながらつぶやくと、ポットからふき出たお湯が、手にとんできた。
ナナ「あっつつい!」
ナナ、声をあげて飛び上がる。
アップルが、あきれたようにあくびをする。
◯学校(昼)
多くの教室で、生徒たちがパレードの準備をしている。
ナナは、廊下で魔女の衣装を縫っていた。
女子生徒たちが、ステッキを持ってはしゃいでいる。
女子生徒「トリック・オア・トリート!」
女子生徒「お菓子くれないと、イタズラしちゃうぞー!」
男子生徒「ちょっと。まだ、パレードには、早いよ!」
女子生徒「あー、もう待ち切れないー」
教室のすみのほうでは、カミーユが、せっせとジャック・オ・ランタンの飾り付けを用意していた。
そのうち、女子生徒たちが、カミーユを取り囲み、いっしょに準備をはじめる。
やがて、ちょっと休憩するねと言って、カミーユは女子生徒たちの群れをすりぬけて、廊下のベンチに座る。
カミーユ「ふう・・」
ナナ「お、モテモテだねー、カミーユくん」
カミーユ、振り向くと、意地悪そうな目をむけたナナが立っていた。
カミーユ「べ、べつに・・」
ナナ、カミーユのとなりに座る。
ナナ「それでね、カミーユくーん」
ナナ、カミーユの袖をひっぱる。
カミーユ「な、なに?」
ナナ「今日、また、森に行こー」
カミーユ「(おどろいて)な、なんで?」
ナナ「昨日、落としたハンカチを取りに行くのー」
カミーユ、しばらく困惑する。
カミーユ「え、ぼくって、必要・・?」
ナナ「あー、女の子ひとりに行かせる気?」
ナナ、せめるような視線を投げる。
カミーユ、うろたえる。
ナナ「そんなことないわよね。だって、カミーユくんは、男の子だしねー」
ナナ、じりじりとカミーユに詰め寄る。
カミーユ「わ、わかったよ・・」
カミーユ、前を向いて小さくうなづく。
ナナ「よーし、決まり」
ナナ、カミーユの背中を、ぽんとたたく。
サウィン「あの、ナナちゃん・・」
ナナは、振り向くと、黒髪のツインテールの少女が立っていた。
ナナ「あ、サウィンちゃん。なに?」
サウィン「今度のパレード、あなたたちも参加するの?」
ナナ「もちろん。それ、わざわざ聞く?」
サウィン「今回は、わたしとドルイドくんが実行委員だから、参加メンバーをみんなチェックしてるのよ」
サウィン、腕を組んでいう。
ナナ「なるほど。サウィンちゃん、しっかりしてるもんねー。で、サウィンちゃんは、どんな衣装にするの。かぼちゃにする?」
サウィン「わ、わたしは、もちろん、魔女の仮装にきまってるじゃない・・」
カミーユ、サウィンと目が合うと、ベンチから立って教室にもどっていく。
サウィン、ふっと笑みをうかべる。
サウィン「・・相変わらず、照れ屋さんね。ま、今回は覚悟しておいてね、ナナちゃん」
ナナ「・・・・え?」
サウィン、くるりと背をむけて、その場を去っていく。
女子生徒たちにもまれて、困惑したカミーユの声が廊下にひびいてきた。
<3ー3に、つづく>