魔女のハーブは、あんまり甘くない 3ー9
◯森の中(夕)
森をおおう暮れかかった空に、星が見え始めていた。
そして、雲のうしろから、満月が小さく顔を出し始めている。
ナナ「いっぱいの星・・」
ナナ、両腕を大きくひろげる。
カミーユ、ぬいだガイコツの衣装を手にかかえ、ひんやりと吹く風に身をまかせている。
ふくろうおじさん、きりかぶに座って空を見ている。
ふくろう「星の魔法が出てくれれば、わしは、本当にもとにもどれるのかな・・」
ふくろうおじさん、やや緊張をふくんだ声をだす。
ナナ「ええ、今夜なら、きっと・・」
空が、夜空になった。
ナナ、胸のペンダントを夜空にかざす。
やがて、夜空にうかぶひとつの星が赤く光りだすと、ナナのペンダントも赤く光りだす。
すると、ペンダントから赤い光のすじがのびて、きりかぶのふくろうおじさんを照らした。
ふくろう「お、おお・・!」
ふくろうおじさんの体が、光りだす。
カミーユ「わあ・・」
ふくろうおじさん、きりかぶから立ち上がると、ペンダントの光のすじは消えて、おじさんをつつんでいた光もなくなる。
しばらくして風がふくと、おじさんの翼のねもとから、人の腕がでてくる。
カミーユ「え、ええ?」
ナナ「う、腕・・?」
2本のりっぱな腕が、ふくろうおじさんの体の両側からあらわれた。
ふくろう「おお、やった、腕が・・、腕がはえた!」
ふくろうおじさん、両腕をいっぱいにひろげ、翼を大きくはためかせる。
カミーユ「ほ、ほんとに、こんなことが・・」
ナナ「すごい、これが、星の魔法・・」
ふくろう「うはは、やっぱり、腕があるっていうのは、いいもんだ!」
ナナ、おじさんを見て、やわらかな笑みをうかべる。
ふくろう「いや、ありがとう、キミたちのおかげだ!」
ふくろうおじさん、ナナとカミーユを両腕で思いきり抱きしめる。
ナナ「お、おじさん、いたい・・!」
カミーユ「チクチクする・・」
ナナとカミーユ、二人とも、苦笑いしながら言う。
ふくろう「お、おお、すまない。つい、力が入ってな」
ふくろうおじさん、あわてて両腕を二人からはなす。
ナナ、ふうっと息をはく。
ナナ「でも、おじさん、ごめんなさい。顔までは・・」
ふくろう「顔・・、いや、いいんだ?」
ナナ「?」
ふくろう「実は、わしは、この顔が気に入っていてね」
カミーユ「・・・・え?」
夜空から、7羽のシロフクロウたちが、おじさんのひろげた翼に乗っかってきた。
そして、木のかげから、リスや、うさぎも顔をだし、きりかぶのそばに集まってきた。
みんな、ふくろうおじさんの両腕をものめずらしげに見ている。
ふくろう「ほら、この子たちは、すでにわしにとって家族のようなものさ」
ふくろうおじさん、新しい手でシロフクロウの頭をなでる。
ふくろう「この子たちと、いっしょに生きて行きたいからね。顔は、このままでいいのさ。まあ、もともと、たいした顔じゃないしね」
ふくろうおじさん、小さく笑う。
ふくろう「それに、あの密猟者たちも、いつ来るかわからんし。やはりわしには、森の生活があっているよ」
おじさん、新しくはえた手の上に、リスをのせる。
ナナ、目をかがやかせる。
ふくろう「いや、でも楽しかった。本当に君たちには、感謝するよ」
ナナ「うん、あたしも、それがいいと思う」
カミーユ「ナナ・・?」
ふくろう「ああ、なんだか、思いっきり空をとびたい気分だ」
ふくろうおじさん、夜空を見上げる。
その時、そばでがさっと音がして、ナナとカミーユ、音のほうを見る。
リリア「みーつけた」
赤ずきん姿のリリアが、木のかげから、ぴょんとでてきた。
カミーユ「リ、リリア?」
ナナ「ついてきてたの・・?」
二人とも、おどろいてリリアを見る。
リリア「うん、だって2人とも、パレードのあとコソコソしてたから、なんかあやしいなーと思ってついてきたんだけど」
リリア、得意げな顔。
ナナ「なんという嗅覚・・!」
ナナ、おそれおののくようなポーズをとる。
リリア「おじさん、かぼちゃをかぶってた人でしょー。リリアは、すぐにわかったよ。動物のにおいがしたもん」
リリア、ふくろうおじさんをゆびさす。
ナナ、はっとする。
ナナ「(つぶやき声で)そうか、だから、シカさんたちのにおいにも、すぐにきづいたのか・・」
リリア「そっかー、おじさん、ふくろうだったんだ」
ふくろうおじさん、戸惑ったような目をする。
ふくろう「・・わ、わしが、怖くないのかい?」
リリア「(大きく首をふって)ぜーんぜん」
ふくろうおじさん、おどろいて黄色い目を開く。
リリア「ね、おんぶして」
リリア、ふくろうおじさんに両手をだす。
ふくろう「え?」
リリア「空、飛べるんでしょ? あそこまで飛んで」
リリア、夜空の満月を見る。
シロフクロウが、クックと鳴くと、ふくろうおじさん両腕を大きくひろげる。
ふくろう「ようし、満月に行こう」
ふくろうおじさん、両腕でリリアを抱き上げると、翼をひろげ夜空へとあがっていく。
大きな満月が、だんだん近づいてくる。
リリア「わあ、すごい、空に浮かんでる。満月があんなそばにある」
リリア、腕のなかで目をかがやかせる。
満月の中に、二人のシルエットが浮かぶ。
ナナ「すごい、なんか、おとぎ話の世界みたい・・」
カミーユ「うん、すばらしいよ。大した妹だよ、本当に・・」
ナナ、カミーユのわきをつつく。
不思議な表情をするカミーユ。
ナナ「・・でも、あんなことして、いいの?」
カミーユ「?」
ナナ「パレードだけど、サウィンちゃんを置いてきぼりにして・・」
ナナ、すこし意地悪な視線をむける。
カミーユ「ま、まあ、それは・・」
カミーユ、顔を赤くして目をそらす。
ナナ「でも、本当に、あたしのこと心配してくれたのならうれしい。ありがと」
カミーユ、夜空に浮かぶ満月をしばらく見ていたが、やがて右腕をナナのほうへ伸ばす。
カミーユ、伸ばした右腕で、ナナをそっと抱きしめる。
ナナ「・・・・」
満月が、夜の森をやわらかに照らしていた。
◯山の奥(夕)
黒い帽子の女性が、山のてっぺんにつづく小道を歩いている。
女性「むかしと、なんにも変わってないわね・・」
女性、いちどとまって、はあはあと息をきらす。
女性「(苦笑いをする)私の体は、すっかり変わってしまったけど・・」
女性、ふたたび歩きはじめると、小道のさきに薪をかついだおじいさんが歩いているのが見えた。
女性「・・・・?」
おじいさん、ややつらそうに、薪をかついでいる。
女性「大丈夫ですか? 手伝いますよ」
女性、おじいさんに声をかけ、薪のはんぶんをかつぐ。
おじいさん「(笑って)おお、すまないね」
おじいさん、女性とならんで小道をあるき出す。
女性「こんなに、薪があったら、重いでしょ?」
おじいさん「まあ、仕方ないな。ワシみたいな山に住む者には、冬の必需品だからな」
おじいさん、苦笑いをしてから、女性を見る
おじいさん「でも、あんた、見かけない顔だね」
女性「ええ、遠くからきました・・」
おじいさん「おや、その耳のキズ・・、どうかしたのかい?」
女性、左耳のキズを指先でそっとなでる。
女性「ええ、むかし、事故でつけてしまったキズで・・」
おじいさん、女性の耳を見ていると、上から、がさっと大きな音がした。
太い木の枝に、シロフクロウがとまっていた。
おじいさん「おや、シロフクロウだ。めずらしいな」
おじいさんと女性、シロフクロウをながめながら歩いていると、ひらけた草原に出た。
おじいさん「ようし、ここまでくれば平気だ。すまなかったね。重かったろう?」
女性「いえ、このくらい」
女性、薪を地面におく。
おじいさん、空を見る。
おじいさん「この時間だと、あっという間に暗くなる。ワシの知り合いの家に行くのがいいぞ」
女性「知り合い・・?」
おじいさん「ああ、ワシの親友でな。この森でクルミ取りをやっとるんじゃ。東に行くと、彼の小屋がある」
女性、すこし考えこむ。
女性「その人は、もしかしたら・・」
おじいさん「ん、知っとるのか?」
女性「いえ、なんでもありません」
おじいさん「そうか、じゃ、元気でな」
おじいさん、小さく手をあげ薪をかついで草原を歩いていく。
空に、星がきらめき始めている。
女性は、草原の真ん中にある白い岩に座ると、すやすやと寝息をたてはじめた。
<3ー10へ、つづく>