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魔女のハーブは、あんまり甘くない 1ー9

9.魔女、決心する

○港がよく見える丘公園
 公園の奥のベンチで、リサが座っている。
その前には、アカリとセーラが立っている。  
そして、ココは、リサのひざの上で丸くなっている。

リサ「そう。スラム街で育った私には、この手しかなかったの」

リサ、左腕の袖をまくる。

リサ「この左腕のあとは、スラムにいたときにつけたものなの。たくさんケンカしたから。だから、魔女特有の病気なんかじゃないわ」

リサ小さく笑いながら、袖をもどす。

リサ「魔女といえば、みんな信じるもの。これだって魔女の病気だって言えば、うたがう人はいなかった」

アカリ、口を結ぶ。
セーラ、心配そうにアカリを見る。

リサ「まさか、同じ街に、あなたがいたなんてね」

リサ、セーラを見る。

セーラ「最初に見た時、もしかしてと思ったんですが、まさか、リサさんだったとは・・」

リサ、肩の力をぬいて息をはく。

リサ「あなたは、貴族エリアに住んでたのね。だから、私、裕福な子たちからゴハンの残りをよくもらってたわ」

リサ「そこで、私を知ったのかもね」

リサ、自嘲するような笑みを浮かべ、なつかしそうにつぶやく。
セーラ、目をふせる。

リサ「いつも、お腹ペコペコだった。どうすればお腹いっぱいになれるのかなって思ったら、魔女のふりを思いついたの」

リサ、ひざの上のココを、指先でゆっくりなでる。
ココ、気持ちよさそうに頭を揺らす。

リサ「本当に、ごめんなさい、こんなことをして」

リサ、ココをそっと抱き上げると、セーラにわたす。
ココ、目を開ける。

リサ、ココを見て笑うと、空に向かって両手を高くかざす。

だが、空は曇ったままで何も変わらない。
やがて、リサは腕をおろし、力なく笑う。

リサ「ほら、私に魔女の力なんてないわ」

セーラ「・・じゃ、虹ができたのは」

リサ「ただの偶然よ」

リサ「ちょうど虹ができたタイミングを見計らって、人々の前に出るの」

リサ、ゆっくりとベンチに座る。

リサ「<私が魔女です。私が虹を創ったんです>って真顔でいえば、みんな信じたわ」

アカリとセーラ、無言でリサの話を聞いている。

リサ「ほら、魔女伝説って、みんな幼いころから聞かされてるでしょ? 」

リサ「だから、魔女のきまりも私が創った、ただのでたらめの本」

リサ、魔女のきまりを出すと、パラパラとめくる。

リサ「みせると、みんな信じたわ。小さい頃からの夢がかなうと思ってしまうのね」

リサ、魔女のきまりを閉じて、ベンチのはじにおく。

アカリ「・・・・」

セーラ、心配そうにアカリを見る。

リサ「だから、あなた達には驚いたわ。本当に虹を創ったり、空を飛んでしまうんですもの。あなたたちは本物の魔女なのよ、私とちがって」

リサ、二人を励ますように言うと、ふっと視線を落とす。

リサ「でも、もう、ここまでね。私も覚悟を決めなきゃ」

リサ、小さなポーチから、ふたたび宝石を出す。
キラキラと輝き、ココがまばたきする。

リサ「この町でも、こんなに盗んじゃった。本当にただのサギ師なのよ、私。魔女なんてとんでもないわ」

リサ、ベンチから立つと、アカリの方へ歩み寄る。

リサ「本当にごめんなさい。あなたをダマして。ひどい女でしょ、私って」

アカリ「(まっすぐに見つめて)・・・・」

港の船の汽笛が鳴る。

セーラ「どうして・・、あたしたちに話す気になったんです?」

リサ、しばらくセーラを見る。

リサ「そうね・・、どうしてか、私にもよくわからないんだけど」

リサ、アカリの方を見て

リサ「その目かな。アカリさんのその目の輝きが、ずっと忘れられなかったのね」

アカリ、ハッとしたようにおどろく。

リサ「あなたに手を握られたとき・・」

<アカリ、カウンターでリサの手を握ったことがフラッシュバックする>

リサ「なんだか、心を射抜かれたような気になってね」

ココ、アカリとリサをじっと見つめる。

リサ「お店を出てからも、ずっと心にひっかかってた。だんだん固まってた心が溶けていくような気持ちになってね」

アカリ、だまってリサの話を聞いている。

リサ「それで、今日、あなたたちに、すべてを言う気になったの」

リサ、ふうっと肩で息をはく。
セーラ、だまってココの頭をなでている。

アカリ、ぐっと口を結ぶと、リサのポーチをひったくり自分のポケットに入れる。

リサ「・・・・?」

アカリ「リサさん。この石なんですけど」

アカリ、胸のペンダントをリサに見せる。

リサ「(気づいたように)あら、そのペンダント、まだ持ってたの?」

石が、鈍く光っている。

リサ「お店を出たあとに、ないのに気づいたけど、どうでもいいと思って忘れてたわ」

アカリ、ごくりとつばをのみこむ。

アカリ「この石は、前にスラムにいた時に手に入れたんですよね?」

リサ、しばらく考えて口を開く。

リサ「そうね、たしか、それも盗んだんだと思うわ。たぶん、貴族エリアの人から」

セーラ、ハッとしたように目を開ける。
アカリ、なにか言おうとするセーラを強い視線で押さえるとリサに言う。

アカリ「この石で、リサさんが、虹を創ってたんです」

アカリ、石を強くリサにつきだす。

リサ「・・どういうこと?」

アカリ「リサさんは、虹は偶然できたと言ってましたが、ちがいます」

リサ「・・・・」

アカリ「リサさんが、この石を使って、虹を創り出してたんです」

<アカリ、ベッドでリサの胸の石が光り、虹ができた景色がフラッシュバックする>

アカリ「わたし、この目ではっきり見たんです。その光景を!」

セーラ、目を開く。

アカリ「だから、リサさんは、本物の魔女なんです。自分を信じていいんです」

リサ、驚きの表情でアカリを見つめ、セーラが緊張した面持ちで二人を見ている。

遠くから、船の汽笛とはちがった音が近づいてくるのにセーラは、ハッとする。

やがて、数台のパトカーのサイレンが聞こえると、公園の前に止まり、警官たちが出てきた。
アカリは警官たちの顔に見覚えがあった。

リサ「(笑って)私が、自分で呼んだの」

警官たちが、目の前まできてとまる。
ココが目をするどく光らせる。

警官1「お電話をされた方ですか?」

リサ「・・はい」

警官2「こちらに、盗難事件の犯人がいると言ってましたが」

リサ、ゆっくりと警官たちに歩みよる。
そして、アカリの方を向く。

リサ「ごめんなさい。もう少し、あなたと早く出会えていれば」

リサ、警官たちに頭を下げ、両腕を出す。
警官たち、目を合わせリサを取り囲む。

セーラ、口を開けるが言葉が出ない。

アカリ「まってください」

アカリが、前に歩み出る。

                     エピソード9   END

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