見出し画像

魔女のハーブは、あんまり甘くない 2ー7

○ミサキの寝室
夜の風が強く、窓をたたいていた。
窓のすき間から、ぴゅうと吹き込む風の音が部屋にひろがる。
ソファの上のモモが、ぴんと耳を立てる。

ベッドの上で、毛布にくるまっているミサキ。
毛布とベッドのすき間から、赤い光がもれている。

○夢の中

ミサキ「お姉ちゃん・・」

ミオ「どう、来てもらえるかな?」

ミオは、薄手の白いドレスに身を包んでいた。
ミオのきゃしゃな肩が、ドレスからのぞいている。 
ミサキも、自分が水色のドレスに身を包んでいるのにはっときづいた。

ミオ「ふふ、そのドレス、とっても似合うよ」

ミオ、にこりと笑うと、ミサキは小さくうつむく。

二人のまわりには、色とりどりの花が咲き乱れ、ミオのうしろには空につづく白い道がのびていた。

ミオ「さ、この道よ。行きましょ」

ミオ、道をゆびさしながら言う。

ミオ「みんな、まってるから・・」

ミオ、ミサキの手をとると、道のほうへあるき出す。

ミサキ「まって」

ミサキ、その場でふみとどまる。
二人の腕が、ぴんとのびる。

ミサキ「まって、お姉ちゃん・・」

ミオ「?」

ミオ、ゆっくりと振り向く。
ミサキ、顔をそっとあげる。

ミサキ「お姉ちゃん。あの事故は、私たちのグループのせいで・・」

ミオ、目を細めて首をふる。

ミオ「いいのよ。あれは、不運な事故だったの。だれのせいでもないわ。わかってるでしょ?」

ミサキ、視線を落としたままで沈黙。

ミオ「あなたは、まだ、そんなことを気にしているの? なんの心配もないわ。みんな、あなたを愛してるのよ」

ミオ、道の先に広がる透き通った空を見る。

ミオ「あのむこうに、星の世界がある。そう、光の街が・・」

ミサキ「光の街・・?」

ミオ「ええ、もう地上に光の街はない。でも、あの星の世界には・・」

透き通った空に、赤く光る星が見えた。

ミサキ「(心の声)あれは、北斗七星のそばに見えた星・・」

ミサキ、丘で見た光景がフラッシュバックする。

ミサキ「でも・・」

ミオ「?」

ミサキ「でも、私・・」

ミサキ、ミオの手をふりほどく。

ミオ「ミサキ・・?」

ミサキ、道とは反対方向へ走り出す。
ミオの姿が、どんどん小さくなっていく。

花びらが舞い散り、ミサキを包む。
ミサキ、足がもつれ、どさっと花の中にたおれる。

ミサキ「う・・」

ミサキ、花の中に顔をうづめる。

ミサキ「私は・・」

やがて、小さな足音が近づいてくる。
そして、足音は、たおれているミサキのそばでぴたっと止まる。

ミサキ「・・・・」

ミサキ、ゆっくりと顔をあげる。

○ミサキの寝室

ミサキ、はっと目をさます。

ミサキ、がばっと体を起こすと、毛布の上でモモがあくびをしていた。

ミサキ「モモ・・?」

モモが、眠そうな目をミサキに向ける。

ミサキ「ごめんね、また、起こしちゃった・・?」

モモ「ニャ」

モモが窓の方へ向かって、小さく鳴く。

ミサキ「・・?」

ミサキ、ベッドから出て、窓にちかづく。
よく見ると、窓が小さく開いていた。

ミサキ「あれ? ちゃんと閉めたはずだけど・・」

ミサキ、窓をしっかりと閉める。

もうすぐ、夜があけようとしていた。

○港のそばの公園(朝)

船が港に停泊し、新鮮な果物や野菜をおろしている。
ミサキ、モモをつれて、その光景を見ている。

ミサキ「わあ、どれも美味しそう。すこし買っていっちゃおうか」

モモ「ニャ」

ミサキ、船の方へ歩き出すが、公園の方から大きな声が聞こえ、そっちを見る。

小さな公園に、人が集まっていた。

しばらくすると、人混みの中から、年配の女性が両腕を男性につかまれ出てきた。
女性は、うなだれた顔をしている。

ミサキ「・・?」

ミサキ、人混み中に、アイがうずくまっているのに気づく。

ミサキ「ア、アイちゃん?」

ミサキ、人混みに駆け寄る。

ミサキ「アイちゃん、どうしたの、いったい?」

アイ、おどろいてミサキを見る。

アイ「ミサキ・・?」

ミサキ、私の友人ですと言うと、人びとは去っていく。

アイ「(小さな声で)ごめんね、こんなこと・・」

アイ、服のえりをなおしながら言う。
顔が青ざめている。

ミサキ「あの女性・・、どうかしたの?」

ミサキ、苦笑いとともに、大きくため息をつく。

アイ「あのときの事故は、あたしのせいじゃないかって、からんできてね」

ミサキ「・・・・」

アイ「あの人、親戚をあの事故で亡くしたらしいの。そして、あたしがその時いたのを知ったら、急に迫ってきて・・」

アイ、立ち上がって、パンパンと手で服をはたく。

アイ「まあ、ムリないかもね。・・ミサキ、ごめんね」

ミサキ「?」

アイ「あんたのお姉ちゃんだって、もしかしたら・・」

ミサキ「やめて」

ミサキ、強い声をだす。

アイ「・・・・」

ミサキ「あれは、だれのせいでもない。それは、何度も言ったよね?」

ミサキが視線をむけると、アイ、目をそらす。

アイ「そう、そうだよね・・、あたし、どうかしちゃってるのかも・・」

アイ「(震える声で)天国の妹に、バカにされちゃうね・・」

アイ、両手で顔をおおう。

ミサキ「アイちゃん・・」

アイ、公園から、走り去っていく。
ミサキ、無言で立ち尽くす。

モモ、すこし離れたところで、じっと様子を見ている。

○まちのはずれ

アイ、はあはあと息をきらして、ポケットから小さな写真を出すと、その場にしゃがみ込む。

アイと、アイそっくりの少女2人が並んだ写真。

アイ、写真を胸に抱くと、足音が近づいてくるのに気づく。
足音が、そばで、ぴたっと止まる。
アイ、顔をあげる。

アイ「ユウキさん・・?」

ユウキが、少し息を弾ませながらアイを見下ろしていた。

アイ「どうして・・?」

ユウキ「(小さく笑って)走っていく、君の姿が見えたから・・」

アイ「わざわざ、ここまで・・?」

アイ、視線を落とす。
ユウキ、アイのお腹のあたりを見る。

ユウキ「・・やっぱり、痛むのかい?」

アイ、首をふる。

アイ「ううん、大丈夫だから」

ユウキ、空を見る。

ユウキ「丘に、いかないか?」

アイ「・・え?」

ユウキ、アイを抱き上げる。

アイ「・・・・」

ユウキ、アイを抱いたまま丘へつづく細い道を歩きはじめる。

○港のそばの公園(昼)

港には運ばれてきた果物や野菜が、きれいに並べられている。

モモがくんくんと鼻を動かし、匂いをかいでいる。

ミサキ「私の、力・・」

ミサキ、ペンダントをぐっとにぎると空をみる。
風がふき、ミサキの髪がゆれる。
やがて、風がやむと、ミサキ、大きく息をはく。

ミサキ「そう、そうだよね・・」

ミサキ、ちかくのベンチに腰をおろす。

モモ「ニャ」

ミサキ、声の方を見ると、モモが、小さなオレンジをくわえている。

ミサキ「そのオレンジ。私が好きな・・?」

ミサキ、モモの口から、オレンジを手にとる。

ミサキ「やっぱり、そうだよね・・」

もう一度、風がふいた。

                                        <Episode8へ、つづく>

いいなと思ったら応援しよう!