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魔女のハーブは、あんまり甘くない 4ー1

◯山の草原(朝)

青い目の少女、岩のすき間にできた水たまりを、じっと見ている。

少女「これって・・、あたし?」

少女、水たまりに映る自分を見てつぶやくと、指先でそっと自分の頬をなでた。

少女「キレイ・・、それに、すべすべ・・。これ、あたしの顔・・?」

山のてっぺんから小さな風がふいて、少女の栗色の髪をやわらかにゆらした。

少女、しばらくして、左耳を小さくさわると、「?」と首をかしげる。

少女「あれ、キズは、そのまま・・?」

岩にとまっていた小鳥が、チッチと鳴いて水面がゆれる。
少女、ハッとする。

少女「まさか・・、これが・・?」

少女、胸のペンダントを見る。
ペンダントは、しんとなにも答えない。

小鳥が空に飛んで行くと、少女、草の上に落とした黒い帽子を拾ってかぶり、山の奥にむかってあるき出す。

少女「こ、こんなに早く、歩ける・・」

そのままゆるめることなく歩みつづけると、空は、すぐに夕方の色にそまり、大きな森が姿をあらわした。

少女「ついた・・」

少女、森の高い木々の間を進んでいくと、やがて、白い岩が姿をあらわした。
岩の前には、きりかぶがあった。
きりかぶの真ん中には、大きなわれ目がはいっている。

少女「(ホッとして)よかった、むかしのままだ・・」

少女、両手をひらいて、きりかぶの上にのせると大きくふーっと息をすう。

少女「ひらけ、森のとびら」

音をたてて、ゆっくりと岩が動くと、やがて、少女の前に古い大きなとびらがあらわれた。

少女「やった・・。自信なかったけど、うまくいった・・」

少女、ん、と力を入れてとびらを押すと、ギイイと音をたててとびらが開く。
びゅうと中から吹き出てきた風が、少女の栗色の髪をゆらした。

少女「(髪をおさえて)・・・・よし、いくか」

とびらのさきには、白い道がつづいていた。

少女、ためらうことなくずんずんと白い道を進んでいくと、先に小さな泉が見えた。
泉のまわりには、ホタルのような、こつぶの光がたくさんまっている。

少女「なんだか、妖精みたい・・」

少女、泉のわきを歩いていくと、2つの小さな光が少女が進んできたとびらの方へと飛んでいった。

少女「あれ、今、なにか・・。ま、いいか」

少女、いちど立ち止まったが、すぐに歩きはじめる。

少女「よし、もうすぐ・・」

とつぜん、白い道がおわると、少女の目の前に美しい庭園が姿をあらわした。
白い岩と、色とりどり花が整然とならんだ庭園。
2つの小さな噴水が、庭園の真ん中に左右対象に配置してある。

少女「ただいま・・かな」

少女、2つの噴水のあいだを進んでいくと、庭園の奥に、たくさんの小さな十字架がならんでいた。

庭園の天井からは、西日の光が射し込み、十字架にストライプの模様ができている。

少女「・・みんな、ひさしぶり。寂しがらせて、ごめんね」

少女、ポケットから小さな麻のふくろをだすと、指を中にいれて種をつまむ。

少女「・・いっぱい、持ってきたから。みんなにあげるね」

少女、十字架の前にしゃがんで、指先で地面に小さな穴をつくる。

ーことん。
小さな音が、背後にひびいた。

少女、ハッと振り向く。

少女「・・だ、だれ?」

白い岩のかげから、足がゆっくりと出てきた。
やがて、天井からの光の下に女性があらわれた。

女性「・・ひさしぶりね。メルル」

長い黒髪の、顔の美しい女性が笑う。

メルル「・・・・」

メルル、信じられないような顔で口をあける。

メルル「ソアラ・・ちゃん?」

メルル、腰をあげる。

◯おじいちゃんの小屋(夕)

ナナとアップルがテーブルで遊んでいる。
おじいちゃん、そばのイスに座って、窓の外をじっと見ている。

ナナ「よし、おじいちゃん、今日は、あたしが晩ごはん作るねー」

ナナ、腕まくりをして気合いをいれた顔で厨房にむかう。

アップル「ニャ?」

ナナ「アップル・・、なに、その顔? あたしの腕が信用できないっていうの?」

アップル、あくびをして、ソファーの上でくるまる。
ナナ、アップルに、ふんと鼻をならす。

ナナ「・・あれ、おじいちゃん、なに、見てるの?」

おじいちゃん「いや、なんでもないよ。ただ、今夜は星がよく輝いてるな、と思ってね」

窓の外の夜空には、星がきらめいていた。

ナナ「あ、本当だね。でも、足、どうかしたの?」

おじいちゃん、足をがたがたとふるわせている。

おじいちゃん「・・ああ、もう年かな。ちょっと、左足の動きが悪くてな」

ナナ「なら、おじいちゃん、これ、飲んでみて」

ナナ、ハーブティーをテーブルの上に出すと、おじいちゃん、ゆっくりとハーブティーを口にはこぶ。

おじいちゃん「(笑って)うん、おいしいハーブティーだ。なんだか元気がでるよ」

ナナ「街の、かわいいお姉さんがやってるお店のハーブティーなの。すごく美味しいでしょ。・・あ、まだ、お礼してなかった・・」

ナナ、自分の頭をこつんと、げんこつでたたく。

アップルが、しっぽをもちあげると、窓のそとの夜空の星が赤く光った。
すると、同時に、ナナの胸のペンダントが小さく光りだした。

ナナ「・・光った・・?」

ペンダントは、しばらくすると小さく光るのをやめて静かになった。

ナナ「・・ど、どうして・・?」

ナナがおどろいていると、おじいちゃんが、「?」と不思議な顔。

おじいちゃん「おや、左足が・・」

おじいちゃん、イスから立ち上がると左足をのばす。

おじいちゃん「な、なんじゃ、いったい・・、すごく軽い・・?」

おじいちゃん、左足に手をおく。

ナナ「ほら、そのハーブティーが、効いたのよ」

ナナが、おじいちゃんに微笑む。

おじいちゃん「・・うん。そ、そうだな、そう思うよ・・」

おじいちゃん、イスに座りなおす。

ナナ「さ、晩ごはん作るぞー」

ナナ、胸のペンダントをはずし棚の上におくと、フライパンと鍋を取り出す。

ナナ「えっと、まず、お湯をわかして、ジャガイモを切って・・」

ナナが料理をはじめると、おじいちゃん、まあ大丈夫かなとつぶやいて、夜空を見る。

やがて、ソファーのアップルが目をそっと開けると、おじいちゃんに「ニャオ」と鳴く。

おじいちゃん「・・?」

アップル、棚の上のペンダントを見て、鳴きつづける。

おじいちゃん「え、ペンダント・・?」

ナナは、せっせと晩ごはんを作っている。
そのため、アップルの声には、気づいていない。

おじいちゃん「アップル・・・・?」
    

                                          <4ー2に、つづく>



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