魔女のハーブは、あんまり甘くない 5ー1
◯妖精の国(月がのぼるころ)
テティス「どうぞ、中へ」
テティス、白い宮殿のなかを進んでいく。
すこしうしろに、アカリとココがつづく。
宮殿のなかの小さな妖精たちが、キラキラしながら、アカリたちを見ている。
テティス「・・ふふ。あなたたちに、興味がいっぱいなんですわ」
テティス、歩きながら声をだす。
アカリ「(そわそわして)な、なんか、不思議な気分・・」
ココ「ニャ」
ココ、なんだか嬉しそうに、ぴょんとはねる。
アカリ「・・・・?」
テティス、ココをちらりと見ると、笑みをうかべる。
宮殿は、すべてクリスタルで輝いていて、きゅっきゅっと足音が大きくひびく。
アカリ、小さな妖精たちに手を振っていると、やがて水晶できらめく大きな広間にでた。
アカリ「・・・・」
アカリ、広間のかがやきに、しばらく言葉をうしなう。
テティス「あちらに、この国の王女、レオーナさまが、います」
テティスが、広間の中央を見ながら声をだす。
中央では、透き通る水晶のイスの上に、美しい金髪の少女が座っていた。
アカリは、顔を見ようとしたが、少女は頭をさげていて顔が見えない。
少女の、とがった耳が、金髪からはみだしていた。
アカリ「・・・・?」
テティス「レ、レオーナさま・・?」
少女は、こくりこくりと小さく頭を揺らしている。
テティス、さっと、ひいた表情になると、そろそろと少女のそばにしゃがむ。
テティス「(小声で)お、起きてください。レオーナさま・・」
テティス、手をのばし、少女の肩をゆさゆさとゆらす。
ぴょこぴょこと、少女の耳が動く。
やがて、少女が、ゆっくりと顔をあげる。
アカリ、やや緊張の面持ち。
レオーナ「・・あれ、テティス? え、もう朝?」
レオーナ、指先でまぶたをこすりながら、ふにゃふにゃした声。
アカリ「・・え?」
テティス「ま、また、ねぼけて・・。さっき、魔女さまがくると、伝えたじゃありませんか」
レオーナ、しばらくして、あー、と口をあける。
レオーナ「あ、ああ・・、そうだったわね。それで、その魔女さんは・・」
テティスが、アカリを指さす。
レオーナ、アカリと目があった瞬間、うそのように、きりっと真顔になる。
かがやく藍色の大きな瞳をアカリにむけ、天使のような笑みを口元にうかべる。
アカリ、ぴんと背筋がのびた。
レオーナ「魔女さま・・、アカリさんですね。聞いています。ようこそいらっしゃいました」
レオーナが小さく口をひらくと、広間に神秘的な音がひびく。
アカリ、ややひきつりながら笑みをうかべる。
アカリ「は、はじめまして・・」
ココ、目をレオーナからはなさない。
アカリ「すごい・・、なんかオーラのようなものが・・。まさに王女の笑みだね・・」
ココ、ちらりとアカリを見る。
レオーナ「・・ねえ、テティス、眠気覚ましに、なにか飲ませてくれない?」
レオーナ、テティスを見る。
テティス「あ、そうですね。ちょうど、このまえ採れた新鮮なミネラルウォーターがございます」
テティス、壁についたガラスのトビラを開けて、グラスをだす。
レオーナ「いえ、わたくし、そちらのハーブがいいわ」
レオーナ、グラスの横にならべてあるハーブとティーポットを指さして言う。
テティス「あ。ですがこれだと、すこしお時間がかかるかと・・」
テティス、苦笑いをうかべながら答える。
アカリ「あ・・、わたしが淹れましょうか?」
アカリが、テティスに声をだす。
テティス「え、アカリさん・・?」
アカリ「わたし、得意なんです。あんまり甘くないですけど」
テティス「ですが、いきなりこられた方に淹れていただくのは・・」
テティスが、すこし迷っていると・・
ココ「ニャ」
ココが鳴き、レオーナが目にとめる。
レオーナ「いいじゃない。淹れてもらいましょうよ」
テティス「(おどろいて)え、よろしいのですか? では・・」
アカリ、テティスのそばまで歩くと、グラスを受けとる。
アカリ「わあ、いい香りのするお水。どうやってあっためればいいですか?」
テティス「はい、そちらの暖炉に入れていただければ・・」
広間のすみに、水晶でできた暖炉があった。
アカリ「へえ、おもしろい。すっごいキレイ」
アカリ、水晶の暖炉に手をひろげる。
アカリ「・・あったかい。これなら、すぐにつくれます」
アカリ、ティーポットにミネラルウォーターを入れて暖炉にいれると、ハーブを手のひらにすばやくまとめる。
テティス、アカリの手際のよさに、目をうばわれている表情。
レオーナ「・・・・」
レオーナの耳が、ぴょこぴょことゆれて、ココが、めずらしそうに見ている。
アカリ「おまたせしました」
アカリ、クリスタルのティーカップにいれたハーブティーをレオーナにさしだす。
レオーナ、両手でカップを持つと、ゆっくりと息をすう。
レオーナ「なんて、いい香り・・」
そして、ハーブティーをそっと飲むと、はっとおどろいた顔になる。
レオーナ「す、すごい。すばらしくおいしい・・。あんまり甘くなくて・・」
レオーナ、2口、3口とハーブティーを飲みつづける。
アカリ、嬉しそうな顔。
テティス、レオーナを見ながら、ごくっとのどを鳴らす。
レオーナ「あら、テティス。あなたも飲む?」
レオーナ、テティスに視線をむける。
テティス「ま、まさか。私は、けっこうです・・」
テティス、両手をふる。
レオーナ「んー、もういっぱい」
テティス、レオーナをじっと見る。
レオーナ、ぺろりと舌をだす。
レオーナ「・・おかわり、いただいてよろしいでしょうか?」
レオーナ、純白のドレスから出た美しい足をそろえてカップをさしだす。
ココ、なんだか機嫌がよさそう。
◯ミサキのお店(昼)
セーラ「モモちゃん?」
モモがイスからぴょんとおりると、セーラをちらりと見て、店の外へ歩いていく。
セーラ、しばらくモモを見ると、ホウキを手に腰をあげる。
セーラ「ミサキちゃん、ちょっと待っててね」
ミサキ「あ、はい」
セーラが、モモをおって、お店の外に歩いていく。
すると、奥で、コトンと小さな音が聞こえた。
ミサキ「・・・・?」
ミサキ、店の奥を見回すが、だれもいない。
ミサキ「気のせいかな・・?」
ミサキ、はっと目をとめる。
奥の棚が、すこし開いていた。
◯小道(昼)
モモは、お店の裏の草原の小道をすたすたと歩いていき、セーラは、ホウキをふりながらついていく。
草原のすみには、わき水でできた小川がキラキラとかがやいていた。
セーラ「ねー、どこいくの?」
モモが、草原のはしにならんだ木々のあいだに入っていく。
セーラが小走りで木々のそばに行くと、うしろに、小さな泉が見えた。
セーラ、おどろいて目をひらく。
セーラ「え、こんなとこに、泉があったんたんだ・・。小さいけど」
モモが、泉のそばを前あしでつついている。
セーラ「あれ? それ、さっきもやってたけど・・。なにかあるの?」
セーラ、泉をのぞきこむ。
泉にうつった自分の顔を見て「うーん、美魔女というのがピッタリかな」とひとりでつぶやく。
すると、セーラ、ぴたっとかたまる。
セーラ「うそ・・。なんか声が・・?」
セーラ、そっと耳を泉に近づける。
セーラ「まさか、そんなこと・・」
セーラ、ひとさし指を、ゆっくりと泉につける。
すると、水面に大きな輪っかがひろがっていく。
セーラ「わ、わわ?」
とつぜん、泉が光りだし、セーラは、泉のなかに引きずりこまれていく。
セーラ「か、体が・・?」
すーっと、セーラの体が、泉のなかに消えた。
やがて、小さくゆれていた泉の水面が、おだやかになる。
モモ、しばらくすると「ニャ?」と鳴いて、首をかしげる。
◯ミサキのお店(昼)
ミサキ「あら、モモ?」
モモが、お店にもどってくると、イスにぴょんとジャンプする。
ミサキ「あれ? セーラさんは、どうしたの?」
ミサキがたずねると、モモ、イスの上にくるまって眠りはじめる。
ミサキ「・・・・?」
ミサキ、手のひらにピンクのリボンをのせている。
棚のとびらが開いていた。
ミサキ「これって・・?」
ミサキ、指さきにリボンをからめると、棚を見る。
ミサキ「あそこに置いた記憶は、ないよね・・」
ミサキ、リボンを顔に近づける。
ミサキ「・・でも、なんだか、とってもなつかしい匂い・・」
ミサキが嬉しそうにしていると、イスのうえのモモの足もとまで、リボンのさきがのびていた。
モモ「・・・・?」
<5ー2に、つづく>