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魔女のハーブは、あんまり甘くない 4ー10
◯リサのお店(朝)
厨房では、ユイが照れくさそうにエプロンをひろげていた。
カウンターでは、リサとノアがその様子を楽しそうにながめている。
リサ「・・ふふ、ユイちゃん、とっても似合うわよ」
リサ、お店のえんじ色のエプロンを身に着けているユイに笑いかける。
ユイ「えー、そうですかあ? こういうときだけ、そんなこと言って」
ユイ、胸に名札をつけながら苦笑いをする。
リサ「あら、本音よ。ねえ、ノアちゃん?」
リサ、ノアのほうへ向く。
ノア「(笑って)ええ、すごくかっこいいです」
ノア、両手で口をおさえている。
ユイ「・・かっこいい、ね。まあ、褒め言葉としてとっておくね」
ユイ、エプロンの紐をしめて髪をうしろにたばねると、よし、と満足気な顔。
リサ「すごい。なんだか、マスターの貫禄がでてる」
ユイ「ただの、バイトですって・・。さっき、作り方を覚えたばっかの。ま、あとは、なるようになれかな」
リサ「そうよ、ユイちゃんなら、なんとかなるわよ」
リサがガッツポーズをすると、ユイ、へへと笑い、ノアに視線をむける。
ユイ「・・でも、ほんとに、びっくりした。アカリに、こんなかわいい妹がいるなんて。あたしも知らなかった」
ノア、照れたように、指で頬をかく。
ユイ「そういえば、家族とか故郷のこと、ぜんぜん話してくれなかったなあ・・。気になってはいたんだけど・・」
ユイ、遠くを見るような顔でいう。
リサ「だって、ユンカー家だもんね」
リサ、小さな声でいう。
ユイ「・・え? それって・・?」
ユイが、おどろいたように目をあける。
リサとノア、目をあわせて笑う。
リサ「わたしは、まあ今は、ノアちゃんの保護者みたいなものだから。いっしょにいれば家族に見えるでしょ」
リサ、ノアの横にくっついて座る。
ユイ「・・ええ、カンペキに、母と娘にしか見えないですよ」
ユイ、2人を交互に見て笑う。
リサ「よかった・・。でも、ゴメンね。ユイちゃんもいそがしいでしょうに。いきなりバイトを頼んじゃって」
ユイ「いえいえ。あたしは、学校が終われば、あとはヒマだから」
ユイ、笑って首をふる。
リサ「でも、そのぶんバイト代は、はずむから、そこは大丈夫よ」
ユイ「本当ですか? よーし、たくさん作るぞ。カズマにも、あたしのセンスを見せてやる」
ユイ、腕まくりをして、お湯をわかす。
リサ「よし、これでお店は安心みたいね。じゃあ、ノアちゃん、すぐに港にいって船のキップを取らなきゃね」
ノア、こくんとうなづく。
ノア「お姉ちゃんのいる場所は、たぶん、それを見れば・・」
ノア、リサの胸のペンダントを見る。
リサ、指先でペンダントをなでる。
リサ「ええ。これが北東のほうへよく光るから、たぶん、その方向に行けばまちがいないはずよ」
ペンダント、きらりと光る。
リサ「・・だって、このペンダントの主は、アカリちゃんだから」
ノアとリサ、いっしょにうなづく。
ユイ「はい、2人ぶん、はいりましたー」
ユイが、ハーブティーを2つ、カウンターの2人の前におく。
リサ・ノア「わあ」
リサとノア、いっしょにティーカップを口にはこび、声をあげる。
リサ「おいしい」
ノア「すごい」
ユイ、へへと嬉しそうに笑う。
リサ「すばらしいわ、ユイちゃん。才能あるんじゃない? わたしのより、おいしいかも」
ノア「ほんと、いっきに飲んじゃう」
ユイ「本当に? 嬉しいな。あたし、自分でお店開こうかなー」
ユイ、腰に手をあてて大きな声。
ノア「(笑って)うん、いいアイデアかも」
リサ、うなづく。
ノア「そういえば、わたし、お姉ちゃんのハーブティーって飲んだことないなー」
ノア、ティーカップを見ながらいう。
ユイ「あんまり甘くないよ。っていうか、かなり、すっぱいかも」
ユイが口をとがらせて言うと、ノア「え」とまゆをひそめる。
リサが、ティーカップを持ちながら笑う。
リサ「・・でも、ノアちゃん。アカリちゃんと会ったら、ご家族や友人が心配してるって伝えるんでしょ?」
ノア「はい、それも、ありますが・・」
リサ「?」
ノア「どうしても、会わせたい人がいるんです」
リサ「会わせたい人?」
リサ、ノアに顔をちかづける。
ノア「その人は・・」
ノア、視線をあげる。
ノア「お姉ちゃんの、恋人なんです」
リサ、ティーカップを持つ手がとまる。
ユイ「・・・・え?」
◯ミサキのお店(昼)
セーラ、カウンターに座り、ミサキがハーブティーをセーラの前におく。
セーラ、ハチミツをたくさんいれて、スプーンでかきまぜている。
セーラ「あー、アカリちゃん、どこ行ったのかなあ?」
セーラ、ハーブティーをごくんと飲み、おいしーと満面の笑み。
セーラ「それに、ココもいっしょに。まったく2人とも・・」
セーラ、壁にたてかけたホウキを指でピンとはじく。
ミサキ、小さく笑う。
胸のペンダントが、きらりと光る。
ミサキ「・・なんか、ペンダントが、よく光るんです」
セーラ「あれー、この前は、つけてなかったよね?」
ミサキ「ええ、この前、アイちゃんが返しにきたんです」
セーラ「えー、どうして? こんないいものを」
セーラ、ミサキの胸のペンダントを見る。
ミサキ「<だって、あたしはもう、パートナーができたから、大丈夫よ>って、言ってました」
セーラ「おやおや、なんか、うらやましいねー」
セーラ、ハーブティーを口にはこぶ。
ミサキ「(苦笑い)でもなんか、おいていかれてるようで、ちょっと淋しいんですけど」
ミサキとセーラ、いっしょに笑う。
セーラ「でも、ミサキちゃん。この前、ペンダントがなくても飛べたのは・・」
ミサキ「ええ、たぶん・・」
ふたりで、モモを見る。
モモ「ニャ?」
イスのうえのモモが、小さく鳴く。
セーラ「モモちゃん、もしかしたら魔力の持ち主かも・・」
ミサキ「え?」
セーラ「ううん、なんでも」
セーラ、ハーブティーを飲み終え、うーん、とのびをすると、ぴたっと動きがとまる。
セーラ「・・?」
ミサキ「?」
セーラ「あれ、いま、なんか声が・・」
セーラ、きょろきょろとまわりを見る。
セーラ「なんか、すっごい遠くから聞こえてくる感じ・・」
セーラ、目をつむって耳をすます。
ミサキ「声・・、どこから?」
セーラ、イスの上のモモを見る。
セーラ「アカリ・・ちゃん?」
魔女のハーブは、あんまり甘くない
第4章 END
<第5章に、つづく>