
最新AIに『アルゴリズムの檻』を書き直させてみた
AIのレベルは上がってる
『アルゴリズムの檻』について、多くの方に見ていただいており、さまざまな感想を頂いてます。
ありがとうございます。
(まだ見てない方は、先にこちらをご覧ください)
その中で、アイデアは良いが人物描写などの文章力が足りてないという批評を多くいただきました。
そのご指摘はおっしゃる通りだと思います。
しかし、ここで一つAIを擁護しておきますと、私が作品を応募した時と現在とではAIのレベルが大きく変わっていることです。
私が作品を応募したのが9月末でした。
その時、Claude3.5 sonnetという生成AIを使っていたのですが、その後10月、2月と2回のアップデートをしています。
つまり、私が使っていたのは、今と比べると二世代前のAIなのです。
なので、今のAI(claude3.7 thinking)がアルゴリズムの檻を書くとどうなるのかを公開します。
あえて人間(私)のクオリティチェックは入れてません。
どちらが面白いと思うか、クオリティが上がってると思うかご判断ください。
作品だけ見たい方は、目次から『アルゴリズムの檻(最新AI版)へどうぞ。
まずはAIにダメ出しをさせる
まずはAIにダメ出しをさせます。
〈プロンプト〉
次の小説について、思いっきり改善点を指摘してください。 より良い小説にするために遠慮なく悪いところをビシバシ挙げてください
〈回答〉
「ラプラス」小説の改善点
この小説は興味深い哲学的概念と未来世界の設定を持っていますが、より良い作品にするために以下の改善点を指摘させていただきます。
1. キャラクター開発の不足
佐藤明:主人公の心理的葛藤は描かれていますが、彼の過去や人間関係についての深堀りが不足しています。なぜ彼がそもそもAI研究に携わったのか、ラプラス開発前の価値観は何だったのかなど、より立体的な人物像があれば読者の共感を得やすくなります。
野崎綾香:突然重要人物として登場しますが、彼女の動機や背景が十分に描かれていません。ノスタルジアでの出会いからラプラスの管理者だったという展開は唐突で、伏線が不足しています。
前田:哲学者としての深みが欲しいところです。単なる説明役ではなく、彼自身の葛藤や見解をより詳細に描くことで、物語の哲学的議論に厚みが出るでしょう。
2. 世界観の具体性不足
2145年の東京の描写が表面的です。テクノロジーがどのように人々の日常生活を変えているのか、ラプラス以外の社会変化、政治体制などの詳細があれば、より没入感のある世界になります。
ラプラスが社会にどのような影響を与えているのかの具体例が少ないです。犯罪率の減少や経済の安定が言及されていますが、日常生活のレベルでどう変わったのかの描写が欲しいところです。
3. プロットの論理的一貫性
ラプラスが実は完全な予測ができないという核心部分の伏線が不足しています。物語の前半から、予測の「ズレ」や「誤差」の小さな事例を散りばめておくと、後半の展開がより自然に感じられるでしょう。
明がラプラスの中枢施設に簡単に侵入できる点は現実味に欠けます。より高度なセキュリティと、それを突破するための緻密な計画があれば緊張感が増します。
4. 哲学的テーマの掘り下げ不足
自由意志の問題についての議論が表面的です。決定論と自由意志の両立可能性(両立論)や、量子力学的不確定性と意識の関係など、現代哲学の視点をより深く取り入れることで、物語の知的深度が増すでしょう。
ラプラスが進化して「選択肢の海」を示すようになるという解決策は、やや単純化されすぎています。これによって本当に問題が解決するのか、新たな問題は生じないのかなど、より複雑な結末を検討する余地があります。
5. ストーリーテリングの技術的問題
ペース配分:物語の序盤はゆっくりと進みますが、終盤になると急に展開が早くなります。特にラプラスの暴走から解決までが短時間で進行するため、クライマックスが十分に熟成されていない印象です。
「語り」と「見せる」のバランス:特に哲学的な部分で説明的になりすぎる箇所があります。キャラクターの行動や対話を通じて概念を示す方が、読者の理解と共感を深めるでしょう。
視点の一貫性:物語は基本的に明の視点で進みますが、時折全知視点に切り替わる箇所があり、読者を混乱させる可能性があります。
6. ダイアログの自然さ
会話が時に不自然で、情報提供のための道具になっている場面があります。特にラプラスの説明部分では、登場人物が互いに知っているはずの情報を説明し合っています。
会話をより自然にし、各キャラクターの個性を反映した話し方にすることで、読者の没入感が高まるでしょう。
7. 緊張感と葛藤の構築
明の内的葛藤はありますが、外的な障害や敵対者が少なく、ドラマチックな緊張感が不足しています。ラプラスの維持を望む勢力との対立など、より明確な対立軸があると物語に深みが出るでしょう。
「選択」というテーマに関して、明がより困難な選択を迫られる場面を増やすことで、物語のテーマがより強調されるでしょう。
8. 結末の展開
最終的な解決策とその後の社会変化の描写が駆け足です。新しいラプラスシステムへの移行がどのように行われ、人々がどう反応したのかをより詳細に描くことで、物語の結論に説得力が増すでしょう。
明と綾香の関係の発展もやや唐突です。二人の絆がより自然に育まれていく過程を描くことで、感情的な満足感のある結末になるでしょう。
良かった点
改善点を多く挙げましたが、この小説には多くの素晴らしい要素もあります:
自由意志と決定論という哲学的テーマを日常的な葛藤と結びつけた点
未来社会におけるテクノロジーと人間性の関係への問いかけ
「ノスタルジア」というVR世界の設定の創造性
主人公の内的葛藤と成長の軌跡
これらの長所を活かしながら上記の改善点に取り組むことで、より深みと説得力のある作品になるでしょう。
感想でも多くいただいたように、人間や世界観の描写不足というのは、今のAIも感じるようです。
今のAIが書くとどうなるか
では、今のAIがその改善点を踏まえて書くとどうなるのでしょうか?
〈プロンプト〉
これらの改善点を絶対に直してやると意識して、この小説をより良く、魅力的に書き直してください。 1回で書ききれなかったら分けても構いません。
〈アルゴリズムの檻(最新AI版)〉
第一章
2145年、東京。
雨が降り続く街を見下ろす高層マンションの窓辺に立ち、佐藤明は遠くに見える無数のホログラム広告を眺めていた。かつては青空が広がっていた空間を、今は巨大な企業ロゴと派手な映像が埋め尽くしていた。その中でも最も目を引くのは、あらゆる場所に投影される未来予測機械「ラプラス」の広告だった。
「あなたの未来、すべてお見通し」 「質問する前に答えが分かる」 「運命のアルゴリズム、ここに解明」
広告の文句が、まるで呪文のように繰り返される。明は苦々しい表情で窓から離れ、部屋の中央に設置された薄型スクリーンに目をやった。そこには彼自身の姿と、次に取る行動の予測が表示されていた。
「佐藤明、19時22分、窓から離れ冷蔵庫から缶ビールを取り出す。アルコール摂取量、今週累計で推奨上限の87%」
明は一瞬躊躇し、意識的にその予測を裏切ろうとした。しかし数秒後、彼は肩をすくめて冷蔵庫に向かい、予測通りビールを手に取った。スクリーンの予測は瞬時に更新される。
「予測修正:佐藤明、19時23分、予測への抵抗を試みるも結果的に予測通りの行動を取る。今夜21時までに追加で2缶のビール摂取の確率は82%」
「うるさい」と明は呟いた。彼は缶を開け、一気に半分ほど飲み干した。37歳の彼は、かつてはT大学神経科学研究所の若きエースだった。そして、「ラプラス」の主要開発者の一人でもあった。
10年前、明と彼の研究チームは人間の意思決定プロセスを完全に解読することに成功した。彼らは、人間の「選択」とは実際には脳内の電気信号と化学反応のパターンによって事前に決定されており、「意識的な選択」という感覚は、その決定プロセスが完了した後に生じる単なる錯覚に過ぎないことを証明したのだ。
それは科学界に衝撃を与えた発見だった。そして明たちの研究は、未来予測システム「ラプラス」の開発へと直結した。人間の行動が完全に予測可能なら、社会のあらゆる出来事も予測できるはずだ——その理論は、見事に実証された。
だが皮肉なことに、人類に自由意志がないことを証明した当の本人が、その現実を受け入れることができなかった。明は、人間の行動が予め決定されているという発見を発表した翌日、酒に溺れ、研究所の壁を拳で打ち続けた。彼の手から血が滴る中、同僚たちは彼を止めようとした。
「自由意志がないならば、それを知ることに何の意味がある?」と彼は叫んだ。「我々は単なる複雑な機械だというのなら、人生には何の意味も価値もない!」
その日から明の転落が始まった。彼は研究所を去り、「ノスタルジア」と呼ばれるVR世界の開発に携わるようになった。それは自由意志が存在するという幻想を味わえる、もう一つの現実だった。
明はビールを飲み干し、窓の外を見つめた。雨が激しさを増し、建物のホログラム広告が水滴に反射して幻想的な光景を作り出していた。彼はVRヘッドセットを手に取った。
「ラプラス」の画面が点滅する。 「佐藤明、19時30分、ノスタルジアへの接続を開始。連続接続時間、今週平均より27%増加の見込み」
明はその予測を無視しようとした。しかし予測への反抗自体が、既に彼の脳内で決定されていたのではないだろうか? 彼は苦笑し、ヘッドセットを被った。
現実世界が溶けていき、色鮮やかな「ノスタルジア」の世界が広がる。
「ノスタルジア」の世界は、2025年の東京を模していた。スマートグラスを身に着けた人々はほんの一握りで、ほとんどの人々はスマートフォンを手にしていた。自動走行車は珍しく、まだガソリン車が道を走っていた。そしてなによりも、「ラプラス」の存在を知る者は誰もいなかった。
明は仮想世界の中で、佐藤陽(あきら)という名前で生きていた。ここでの彼は、有名なSF作家だった。まだ未来予測が実現していない世界について書く作家。皮肉な設定だった。
陽は神田神保町の古い喫茶店で、次の小説のアイデアをノートに書き綴っていた。彼は意識的にデジタルデバイスを使わず、紙のノートと万年筆で執筆の構想を練るのを好んでいた。自分の思考を「アナログ」に保ちたかったのだ。
彼は「決定論の檻」という小説のプロットを練っていた。主人公が、人間の行動はすべて予測可能だと証明する機械を発明する物語だ。明は皮肉な笑みを浮かべながら、物語の結末を考えていた。
「やはり主人公は自殺するべきだろうか...それとも、希望を見出すのか...」
「後者に一票」
突然の声に、陽は顔を上げた。隣のテーブルに座る女性が、彼の方を見ていた。30代前半くらいだろうか。知的な雰囲気を持ち、洗練された服装をしていた。彼女は微笑みながら立ち上がり、陽のテーブルに近づいてきた。
「失礼、あなたは佐藤陽さんですよね?」
陽は少し照れくさそうに頷いた。
「はい、そうですが...」
「野崎綾香です。失礼かもしれませんが、あなたがノートに書かれていることが気になって」彼女は申し訳なさそうに笑った。「私、あなたの『自由意志の迷宮』の大ファンなんです」
陽は驚いた表情を浮かべた。
「それは光栄です。あまり売れなかった作品なのに」
「でも素晴らしい作品でした」綾香は熱を込めて言った。「特に、人間の選択の本質について、あの深い洞察。決定論と自由意志の矛盾を、あんなにも鮮やかに描いた小説は他にないと思います」
陽は思わず苦笑した。皮肉なことに、自由意志など存在しない現実世界で、自由意志をテーマにした小説を書いているのだ。そして今、その小説のファンと言う女性と偶然出会った——もっとも、「ノスタルジア」では「偶然」も含めてすべてがプログラムされているのだが。
「お時間よろしければ、少しお話してもいいですか?」綾香が尋ねた。
陽は一瞬躊躇したが、微笑んで答えた。
「もちろん。コーヒーをおごらせてください」
綾香がテーブルに座ると、陽は店員に合図した。二人はコーヒーを前に、文学や哲学について語り始めた。綾香は東京大学で哲学を教えていると言った。彼女の専門は心の哲学と自由意志の問題だった。
「面白いですね」陽は言った。「私の小説のテーマとぴったりです」
「そうなんです」綾香は熱心に頷いた。「あなたの作品を読んで、同じことを考える人がいることに勇気づけられました。特に『もし私たちに自由意志がないとしても、その事実を知ることに意味はあるのか』という問いが」
陽は顔を上げた。その言葉は、まるで現実世界の明自身が発した言葉そのものだった。不思議な感覚が彼を包み込んだ。
「私は...」陽は言葉を選びながら話し始めた。「たとえ選択が幻想だとしても、その過程には価値があると思うんです。選択する喜び、後悔する痛み、それらの感情は本物だから」
綾香は真剣な表情で聞いていた。
「でも、もし誰かが『あなたの次の行動はこうなる』と完全に予言することができたら? もう選択の余地がないとしたら?」
陽は黙り込んだ。それはまさに、現実世界での「ラプラス」そのものだった。彼は答えに窮した。
その時、彼の視界の端に赤い点が現れた。それは「ノスタルジア」のシステムからの警告だった。
「警告:現実世界と仮想世界の境界が曖昧になっています。精神的安定のため、会話の内容を変更することを推奨します」
明は一瞬たじろいだ。彼自身が設定したセーフガードだった。しかし、彼はその警告を無視することにした。
「綾香さん」彼はゆっくりと言った。「もし...もし本当に未来が予測できるなら、あなたはどうしますか?」
綾香は考え込むように目を細め、そして静かに答えた。
「真実を知ることと、幸せに生きることは、時に相容れません。でも私は...真実を選びます。たとえそれが痛みを伴っても」
陽の胸に何かが突き刺さるような感覚があった。彼は突然立ち上がった。
「すみません、少し気分が...」
綾香は心配そうに見上げた。
「大丈夫ですか?」
「ええ、ただ...」
その瞬間、世界が歪んだ。激しい頭痛と共に、陽は現実世界に引き戻された。
明はVRヘッドセットを外し、息を荒げていた。画面には警告が表示されていた。
「警告:過度のVR没入により、現実との解離性障害のリスクが増大。システム強制終了を実行しました」
明は頭を抱えた。自分で設計したプログラムに追い出されたのだ。彼はふらつく足取りでキッチンへ向かい、もう一缶ビールを開けた。
「ラプラス」の画面が点滅する。
「佐藤明、20時15分、アルコール摂取過多により精神状態不安定。自殺念慮の可能性14%増加」
明は画面を睨みつけた。突然、彼の中で何かが壊れた。彼はビール缶を画面に向かって投げつけた。缶は画面を打ちつけるも、高度な素材で作られた画面はびくともしなかった。ビールだけが液晶の表面を伝って流れ落ちた。
「うるさい!黙れ!」
明は叫んだ。しかし、「ラプラス」は淡々と新たな予測を表示する。
「佐藤明、20時17分、感情的混乱状態。クローゼット内の非常用医療キットから鎮静剤を摂取する可能性が63%」
明は凍りついた。その予測は彼の頭に浮かんだばかりのことだった。彼は震える手で顔を覆った。
「俺は...何をしているんだ...」
彼の携帯端末が震えた。画面を見ると、かつての同僚である田中からのメッセージだった。
「明、元気か? 久しぶりに飲まないか。心配してるんだ」
明は端末を見つめた。田中とは研究所を去って以来、ほとんど連絡を取っていなかった。返信しようかどうか迷った時、「ラプラス」が新たな予測を表示した。
「佐藤明、20時19分、メッセージを無視し就寝準備に入る可能性が78%」
その瞬間、明は決意した。彼は端末を手に取り、返信した。
「今から会えるか? 話したいことがある」
送信ボタンを押した直後、「ラプラス」の画面が点滅した。予測が更新される。
「予測不能事象発生。再計算中...」
明は驚きに目を見開いた。「ラプラス」が予測不能を示したのは初めてだった。彼は何かを感じ取った——小さな、しかし確かな希望を。
彼は急いでジャケットを羽織り、部屋を出た。
第二章
トウキョウ・ナイトは、新宿区にある小さな地下バーだった。まるで20世紀前半のジャズクラブを思わせる内装で、入口さえ知らなければ決して辿り着けない場所に位置していた。「ラプラス」が一般化した現代では珍しい、監視カメラもホログラム広告も一切ない空間だった。
明が階段を降りてバーに入ると、カウンターに座る田中の姿が見えた。40代前半の田中は、かつての面影はあるものの、髪が薄くなり、顔には疲労の色が見えた。
「明!」田中は明を見つけると立ち上がり、強く抱きしめた。「本当に来たんだな。正直、返事が来ても現れないかと思ってた」
明は苦笑した。
「ラプラスも、俺が来ないと予測してたようだ」
「マジか」田中は驚いたように言った。「あいつが外すとはな」
二人はカウンターに座り、ウイスキーを注文した。明は緊張を紛らわすように一口飲み、田中に向き直った。
「どうしてた? まだラプラスのチームにいるのか?」
田中は頷いた。
「ああ、まだいるよ。今はシステム改良チームの主任だ。だが正直、もうやることがない。ラプラスは完璧すぎる」彼は自嘲気味に笑った。「毎日、予測精度が99.997%だと報告するだけの仕事だ」
明は黙ってグラスを回した。
「なあ田中、時々...自分たちがやったことを後悔することはないのか?」
田中は少し沈黙した後、ゆっくりと答えた。
「ああ、ある。特に初期の頃はな。世界中で自殺者が増えた時は、本当に罪悪感で眠れなかった」彼は一息ついた。「でも今は...世界は安定しているだろう? 犯罪率は過去最低、戦争も紛争もほぼ消滅した。人々は確定的な未来を受け入れ、それなりに幸せに暮らしている。それを見ると、多少の罪悪感も和らぐよ」
明は首を横に振った。
「本当にそうか? あの笑顔の下で、みんな空虚を感じていないか?」
田中は困ったように髪をかきあげた。
「お前はいつも理想主義者だったな...」彼は言った。「だが、人間は適応する生き物だ。最初は皆、自由意志がないという事実に衝撃を受けた。だが今では、それが当たり前になっている。人々は別の形で幸せを見つけたんだ」
明は田中の言葉を聞きながら、バーの壁に掛けられた古い時計を見つめた。機械式の時計だった。デジタルでもホログラムでもない、歯車が動く古典的な時計。それは静かに、しかし確実に時を刻んでいた。
「田中、お前にだけ話すが...」明は声を落とした。「ラプラスに、小さな誤差が生じ始めているのかもしれない」
田中の表情が変わった。
「何だって?」
「さっき俺は、ラプラスの予測を覆した。あるいは、少なくともラプラス自身がそう認識した」
田中は眉をひそめた。
「システムエラーかもしれないぞ。あるいは、お前の行動パターンがラプラスの学習モデルから外れただけかも」
「それとも」明は静かに言った。「ラプラスが完全ではないという証拠かもしれない」
田中は神経質そうに周囲を見回した。このバーにカメラはなかったが、彼の警戒心は10年間ラプラスと共に働いてきた習性だった。
「明、危険なことを言うな。そういう可能性を探ろうとして、何人の科学者が職を失ったと思う?」
明は身を乗り出した。
「だが、もしそれが本当なら? もし完全な予測が不可能だとしたら?」
田中は深いため息をついた。彼はグラスを空け、新たなドリンクを注文した。
「仮に...仮にだぞ、お前の言うことが正しいとして、それがどうした? 世界は今のまま回り続ける。人々は未来予測を信じ、その通りに行動する。実際の予測精度がどうであれ、結果は同じだ」
明はそれに反論しようとしたが、言葉が出てこなかった。田中の言うことは、ある意味で正しかった。世界は「ラプラス」を中心に再構築されていた。今さらその土台を崩すことは、混乱を招くだけかもしれない。
しかし、それでも明の心の奥底では、真実を知りたいという思いが燃え続けていた。
「田中」明は決意を固めたように言った。「ラプラスの中枢にアクセスする方法はあるか?」
田中は激しく咳き込んだ。
「冗談だろう? ラプラスの中枢は、世界で最も厳重に守られた場所だぞ。そもそも物理的なアクセスなど...」
「でも、可能性はある」明は田中の目をまっすぐ見つめた。「お前なら方法を知っているはずだ」
田中は長い間黙っていた。そして、ついに小さな声で言った。
「明、お前は何をするつもりだ?」
「確かめたいんだ」明は真剣な表情で答えた。「ラプラスが本当に完璧なのか、それとも...」
田中は明の決意を感じ取ったのか、諦めたようにポケットから小さなメモリチップを取り出した。
「これを持って行け。セキュリティをバイパスするための一時的な認証キーだ。しかし有効期限は48時間しかない。それ以上は...システムが検知する」
明は驚いた表情でチップを受け取った。
「なぜこんなものを?」
田中は苦笑した。
「俺たちだけじゃない。ラプラスの開発に関わった多くの科学者が、同じ疑問を持っている。このチップは...万が一のために作られた」
明はチップをポケットに入れた。
「ありがとう、田中」
「だが約束してくれ」田中は真剣な表情で言った。「何を見つけようとも、無謀なことはするな。システムを破壊しようとか、そういうことだ」
明は頷いた。
「約束する。ただ真実が知りたいだけだ」
二人はその後も数時間、昔話に花を咲かせた。研究所での日々、ラプラス開発前の世界について。しかし会話の端々に、二人とも取り返しのつかないことをしてしまったのではないかという後悔の念が見え隠れしていた。
別れ際、田中は明を強く抱きしめた。
「気をつけろよ、明。もう一度会えることを願ってる」
明は頷いた。二人はそこで別れ、明は夜の街へと歩き出した。彼のポケットには田中から受け取ったチップがあり、心には新たな決意があった。
夜の東京を歩きながら、明は過去に思いを馳せた。彼がラプラスの開発に携わったのは、単なる好奇心からではなかった。それは彼の個人的な悲劇から始まっていた。
10年前、明は婚約者の美穂を交通事故で失った。彼女の死は突然で、明にとって受け入れ難いものだった。なぜ彼女がその時、その場所にいたのか。もし彼女が別の選択をしていたら、違う道を歩いていたら、違う時間に家を出ていたら...その「もしも」が明を苦しめた。
その苦しみから逃れるように、明は人間の選択と行動の因果関係を研究し始めた。もし行動の連鎖を完全に理解できれば、美穂の死も「必然」として受け入れられるのではないかと考えたのだ。それが、ラプラスの理論的基盤を構築するきっかけとなった。
しかし皮肉なことに、彼の研究が進めば進むほど、明は別の苦しみに直面することになった。すべての行動が予測可能だということは、選択の自由が幻想だということ。美穂の死も、彼女の人生も、すべては厳密な因果の連鎖の中の一点に過ぎなかったのだ。
「結局、俺は何から逃げようとしていたんだ...」明は雨に濡れた歩道を見つめながら呟いた。
雨が再び強くなり始め、明は足早に自宅へと向かった。今夜は眠り、明日には新たな一歩を踏み出す。ラプラスの真実を探る旅が、今始まろうとしていた。
第三章
翌朝、明は早くに目を覚ました。久しぶりに、目的を持って一日を始める感覚があった。彼はベッドから飛び起き、シャワーを浴びてから簡単な朝食を取った。
「ラプラス」の画面が点滅する。
「佐藤明、07時15分、日課を破り早朝活動。昨夜のアルコール摂取による一時的な脳内ドーパミン増加が原因と推測」
明はその予測を読んで小さく笑った。「ラプラス」は彼の行動の表面的な変化を捉えているが、その真の動機——ラプラスの中枢システムへのアクセスを試みること——は予測していないようだった。
あるいは、予測していても表示していないのかもしれない。
明は服を着替え、田中から受け取ったメモリチップを確認した。小さな銀色のチップには、微細な回路が刻まれていた。彼はそれをポケットに入れ、部屋を出る準備をした。
その時、彼の端末が通知音を鳴らした。画面には「差出人不明」のメッセージが表示されていた。
「佐藤明様、あなたの目的を達成するためには、中枢システムではなく、バックアップシステムへのアクセスを推奨します。新宿東口、旧NTTデータセンタービルB3Fに14時に来てください。—A」
明は驚いて画面を見つめた。誰が彼の意図を知り、このメッセージを送ってきたのか? 罠かもしれない。しかし、もし本当にラプラスについての情報があるなら...
彼は数分間考え込んだ後、覚悟を決めた。指定された場所に行くことにしよう。しかし警戒は怠らない。彼は引き出しから小型のスタンガンを取り出し、内ポケットに忍ばせた。現代では武器の所持は厳しく規制されていたが、これは研究所時代に自己防衛用として特別に許可されたものだった。10年間使ったことはなかったが、今日は念のため持っていくことにした。
明は部屋を出る前に、もう一度「ラプラス」の画面を見た。
「佐藤明、07時30分、不明な目的地に向けて外出。帰宅予定時刻、21時18分」
明は眉をひそめた。「ラプラス」は彼の目的地を予測できていないようだった。それは朗報なのか、あるいは...
彼は深く考えるのをやめ、部屋を出た。東京の朝は晴れていて、久しぶりに青空が見えた。明は地下鉄駅に向かいながら、心の準備を整えた。今日の行動が、彼の人生を、そして場合によっては世界を変えるかもしれないことを、彼は薄々感じていた。
新宿駅東口から徒歩5分、旧NNTデータセンタービルは、かつてのIT企業の中枢だった建物だった。しかし現在は、その多くがシェアオフィスや小規模ビジネスに貸し出されていた。表向きは。
明は建物の前に立ち、その古びた外観を見上げた。不思議と「ラプラス」の広告はこの建物には一つもなかった。彼はエントランスに入り、セキュリティゲートに向かった。
「こんにちは」彼は緊張した声で警備員に話しかけた。「B3Fに用があるのですが...」
警備員は彼を見るなり、わずかに頷いた。
「佐藤様ですね。ご案内します」
明は驚いたが、それ以上の質問をする前に、警備員は彼を特別なエレベーターへと案内した。彼らが乗り込むと、警備員は専用カードをかざし、「B3」のボタンを押した。
エレベーターは静かに下降を始めた。明は緊張のあまり、汗が背中を伝うのを感じた。
「あの...私のことをどうして?」
警備員は微笑んだ。
「すべて手配されています」
それ以上の会話はなかった。エレベーターは静かに地下3階へと降りていった。扉が開くと、そこは予想と全く異なる空間だった。
白い壁と床、明るい照明、そして最新のセキュリティシステムが設置された廊下。まるで最先端の研究施設のようだった。警備員は明を廊下の突き当たりにある扉まで案内し、そこで立ち止まった。
「こちらです。お待ちしております」
明は深呼吸し、扉を開けた。
部屋に入ると、そこには一人の女性が立っていた。彼女は振り返り、明を見るなり微笑んだ。
「佐藤明さん、お会いできて嬉しいです」
明は驚きのあまり、言葉を失った。目の前に立っていたのは、「ノスタルジア」で出会った野崎綾香だった。しかし、ここは現実世界だ。
「あなたは...」明は困惑した表情で言った。「どうして...」
綾香は穏やかに微笑んだ。
「説明します。まずは座ってください」
部屋には白いテーブルと椅子があり、壁には巨大なスクリーンが設置されていた。明は言われるままに席に着いた。
「私は野崎綾香。ラプラスのバックアップシステム責任者です」彼女は自己紹介した。「そして、あなたのVR世界『ノスタルジア』で会った人物と同一人物です」
明は混乱した。
「でも、それはただのプログラムのはず...」
綾香は首を横に振った。
「いいえ。私はラプラスのバックアップ管理として、定期的にノスタルジアの世界に入り、ユーザーの精神状態を確認しています。特に...開発者であるあなたの」
明は言葉を失った。彼女は自分を監視していたのだろうか? 彼は警戒心を強めた。
「なぜ私をここに呼んだ?」
綾香は真剣な表情になった。
「あなたはラプラスの真実を知りたいと思っている。私も...同じです」
「同じ?」
「はい」彼女は頷いた。「ラプラスは完璧ではありません。そして、それを最もよく知っているのは、システムの裏側を見ている私たちです」
明は身を乗り出した。
「それはどういう意味だ?」
綾香はスクリーンに向かって何かを操作した。すると、複雑なデータグラフが表示された。
「これはラプラスの予測精度の推移です。一般に公表されているのは99.997%という数字ですが、実際には...」
彼女はグラフを拡大した。細かい変動が見えるようになった。
「特定の条件下で、予測精度が大幅に低下する現象が確認されています。特に、ラプラスの予測が人間の行動に影響を与え、その影響がさらに次の予測に影響を与えるという...フィードバックループが発生した場合です」
明は息を呑んだ。これは彼が以前から疑っていたことだった。
「フィードバックパラドックス...」
「そうです」綾香は頷いた。「ラプラスの存在自体が、人間の行動パターンを変化させています。その変化を含めた再計算を繰り返すと、予測は理論上、無限ループに陥る可能性があります」
明は立ち上がった。
「それなら、ラプラスは人類に嘘をついていることになる!」
綾香は彼を静かに見つめた。
「単純ではありません。ラプラスは意図的に嘘をついているわけではなく、むしろ...社会の安定のために、最も蓋然性の高い予測を表示しています。しかし、その予測は時として外れます。特に...」
「特に?」
「特に、ラプラスの予測に対して強い反発心を持つ人々の行動においてです」彼女はスクリーンを切り替えた。「あなたのような人々です」
新たな画面には、明の行動パターンとラプラスの予測精度の関係が表示されていた。確かに、他の人々に比べて明の行動は予測が難しいようだった。
「これは...」
「あなたはラプラスを開発しながらも、その結果を受け入れられなかった。その内的葛藤が、予測モデルを混乱させているのです」綾香は説明した。「あなたは無意識のうちに、ラプラスの予測に逆らおうとしています」
明は困惑した表情で椅子に戻った。
「でも、それは本当の自由意志があるということではないだろう? 単に私の脳が、予測への反発というパターンで動いているだけだ」
綾香は静かに微笑んだ。
「そこが哲学的な問いですね。反発するという行動パターン自体が予測可能だとしても、その反発が新たな可能性を生み出すなら...それは一種の自由と言えないでしょうか?」
明は考え込んだ。綾香の言う通り、これは深い哲学的問題だった。「予測可能性」と「自由」の関係は、単純に二項対立で片付けられるものではなかった。
「綾香さん」明は落ち着いた声で尋ねた。「なぜこの情報を私に教えてくれるのですか? あなたはラプラスのシステム管理者として、これを秘密にしておくべきではないのですか?」
綾香は少し沈黙した後、ゆっくりと答えた。
「私もかつては、真実を知ることこそが最善だと信じていました。しかし今は...真実と幸福のバランスが重要だと考えています」彼女は窓の外を見た。「ラプラスのおかげで、世界は確かに平和になりました。犯罪は減少し、紛争も解決されました。しかし、その代償として人々は...生きる喜びの一部を失ったように思えます」
彼女は明を見つめた。
「私は、ラプラスを完全に否定するつもりはありません。しかし、現在のシステムには改良の余地があると考えています。そして、その改良に最もふさわしい人物が...あなただと思うのです」
明は驚いた表情で彼女を見た。
「私が? でも、私はもう10年もラプラスから離れている。最新の技術についても...」
「技術ではなく、哲学が必要なのです」綾香は真剣な表情で言った。「あなたは自由と決定論の間で苦しんできた。その経験が、新しいラプラスを設計する上で貴重な視点となります」
明は深く考え込んだ。彼女の提案は予想外だった。ラプラスの改良? それは単なる技術的な改良ではなく、社会の基盤を変える可能性を持つ挑戦だった。
「どのような改良を考えているのですか?」彼は慎重に尋ねた。
綾香はスクリーンを操作し、新たな図表を表示した。
「今のラプラスは、単一の「最も確率の高い未来」を予測し、表示しています。これを変え、複数の可能性を確率と共に提示するシステムに改良するのです」
「複数の可能性...」明は考え込んだ。「それは人々に選択の余地を与えるということか」
「そうです」綾香は熱心に頷いた。「ラプラスは『これが起こる』と断定するのではなく、『こうなる可能性が高い』と提案するのです。そうすれば人々は、たとえそれが幻想だとしても、選択の自由を感じることができます」
明は立ち上がり、部屋を歩き回った。彼の頭の中では様々な思考が渦巻いていた。綾香の提案は理にかなっていた。しかし、それだけでは不十分な気がした。
「綾香さん」彼は突然立ち止まって言った。「それだけでは足りないと思う。ラプラスの予測モデルそのものを変える必要がある」
「どういうことですか?」
明は熱を込めて説明し始めた。
「現在のラプラスは、人間の行動を単なる因果関係の連鎖として捉えています。しかし、人間の行動には別の側面があります。意味を求める行動、美を追求する行動、愛のための行動...これらは単純な因果関係だけでは説明できません」
彼は自分の考えをまとめながら続けた。
「ラプラスに、人間の価値観や美意識、感情の複雑さを理解させる必要があります。そうすれば、より正確な予測ができるだけでなく、人間の尊厳を尊重した形で未来を提示できるようになるはずです」
綾香は明の言葉に聞き入り、次第に彼女の表情が明るくなっていった。
「それは...素晴らしい視点です」彼女は感嘆の声を上げた。「技術的には非常に複雑ですが、不可能ではありません。量子コンピューティングの進歩により、より複雑な人間モデルの構築も夢ではなくなっています」
明は綾香の反応に励まされ、さらに考えを展開していった。二人はその後数時間、新しいラプラスのあり方について議論を続けた。技術的な課題、倫理的な問題、社会への影響...多くの論点が浮かび上がった。
しかし、会話が熱を帯びるにつれ、明の心にある疑問が湧き上がってきた。
「綾香さん」彼は突然話題を変えた。「あなたはなぜノスタルジアの中で私に近づいたのですか? 単なる監視だけが目的だったのでしょうか?」
綾香は少し驚いたような、そして少し恥ずかしそうな表情を見せた。
「最初は監視が目的でした」彼女は正直に答えた。「しかし、あなたの小説を読んで...あなたの考え方に共感するようになりました。特に、自由意志と決定論の間で葛藤する姿に」
彼女は少し間を置いて続けた。
「私自身も、ラプラスの完璧さを疑問に思い始めていたんです。しかし、それを誰にも相談できませんでした。あなたの小説を通じて、同じことを考える人がいると知った時、私は...」
「会ってみたかった」明は彼女の言葉を引き取った。
「はい」綾香は頷いた。「そして、あなたが昨日ラプラスの中枢にアクセスしようとしていることを知った時、もう黙っていられませんでした」
明は困惑した。
「昨日? どうして知っているんだ?」
綾香は申し訳なさそうに微笑んだ。
「バックアップシステムは、主要システムの全データにアクセスできます。あなたの昨晩の行動パターンから、ラプラスへのアクセスを試みる可能性が高いと判断しました」
明は自嘲気味に笑った。
「結局、俺も予測されていたわけか」
「いいえ、違います」綾香は真剣な表情で言った。「あなたの行動は予測困難でした。ラプラスは複数の可能性を示し、その中の一つに過ぎなかったのです。私はその可能性に賭けました」
明はその言葉に、不思議な解放感を覚えた。完全に予測されていなかったことが、彼に小さな希望を与えたのだ。
「綾香さん」明は決意を固めたように言った。「あなたの提案を受け入れます。新しいラプラスの開発に協力したい」
綾香の顔に安堵の表情が広がった。しかし、すぐに彼女の表情が曇った。
「ただし...一つ問題があります」彼女は緊張した声で言った。「現在のラプラスの管理者たちは、システムの変更に強く反対するでしょう。特に、高橋部長は...」
明は眉をひそめた。
「高橋? 高橋慎也か?」
綾香は驚いた表情で明を見た。
「ご存知なのですか?」
「ああ」明は暗い表情で頷いた。「彼は私の元上司だ。ラプラスの商業利用を強く推進していた人物だ」
「今は彼がラプラス管理局の局長です」綾香は説明した。「そして、現状のシステムを維持することに固執しています。彼にとって、ラプラスの予測は絶対的なものであるべきなのです」
明は思案した。高橋との対立は避けられないだろう。しかし、それより重要なのは、社会全体にどう変化を受け入れてもらうかだった。
「まずは小規模な実験から始めよう」明は提案した。「一部のユーザーに対して、新しいタイプの予測を提供し、その反応を見る。データが集まれば、高橋も無視できなくなるはずだ」
綾香は頷いた。
「それなら可能かもしれません。バックアップシステムなら、ある程度独立した実験が可能です」
二人は具体的な計画を立て始めた。それは容易な道ではないことは明らかだったが、二人の間には共通の目的意識と、かすかな希望が芽生えていた。
時計は午後7時を指していた。長い議論の末、明と綾香は一旦休憩することにした。
「明日からが本当のスタートです」綾香は微笑んだ。「準備はできていますか?」
明は頷いた。そして、突然彼は疑問に思ったことを口にした。
「綾香さん、一つ聞いてもいいですか?」
「はい?」
「あなたは...ノスタルジアでの会話で、もし未来が予測できても『真実を選ぶ』と言いました。それは本当ですか?」
綾香は少し考え込むような表情をした後、静かに答えた。
「はい、本当です。ただし...真実を知った後、どう生きるかも重要だと思います。知識だけでは幸せになれません。知識をどう使うかが大切なのです」
明はその言葉に深く頷いた。彼もまた、真実を追求するあまり、生きる喜びを見失っていたのかもしれない。
「明日、また会いましょう」明は言った。「新しいラプラスのために」
綾香は微笑んで頷いた。 「新しいラプラスのために」
二人は別れ、明は施設を後にした。夜の東京の街を歩きながら、彼は久しぶりに心に希望を感じていた。未来は予測されているかもしれないが、それを変える可能性も存在する——その考えが、彼に新たな力を与えていた。
第四章
翌朝、明は早くに目を覚ました。今日から、新しいラプラスのための取り組みが始まる。彼は急いで準備を整え、約束の場所——旧NNTデータセンタービル——に向かった。
「ラプラス」の画面には、今日も彼の行動予測が表示されていた。しかし明は、もはやそれに縛られている感覚はなかった。予測は完璧ではないかもしれない——その可能性が、彼に自由を感じさせていた。
綾香は約束通り、地下の研究施設で明を待っていた。彼女の横には、見覚えのある顔があった。
「田中?」明は驚いて声を上げた。
田中は照れくさそうに手を挙げた。
「よう、明。驚いただろう?」
「君も...このプロジェクトに?」
田中は頷いた。
「綾香から連絡があってな。正直、迷ったが...俺もこれまでのラプラスに疑問を持っていたんだ。君の言ってたことを、もっと真剣に考えるべきだったよ」
明は嬉しさと驚きで言葉を失った。綾香が微笑みながら説明した。
「田中さんのような、現行システムに詳しい人材が必要だったのです。それに...」彼女は意味深げに続けた。「私たちだけではないんです」
彼女がドアを開けると、部屋の中には数人の人物が待っていた。明はその顔ぶれを見て驚いた。かつてのラプラス開発チームのメンバーだった。
「みんな...」
チームリーダーだった森本が前に出て、明の肩を叩いた。
「久しぶりだな、明。君がいなくなってから、ラプラスは予定通り完成した。しかし、みんな心のどこかで、何か大切なものを見落としているような感覚があったんだ」
明は感慨深く仲間たちを見回した。彼らの多くは、彼がラプラスの開発チームを去った後も研究を続けてきた科学者たちだった。彼らの表情には、後悔と希望が入り混じっていた。
「私たちは秘密裏に集まってきました」綾香が説明した。「ラプラスの予測能力の限界について研究を続け、改良案を検討してきたのです」
「なぜ今まで私に連絡しなかったんだ?」明は尋ねた。
森本が答えた。
「君は...最も深く傷ついていたからだ。君にはラプラスから離れて、自分の道を見つけてほしかった。しかし今、君の視点が必要なんだ」
明は深く頷いた。彼は仲間たちと再会できたことの喜びを胸に、真剣な表情で言った。
「では、始めよう。新しいラプラスのための計画を」
それから数時間、彼らは熱心に議論を交わした。新しいラプラスのコンセプト、技術的な実装方法、社会への導入計画...多くの課題が浮かび上がったが、解決策も少しずつ形になっていった。
「技術的には可能だ」田中が図面を指さしながら言った。「現在のラプラスのアルゴリズムを修正し、複数の可能性を計算・表示するよう変更する。問題は、量子計算リソースの配分だ」
森本が補足した。
「現在のシステムは、単一の『最も可能性の高い未来』を計算するために最適化されている。複数の可能性を同時に計算するには、計算能力の大幅な増強が必要だ」
「それならバックアップシステムを活用できます」綾香が提案した。「主系統に気づかれずに、一部のリソースを転用することが可能です」
明は考え込んでいた。技術的な問題はチームで解決できるだろう。しかし、彼がより心配していたのは、社会的な影響だった。
「みんな」明は静かに話し始めた。「技術的な課題も重要だが、もっと大きな問題がある。人々は10年間、ラプラスの絶対性を信じて生きてきた。突然『実は複数の可能性がある』と言われても、混乱するだけだ」
室内が静まり返った。明の指摘は的確だった。
「段階的な導入が必要です」年長の女性研究者、佐々木が口を開いた。「まずは限定的なユーザーグループに対して、『拡張版ラプラス』として提供する。その反応を見ながら、徐々に範囲を広げていく」
明は頷いた。
「それがいいだろう。そして、最初のユーザーグループには...」
「ノスタルジアのユーザーが適しています」綾香が言った。「彼らは既に、現実とは異なる可能性を受け入れる素地がある」
計画は少しずつ具体化していった。彼らは新しいアルゴリズムの概要を設計し、必要なリソースを算出し、実装のタイムラインを作成した。そして、最も重要な初期テストのための準備を整えた。
午後遅く、疲れながらも充実感を抱きながら、チームは一旦解散することにした。
「明日、最初のテスト実行を行います」綾香がメンバーに告げた。「各自、担当部分の準備を整えてください」
皆が退室する中、明は綾香に近づいた。
「綾香さん、一つ気になることがあります」彼は低い声で言った。「もし高橋がこの計画に気づいたら...」
綾香の表情が曇った。
「その可能性も考慮しています。しかし、バックアップシステムは比較的独立しており、適切に隠せば気づかれないはずです」
明は納得しなかった。
「高橋を知っている。彼は細部まで目を光らせる男だ。何か...保険が必要だ」
綾香は少し考え込んだ後、頷いた。
「あなたの言う通りかもしれません。明日、追加の対策を検討しましょう」
二人は別れ、明は帰途についた。夜の東京を歩きながら、彼は今日の出来事を振り返った。かつての同僚たちとの再会、新しいプロジェクトの始動、そして綾香との協力関係の深まり...すべてが一週間前には想像もできなかったことだった。
しかし同時に、彼の心には不安もあった。彼らの計画は成功するのか? 社会は変化を受け入れるのか? そして、高橋のような現状維持派の抵抗をどう乗り越えるのか?
彼はふと空を見上げた。星はほとんど見えなかったが、雲の切れ間から一つだけ、明るく輝く星が見えた。明は小さく微笑んだ。
「可能性は一つじゃない...か」
彼はアパートに戻ると、久しぶりにVRヘッドセットを手に取った。今夜は「ノスタルジア」に接続する。しかし今回は、現実逃避のためではなく、新しいラプラスのテストフィールドを確認するためだった。
「ラプラス」の画面が点滅する。
「佐藤明、21時45分、ノスタルジアへの接続を開始。目的:不明」
明は微笑んだ。彼の目的を「ラプラス」が予測できないことに、彼は小さな勝利感を覚えた。
次の数日間、明と研究チームは急ピッチで作業を進めた。新しいアルゴリズムの開発、バックアップシステムの調整、ノスタルジアを通じたテスト環境の構築...すべてが秘密裏に、しかし着実に進んでいった。
テスト開始の前日、チームは最終確認を行っていた。すべてのシステムは正常に動作し、初期テストの準備は整っていた。明日には、限定された「ノスタルジア」ユーザーに対して、新しい形の予測が提供される予定だった。
「最終チェックリストは問題ありません」田中がモニターを確認しながら報告した。「バックアップシステムの計算リソースは最適化されています」
「ユーザー選定も完了しました」佐々木が続けた。「心理的影響を最小限に抑えるため、段階的に機能を開放します」
明と綾香は、チームの報告を聞きながら、最終的な調整を行っていた。二人は、この数日間でさらに信頼関係を深めていた。共通の目標に向かって働く中で、彼らの絆は単なる同僚以上のものになっていった。
「明さん」綾香は他のメンバーが席を外した際、静かに話しかけた。「もし明日のテストが成功したら...その後どうするつもりですか?」
明は少し考え込んだ。彼自身、その先については明確なビジョンを持っていなかった。
「正直...分からない」彼は正直に答えた。「一歩ずつ進むしかないと思う。テストの結果を見て、次の段階を考える」
「でも、最終的にはラプラスを...どうしたいのですか?」綾香の声には真剣さがあった。「完全に廃止するつもりですか?」
明は首を横に振った。
「いいや、それは現実的ではない。ラプラスは既に社会基盤の一部だ。必要なのは...バランスだと思う」
「バランス?」
「ああ」明は窓の外を見ながら続けた。「予測と自由のバランス。確実性と可能性のバランス。科学的真実と人間の尊厳のバランスだ」
綾香は静かに頷いた。そして、少し躊躇いながらも、彼女は言った。
「明さん...あなたは美穂さんのことをまだ...」
明は驚いて振り返った。
「どうして美穂のことを?」
綾香は申し訳なさそうな表情を見せた。
「すみません。あなたの記録を見る機会があったので...」彼女は言葉を選びながら続けた。「あなたがラプラスの研究を始めたきっかけが、婚約者を事故で失ったことだったと」
明は沈黙した。美穂のことを話すのは、今でも彼にとって難しかった。
「ああ...」彼はついに口を開いた。「確かに、ラプラスは私の喪失から始まった。すべてを理解し、受け入れるための...試みだった」
綾香は彼の手に自分の手を重ねた。
「そして今、あなたは別の形で受け入れようとしているのですね」
明は静かに頷いた。
「美穂の死は...必然だったのかもしれない。しかし、その後の私の人生は...まだ可能性に満ちている。そう信じたい」
二人は静かな瞬間を共有した。その時、突然警告アラームが鳴り響いた。
「何だ?」明は立ち上がった。
綾香は急いでモニターを確認した。彼女の顔から血の気が引いた。
「メインシステムからのアクセス...私たちの活動が検出されました」
田中が慌てて部屋に戻ってきた。
「大変だ!高橋がバックアップシステムへのアクセスを要求している!」
明は素早く状況を把握した。
「どれくらいの情報が漏れている?」
「不明です」綾香が答えた。「しかし、異常なリソース使用は確実に検出されています」
明は決断した。
「計画を前倒しだ。今すぐテストを開始する」
「でも、準備が...」
「完璧を待っている時間はない」明は断固とした声で言った。「高橋が動く前に、私たちも動かなければならない」
チームメンバーは互いに顔を見合わせ、そして頷いた。彼らは急いでワークステーションに戻り、テスト開始の準備を整えた。
「発動コードの入力を開始します」田中が声を上げた。
「ノスタルジアユーザーへの通知システム、起動」佐々木が続けた。
綾香は明に最終確認の視線を送った。彼は深く頷き、彼女もまた自分のコンソールに向かった。
「バックアップシステム、新アルゴリズム展開モード、起動」
複数のスクリーンに、データの流れが表示された。新しいラプラスのアルゴリズムが、限定されたユーザーグループに向けて展開されていく様子が可視化されていた。
「展開率25%...50%...75%...」田中がカウントした。
突然、アラームが再び鳴った。
「メインシステムからの干渉信号検出!」佐々木が警告した。
「彼らは私たちを遮断しようとしている」綾香の声は緊張に満ちていた。「リソース競合が発生しています」
明は素早く判断した。
「すべての計算リソースを一点に集中させろ。展開完了を最優先だ」
チームは指示に従って作業を続けた。スクリーンには、二つのシステムの競合が表示されていた。まるで、二つの意識が一つの脳内で戦っているようだった。
「展開率90%...95%...」
その時、ドアが開き、数人のセキュリティスタッフが入ってきた。先頭に立っていたのは、高橋慎也だった。
「何をしているんだ!」高橋は怒りに震える声で叫んだ。「すぐにその作業を中止しろ!」
明は高橋に向き直った。10年ぶりの再会だった。高橋は年を取り、髪は白くなっていたが、その鋭い目は変わっていなかった。
「高橋さん、お久しぶりです」明は冷静に言った。
「佐藤...」高橋は驚きと怒りが入り混じった表情で言った。「やはり君か。何をするつもりだ?」
「ラプラスを進化させるんです」明は答えた。「より人間らしい予測を可能にする」
「馬鹿な!」高橋は声を荒げた。「現在のラプラスは完璧だ。社会の安定のために...」
「展開完了!」田中の声が割り込んだ。
全員の視線がメインスクリーンに向けられた。そこには、新しいラプラスのアルゴリズムが正常に展開されたことを示すメッセージが表示されていた。
「遅かったな、高橋さん」明は静かに言った。
高橋は怒りに震えながら、セキュリティスタッフに指示した。
「全員逮捕しろ!システムを元に戻せ!」
しかし、その時だった。スクリーン全体が突然、青い光で満たされた。そして、これまで見たことのない形式でメッセージが表示された。
「アルゴリズム統合プロセス開始。メインシステムとバックアップシステムの融合を実行中」
明を含め、全員が驚きの表情でスクリーンを見つめた。これは計画にはなかった展開だった。
「何が起きている?」高橋が叫んだ。
綾香がコンソールを確認し、驚きの声を上げた。
「信じられない...ラプラス自身が、二つのアルゴリズムを統合しようとしています!」
「そんなことができるのか?」明は驚いて尋ねた。
「理論上は...可能です」綾香は震える声で答えた。「ラプラスは自己進化型AIですから...でも、こんな高度な自己決定を行うとは...」
全員がスクリーンに釘付けになる中、融合プロセスは着々と進行していった。そして最終段階で、スクリーンに新たなメッセージが表示された。
「統合完了。新世代ラプラス、起動」
室内は静まり返った。次の瞬間、全世界のラプラス端末が一斉にリセットされ、新しいインターフェースが表示されたのである。
第五章
統合から24時間後、世界は混乱と興奮の渦に巻き込まれていた。すべての「ラプラス」端末が、突如として新しいインターフェースに変更されたのだ。人々は戸惑い、メディアは「ラプラス危機」と呼ぶ事態を連日報道していた。
旧NNTデータセンタービルの一室で、明と彼のチームは事態の収束に奔走していた。彼らの予想を遥かに超える事態に、全員が疲労と緊張の色を隠せないでいた。
「世界各国からの問い合わせが殺到しています」佐々木が報告した。「特に政府機関や金融セクターからの緊急対応要請が...」
「ユーザーの反応は?」明は疲れた声で尋ねた。
田中がデータを確認した。
「混乱はしているが、予想より冷静だ。特に『ノスタルジア』のユーザーたちは、新しいインターフェースをかなり肯定的に受け止めている」
明は頷いた。新しいラプラスは、従来の単一予測ではなく、複数の可能性を確率と共に表示するようになっていた。例えば「佐藤明、10時15分にコーヒーを飲む確率78%」というように。そして最も革新的な点は、ユーザーが特定の選択をした場合の結果を先読みして表示する機能だった。
「次の24時間が正念場です」綾香が言った。彼女は明に熱いコーヒーを渡しながら、疲れた微笑みを浮かべた。「人々が新しいシステムに適応し始めるかどうか...」
その時、ドアが開き、高橋が入ってきた。彼の後ろには、政府関係者らしき人物たちが続いていた。明と彼のチームメンバーは緊張して立ち上がった。
「記者会見の準備はできているか?」高橋は意外にも冷静な声で尋ねた。
明は驚いた。高橋は昨日の混乱の中、彼らを逮捕しようとしていたはずだ。しかし今の彼は、まるで状況を受け入れているかのようだった。
「高橋さん...」明は慎重に言った。「あなたは...私たちを」
高橋は手を振って明の言葉を遮った。
「事態は変わった。全世界のラプラスが新システムに移行した以上、元に戻すことは不可能だ。重要なのは、今後の対応だ」
彼は明を含めたチームメンバーを見回した。
「君たちが責任を持って、この移行を管理する。全世界に対して、新システムの利点と使用方法を説明する必要がある」
明は高橋の急な方針転換に困惑しながらも、頷いた。
「了解しました。記者会見の準備はできています」
高橋は鋭い目で明を見つめた。
「佐藤...」彼は低い声で言った。「君は本当に、これが正しいと思っているのか?」
明は真剣な表情で答えた。
「はい。人々には選択肢を知る権利があります。たとえそれが単なる錯覚だとしても...選択する喜びは大切なものだと思います」
高橋は長い間黙っていた。そして、ついに彼は小さくため息をついた。
「かつて私は、確実性こそが人類の幸福だと信じていた。しかし...」彼は窓の外を見た。「昨日、新しいラプラスは私に三つの選択肢を示した。そして私は...その中から選んだ」
彼は再び明を見た。
「不思議なことに、選ぶという行為自体に...ある種の解放感があった」
明は高橋の言葉に深く頷いた。それは彼自身が、この数日間で感じていたことでもあった。
「準備をしよう」明はチームに向かって言った。「世界に新しいラプラスを説明する時だ」
数時間後、ラプラス管理局の記者会見場は、世界中のメディアで埋め尽くされていた。明と綾香、そして高橋が登壇し、新システムについての説明を始めた。
「本日、ラプラスは新たな段階へと進化しました」高橋は公式声明を読み上げた。「新システムは、単一の予測ではなく、複数の可能性を提示します。これは人類の意思決定プロセスをより尊重するための進化です」
メディアからの質問が飛び交った。
「これは予測精度の低下を意味するのでしょうか?」 「社会の安定性に影響はないのですか?」 「なぜ突然このような変更を?」
明が前に出て、質問に答えた。
「新しいラプラスの予測精度は低下していません。むしろ、人間の行動の複雑さをより正確に捉えていると言えます」彼は静かに、しかし確信を持って話した。「人間の行動は単純な因果関係だけでは説明できません。価値観、感情、美意識...これらを考慮することで、より豊かな予測が可能になります」
綾香が続けた。
「社会の安定性については、むしろ向上すると考えています。人々が自分の選択の結果を事前に知ることで、より責任ある決断ができるようになるからです」
記者会見は2時間以上続き、明と綾香、そして高橋は、新システムの詳細と今後の展望について説明し続けた。最終的に、高橋が締めくくりの言葉を述べた。
「ラプラスの進化は、人類の進化です。私たちは今日から、新たな時代へと歩み出します。確実性と可能性が共存する時代へ...」
記者会見から1週間、世界は新しいラプラスに徐々に適応し始めていた。混乱は予想より早く収まり、多くの人々が新システムの利点を実感し始めていた。特に若い世代は、複数の可能性を示す新しい予測スタイルを積極的に受け入れていた。
明と綾香は、新宿の小さなカフェで休息を取っていた。この1週間、彼らはほとんど休むことなく働き続けてきた。世界中からの問い合わせに対応し、システムの微調整を行い、新たなガイドラインを作成する...膨大な仕事の合間の、貴重な休息だった。
「信じられないくらいスムーズに進んでいますね」綾香はコーヒーを飲みながら言った。「私は少なくとも数ヶ月の混乱を覚悟していました」
明は頷いた。
「人間は適応力がある。それに...」彼は窓の外を見た。「多くの人が、心のどこかで自由を望んでいたのかもしれない」
「それでも」綾香は少し心配そうに言った。「長期的な影響はまだ分かりません。社会構造が大きく変わる可能性も...」
「それも含めて、可能性の一つだ」明は微笑んだ。「私たちはもう、単一の確定的な未来に縛られてはいない」
二人は静かな瞬間を共有した。そして、明は決意を持って口を開いた。
「綾香さん...これからも一緒に働いてもらえますか? 新しいラプラスの改良と、さらなる可能性の探求に」
綾香は明るい笑顔で頷いた。
「もちろんです。これからが本当の始まりですから」
彼女は少し照れくさそうに、そして勇気を持って続けた。
「それに...仕事以外でも、あなたともっと時間を過ごしたいと思っています」
明は驚き、そして優しい表情になった。彼は綾香の手に自分の手を重ねた。
「私も同じことを考えていました」
その瞬間、二人のスマートデバイスが同時に通知音を鳴らした。新しいラプラスからのメッセージだった。
「佐藤明と野崎綾香、17時45分に感情的な絆を確認。関係発展の可能性:73%」
二人は顔を見合わせ、笑いだした。
「ラプラスには、まだまだ改良の余地があるようですね」綾香はくすくす笑いながら言った。
「確率は低すぎると思うよ」明は冗談めかして答えた。
彼らは再び笑い、そして真剣な表情に戻った。二人の前には、まだ多くの課題が横たわっていた。新しいラプラスの改良、社会への更なる適応支援、そして彼ら自身の関係の発展...
しかし今、彼らの心には希望があった。未来は確定したものではなく、可能性に満ちているという希望。彼らはその可能性を、共に探求していくことを決意したのだった。
明は窓の外の空を見上げた。雲が切れ、青空が広がっていた。そして彼は思った。
「美穂...今なら分かるよ。人生は予測できなくても、その不確かさに美しさがあることを」
彼は綾香に向き直り、微笑んだ。
「行こう。私たちの可能性を探しに」
綾香も笑顔で頷いた。
「はい、一緒に」
二人はカフェを後にし、新しい未来へと歩み出した。彼らの前には、確実性と不確実性が交錯する世界が広がっていた。それは予測可能でありながらも、無限の可能性を秘めた世界。ラプラスが計算する未来と、人間が選択する自由が共存する世界だった。
<終>
いかがだったでしょうか?
展開が大きく変わっていますね笑
20000文字超えてるので10000文字制限があった原作と同じ条件ではないですが、当時のAIにあれ以上の文字数を書かせても良くならなかったと思うので、そこは目を瞑ることにします。
原作と最近AI版のどちらが面白いかの判断は任せますが、文章力は上がってるかなと思います。
半年でこれだけ上がったので、今後のAIの進化にますます期待ですね。
最後に、読んでくださった方は以下のアンケートにご協力いただけると助かります!
読んでくれた方は、どちらがより面白かったか教えてください!
— 青野圭司(AI小説家) (@aonokeishi) February 27, 2025
参考に小説作りします!