水没イカロス - 晴天アポカリプス
ちちぷいのイベント「晴天アポカリプス」で展開したシリーズです。
うちの場合は1週間、投下されるネタに合わせて即興の創作をする感じ?
PBWとかTRPGのリプレイみたいな感覚で読んでもらえるといいかも。
(人によって参加スタイルは違います)
Sink+Alone編
イカロスは漁をする
その影は上空から音もなく舞い降りた。
「……逃がした」
呟いた彼女と目が合う。
「魚を獲っていた」
彼女は平然と言ってのける。
私の表情から疑問を察したのだろう。
彼女の"翼"は失われた技術の残滓だ。
その不完全な翼で高度な機動を駆使し、魚を獲るという。
まったく馬鹿げた話だが、聞けば彼女の主人の頼みだという。
変わり者のシンカロンには、マスターもまた変人が多い。
独立思考(Think Alone)を謳いながらも何故か似てしまうのだ。
そして、後に私はその変人と組んで仕事をする羽目になるのだが……
リサーチャーは釣りをする
「え? 調査だよ調査。食べないってば」
食用かどうかの話ではない。任務に関係があるのかを聞いたのだったが……
残念ながら彼女にその意図は伝わらなかったようだ。
研究者という生き物はまったく度し難い性格をしている。
「それは何か"文明の痕跡"に繋がるのか?」
とダイレクトに聞いてみたのだが……
「昨日うちの子がすごいを捕まえてきてね」
と嬉しそうに目を輝かせて話す。
マズい。何か変なスイッチが入ったようだ。
「リュウキュウアユって分かる?
調べたら"黄金期"より前に絶滅してた種だったよ。
どうも釣るのは難しいみたいでね。
さすがうちの子、電光石火ってやつだよ」
その話し方がまさに電光石火なのだが……
とても嫌な予感がしたので彼女の言葉を遮るようにたずねてみた。
「まさか、その"うちの子"というのは"イカロス"か?」
一瞬キョトンとした表情を見せる彼女。
「イカロス?
ああ、そう呼んでた時代もあったらしいね。
珍しい飛行ユニットだからメンテしてあげてるんだ」
そう、事も無げに言われてしまった。
とんでもない相手と組む事になったのかもしれない。
野外ラボ
「大丈夫、毒じゃないから」
飲料用のボトルまで流用するのは止めて欲しい。
「フラットランドのラボを追い出されちゃってさ」
いったい何をしでかした。
いや、この性格なら何をしたのか大体は想像できる。
「うちの子に色々と運んでもらったんだよね」
「まて、空輸したという事か?」
思わず突っ込んでしまった。
「そうだよ? とにかく良い子でね」
と嬉しそうに目を輝かせる。
「かわいいし、よく気が利くし。
とにかく飛ぶのが大好きみたいでさ。
ノーマンズポイントでふらふらしてるとこナンパしたんだけど、
羽を治してあげたらすっかり懐かれちゃって……」
彼女はあのイカロスについて話すとき、特に饒舌になるようだ。
シンカロンのメンテナンスは、自身で行えるよう作られた個体も多い。
だがイカロスの"翼"をチューニングできる者は、黄昏梟の中でも多くは居ない筈だ。
この新しい相棒の過去について、少しだけ興味が湧いてきた。
スカイペネトレイター攻略
「上まで運ぶ」
「え? ちょっとまっ……あーーー」
二人の影はすぐに見えなくなった。
あれはレース用のピーキーな"翼"だ。
生身の人間を運ぶことなんて想定していない。
――さて、生きてる昇降機を探すか。
あんな目に遭うのはまっぴら御免だ。
静まり返ったビル群を見渡す。
「次、上まで運ぶ」
「は?」
後ろから声をかけられ思わず声が漏れた。
さすがに早すぎるだろう。
「彼女は無事なのか?」
「生きてる」
それは良かった。
安堵する間もなく後ろから硬い腕を回される。
足が地面を離れ、体がふわりと浮かぶ。
かつて人は機械で空を移動する事もあったらしい。
だが、流石にこんな形ではなかった筈だ。
そんな下らない思考を最後に、俺は意識を手放した。
(2ndミッション「スカイペネトレイター」より)
屋上の楽園
目を覚ますと天国にいた。
たくさんの花、小川のせせらぎ。
そして白い翼の天使が水面を歩き……いやまて。
「ここはどこだ? あと、何をしている」
しばらく呆けた後、ようやく声を絞り出す。
「いい所でしょ?」
笑顔で振り返る、なぜか水着姿の相棒。
「少し前に旅人から教えて貰ってさ。
あ、ここは安全だから武器は置いて良いよ」
どういうことだ。
向こうには越夜隊らしき集団も居る。
陽射しはあるのに何故か涼しい。
聞けば空調や浄水がまだ機能しているそうだ。
つまり機能している昇降機だって存在した筈だろう。
「……飛ぶ必要はあったのか?」
「お、いい質問だねぇ」
そこから飛行ユニットの特性、
そして彼女についての自慢を延々と聞かされることになった。
(新発見:「天の泉」と「地の泉」より)
激戦区
「撤退、撤退、てったーい!」
ドローンに追われながら相棒が戻ってくる。
「これ、あたしたちの出番じゃないって」
と走りながら弱音を吐く。
各勢力がこの場所に集まってきているようだ。
体勢を立て直すべきだろう。
(ラストミッション「神の繭」より)
神の繭
「さて、どうしようか」
突入前に聞いて欲しかった。
先ほど無策で突っ込み、逃げ帰ってきたばかりである。
「そもそも"神の繭"とやらの情報は確かなのか?」
息を整えながら相棒にたずねる。
「たぶんね、
あの子の思考回路にも影響が出ていたし。
またフラッと何処かへ行っちゃったし、絶対に助けないと」
そういえば、あのイカロスもここで拾ったと言っていたか。
確かに様子がおかしかった。
相棒が何度呼びかけてもまるで聞こえていないかのようで……
何かに呼ばれるよう飛んで行ってしまった。
(ラストミッション「神の繭」より)
マスドライバー
「さあ、いっちょ飛んでみようか」
嫌な予感しかしないんだが……
目の前にあるのはマスドライバー施設。
かつては衛星軌道に向けて物資を発射していたという……
つまるところ貨物用の大型カタパルトである。
「貨物用だよな?」
「うん、普段はその運用だね」
さらりと返される。
「人が耐えられるのか?」
「普通は無理だね」
死を覚悟する。
「けど大丈夫だよ」
と胸を張る相棒。
「ヒントその1、私の専門分野は何か?」
「いや、怪しい実験でキャンプを追い出されたとしか」
ふくれる相棒。
「ヒントその2、私がスカイペネトレイターで無事だったのは何故か?」
「そういえば先にプールで遊んでいたな……俺だけ酷い目にあった」
少しバツが悪そうな顔をする相棒。
「ヒントその3、何故あの子の"翼"を直すことができたか?」
そこは確かにずっと疑問に思っていた。
だが、相棒は回答を待たずに施設に入っていく。
「まぁ重力制御は得意だから大船に乗ったつもりで飛ばされると良いよ」
実際、特殊な大型コンテナで飛ばされたのだが道中の記憶は残っていない。
(超大型マスドライバー「ジュール・ベルヌ」より)
重さの無い世界
その影は上空から音もなく舞い降りた。
まるで時間が停止したかのようだった。
いつぞやと似た光景だが、彼女の獲物は魚ではなく我々だろう。
そこで周囲の異変に気付いた。
身体が軽い。
いや、周囲の全てが重力を受けていない。
音が消えたのではない。
音を媒介する空気の重さが無くなっているのだ。
相棒が何かを叫んだ。
その呼びかけに少し動きを止めたようにも見える。
声は届いていない筈だ。
なお歩み寄ろうとする相棒を俺は制止した。
「退避命令が出た。
越夜隊と共同で何かやらかすらしい」
声が届いたのか表情から察したのか、相棒は口惜しそうに頷く。
次の瞬間、視界が光に包まれた。
(「とりあえずの結末」より)
いつかの空
「おーい」
空が見えた。
青い空。
「起きてるー?」
記録にない人物。
「大丈夫、また飛べるようにしてあげる」
また飛べる。
空を……飛びたい。
Thing+Alone編
イカロスは涼をとる
海洋調査の折、異変を感じて水面に上がると"それ"が居た。
「ちょっと温いかな」
はじめは何を言っているのか解からなかった。
「夏は苦手なの」
少し前に空冷機構が故障して長くは飛べなくなったそうだ。
この光景を見て、まさか足のヒートシンクから排熱しているなんて誰が想像できよう。
暑い夏の中、水鳥のように水面で羽を休めながら、それでも飛び続ける。
機械でありながら空に焦がれてしまった"それ"を誰が救えるというのだろう。
イカロスは羽を休める
海でまた"それ"と遭遇した。
排熱が追い付かなくなったらしい。
海の水はその機械の体を確実に蝕んでいる筈だ。
そこまでして夏の空を飛ぼうというのか。
機械である"それ"をいったい何が空へと駆り立てるのだろう。
イカロスは空に焦がれる
"アリアドネ事件"
切欠はある一機のイカロスだったとされている。
終末事変に於ける一連の騒動の中、
飛行ユニットを持ったシンカロンの思考防壁が破られた。
本来は独立して思考するシンカロン(Think Alone)の思考ロジックだが、
その一部が強制的に同期されてしまったという。
結果、多くのイカロスは空に強い憧憬を抱くようになる。
それは渇望と言った方が適切かもしれない。
競技を無視したイカロスは、唯々上空を目指して飛ぶという異常行動に出た。
ノーマンズポイントに落ちた宇宙ステーション、
そこに原因が眠っているという噂もあるが真偽は定かではない。
ともかく、その墜落を機に事態は収束した筈ではあったが……
その時に撒かれた"種"は思考に根を張り、
今も"それ"を夏の空へと駆り立てる。
あとがき
以下、あとがきに変えてプロット(と言うほどでもない執筆メモ)を晒しときます。
Sink+Alone
黄昏梟の話。とりあえずこれをメインストーリーに。
相棒の変人リサーチャーが銀髪イカロスを拾った流れで。
Thing+Alone
夏の空への憧憬を少しポエミーに。
シンカロンを「モノ」として表現。
最後、ラストミッションの内容に合わせて事変の設定を出す。
Sing+Alone
やれたらやる。
銀髪イカロス視点から見た変人リサーチャー。
メインにマージしちゃっていいかも?
その他
展開や舞台は全部ミッション次第、その場のノリで。
シリーズは適当にに並行して進めて最終日にガッチャンコ(できたらいいな)
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