バーチャルフォトグラフとは?【バーチャルフォトグラフは写真芸術のボーカロイドとなり得るか?】
バーチャルフォトグラフとは?
この記事をご覧になっている方は、バーチャルフォトグラフまたはVR写真という単語をお聞きになった事があるでしょうか?
昨今流行り言葉になりつつある「メタバース」
そのメタバースの中でも主にVR空間上に存在するVRSNSである「VRChat」において、標準装備されているカメラ機能だけでなく、各プレイヤーがアバターに仕込んだ写真撮影ギミック(以下、VRカメラ)を利用し、VR空間をキャプチャーする事によって生み出される静止画の事を、「バーチャルフォトグラフまたはVR写真」と呼ぶプレイヤーが最近になって徐々に増えてきました。単純にリアルの「写真」と同列に扱うようになった、とも言えると思います。
この呼び方については、所詮ただの「スクリーンショット」である....とか、現実の写真とは比べるものではない....とか。
そう言う向きがあるのも把握はしていますが、これに対して決まった答えを出すには、まだまだバーチャルフォトグラフの歴史は浅すぎるのかな....と思います。
所詮スクリーンショットと思う人にはスクリーンショットにしか見えないし、芸術作品として撮影したバーチャルフォトグラファーにとっては、芸術作品として目に映るのだと思います。
これはVRChatを遊んでいるデバイスがVRヘッドセットであるか?またPCデスクトップであるか?によっても、感覚が変わって来るところかと思います。
現時点でバーチャルフォトグラフの主なプラットフォームである、VRChat自体が出来てそう何年も経ってないですから、それはいたしかたない事ですね。
ただ「バーチャルフォトグラフ」という文字には、「仮想の光で絵を描く」という意味が通っています。
私自身がVRChat内のワールド(有志のユーザーが制作してアップロードされる、VRChat内に無数にある遊ぶための場所・所謂プレイマップ)を作成しているので言える事なのですが、VRChatのワールド内では現実と同じ様に、仮想上の光をシミュレートして映像を描画しています。
詳しく説明すると長くなるので割愛しますが、ワールドを作るクリエイターのスキルに出来栄えが多少左右されるとはいえ、基本的にはリアルと同じ様に光が世界を照らしており、それを受けた景色をディスプレイで見ているという事になります。
バーチャルフォトグラフとは、仮想上で計算された光を受けた景色を写して描く絵である、と言う事が出来るわけですね。
ちなみに各プレイヤーが使うアバターの見え方に関しては、ワールド側の設定や各アバターのシェーダー(各ユーザーが設定しているアバターをどう描画するか?を決めるモノ)によって変わりますが、基本的には周りの光を反映して明るさが変わる様になっている場合がほとんどです。
バーチャルフォトグラフの良い所
まず一点目ですが、趣味としてのランニングコストが比較的安く済みます。
VRChatの場合、初期投資にVRヘッドマウントディスプレイとゲーミングPCが必要だとは言え、リアルの写真撮影を本格的に趣味にした場合の費用と比べると、そこまで高額でもないかと思います。
おおよそ20万~30万程度になるかと思いますが、上手くやればもう少し費用を抑える事も出来るかもしれませんし、おそらく時間が経つにつれ初期費用は徐々に安くなっていくと思います。
初期投資をしてVRChatをインストールし、アバターにVRカメラを仕込んだら、あとはVRChat内のワールドでどんどん撮影の経験を積んでいくだけです。
慣れるまでは少し時間が掛かるかもしれませんが、追加レンズ代や旅費等の大きな経費が掛かる事もありませんし、少しの空き時間があれば家からすぐ撮影に出掛ける事が出来ます。
毎日といって良いほど新しいワールド・新しい景色が作られ、アップロードされますので、風景写真であれば本当にずっと撮って居られると思います。
また写真に誰かが写り込む事もありませんし、早朝の写真を撮るために早起きする必要もありません。本当に気兼ねなく撮影に集中する事が出来ます。
主にPixivBoothにおいて2千~3千円ほどで販売されているVRカメラをアバターに仕込めば、広角・望遠・焦点距離・F値等のレンズ設定も自由自在で、変更してももちろん追加費用は必要ありません。
ただ実装するにはゲームエンジンであるUnityの操作が必要です....が、解説してくれている記事等には事欠かないですし、インストールを簡単にしてくれるアドオンが付属している場合もあるので、そういったものを利用すればそこまで心配せずとも大丈夫だと思います。
代表的なVRカメラの一例(PixivBoothリンク)
flexLens BY たいらっく!
VirtualLens+: 被写界深度シミュレーション BYろじらぼ
VRCLens: 多機能のデジカメようなシミュレーション BYひらびきWORKS
VRカメラに関して一点だけ補足すると、VR世界のVRカメラには今の所は露光時間という概念が再現されていません。
その代わりに各種ライトやポストプロセスというワールド側の機能を利用して、アバターやワールドの明るさ、また景色の見え方をダイレクトに変更する事が出来る場合もあります。
VR風景写真・VRポートレート・VR美術写真
さて、では撮影する準備が出来た所で、VRでどういった写真を撮影出来るのか?ですが、これは基本的にリアルとあまり変わりません。
【VR風景写真】
これはそのまま仮想空間上に作られた景色を、自分なりのアングルや画角、構図を工夫して切り取っていくものになります。
ワールドによっては撮影のタイミングを見計らう必要があったり、また時間によって変化するワールドもあったりしますね。
基本的にはワールドクリエイターが想定して作成した景色を繰り返すので、リアルの様にレアリティの高い情景等に出会う楽しみ....というのは少ないかもしれませんが、逆に絶対にVRでしか見る事が出来ない景色、というのも沢山あります。
私の場合ですが、撮影ギミックを仕込んだアバターで撮影しに行く時の気分は、リアルでカメラバッグを片手に出掛ける時の気分と全く変わりません。
好きなクリエイターさんが作成したワールドが発表される度に、どんな景色が撮れるだろうか?と期待する気分は、リアルで撮影旅行を計画している時の高揚感そのものです。
どんな景色が見られるのか?気になった方は、ぜひTwitterで「#VRChat_World紹介」というタグを検索してみて頂ければと思います。
[作例]
World: CwanLibrary Author: しーわん
World: 遠鯨埠頭 onkei wharf Author: L'ermite
World: Olympia (v1․11) Author: DrMorro
World: Piano in Cogstoric Author: [Lemm]
World: 黄昏の雨が上がるまで - Twilight of a World Author: tiwa
【VRポートレート】
VRChatの中には本当に沢山のプレイヤーが、それぞれのセンスをもって工夫を凝らしたカスタマイズ(改変)を行った3Dアバターや、オリジナル3Dモデルのアバターで日々VRでの生活を楽しんでいます。
そのモデルをメインにおいて撮影されるバーチャルフォトグラフが、VRポートレートです。
現実のポートレート撮影と同じく、VRカメラを用いる事によって背景を大胆にボケさせて、アバターの存在をより強調した写真を撮る事が出来ます。
自撮りで撮影する人も居ますし、フルトラッキング(全身の動きをキャプチャーしている事)でプレイしている友人に、モデルになって貰って撮影する事も多々あります。
皆で出掛けた先のワールドで、何気ない風景と一緒に友人達や自分自身を撮影するのもとても楽しいと思います。
また不定期に撮影会が行われていたりしますので、人物モデルを撮影されたい方はそういったイベントに参加されると良いかもしれません。
「なりたい自分になれる。」
VRChatの世界においては、誰しもが好きな姿になる事が出来ます。
リアルでは基本的には不変である人物の容姿を、自由自在に変化させることが出来ます。
リアルでは他人のカメラに写る事を敬遠する人も少なくありません。
時には迷惑だと嫌がられた事があるカメラマンさんは少なくないと思います。
ですがVRChatの中では、ちゃんと良い写真を撮りたいという意思が見えるのであれば、VRカメラを向けられる事を嫌がる人はほとんどいないのではないでしょうか。
皆、自信を持ってカメラの前に立ってくれると思いますので、是非あなたのセンスで、可愛く・格好良く撮影してあげて欲しいと思います。
[作例]
Model: ろるる
Model: 93poetry
Model: 奏音リリィ
Model: 青猫
【VR美術写真】
様々な凄腕ワールドクリエイターが作成したとても美しいワールドに、自分の理想を体現した姿を合わせて、自分の美的センスを最大限に使って表現し、芸術作品として昇華させる。
私的にはこれがVRChatで撮影されるバーチャルフォトグラフの最高峰の醍醐味ではないかと思っています。
リアルの美術写真の場合、まず撮影するロケーションを選んでロケハンし、その後で被写体にモデルさんを呼んだり、その場に居た人をモデルにして撮影される事が多いのですが、VRChatでは主に自撮りで撮影される事が多い様に思います。
表現者であるカメラマン自身が頭の中に思い描いた絵を、一番上手く再現出来るのは他ならぬカメラマン自身である。
書いてしまうと当たり前ではあるんですが、リアルの場合だと自分自身が被写体になれるカメラマンというのは居なくは無いとはいえ、なかなかに稀有な存在なんですよね。
なので実際は撮りたい写真に見合うモデルさんに依頼するか現地調達し、そのモデルさんに対してあっちこっちと位置を指定したり、ポーズを細かく指定して撮影する事になる訳です。
VRChatの場合はどうでしょうか?
誰しもが好きな姿になる事が出来ます。必要な姿になる事が出来ます。
カメラマン自身が自ら撮りたい姿で、撮りたい場所で、撮りたいポーズをとって写真を撮影する事が出来る訳ですね。
またカメラを設置する場所についても、リアルの様に三脚を使用する必要もなく、ドローン機能を使用する事で空中に固定する事も出来ます。
そういった事があり、自撮りで撮影するバーチャルフォトグラファーが多いのではないか?と考えられます。
[作例]
World: Piano in Cogstoric Author: [Lemm]
Model: ろるる
World: Just Moved In Author: Lucifer MStar
Model: 青猫
World: Color Shower Author: yo-guruto
Model: ろるる 青猫
バーチャルフォトグラフは写真芸術のボーカロイドとなり得るか?
まず「ボーカロイド」を知らない方に、簡単に説明しておきたいと思います。ボーカロイドというのは、ヤマハが開発した音声合成技術およびそれを利用した製品の総称となります。
「初音ミク」という名前は、おそらくこの記事を読んでいる人であれば、ほぼ全員が耳にした事があるのではないでしょうか?
DTMソフトに歌詞や歌い方の指示を打ち込む事によって、生身の人間に変わってボーカルトラックを歌ってくれる。という役割の音楽ソフトと思って貰えれば大丈夫です。
それが登場するまでDTMをする人達においては、自分が作った曲にボーカルを入れるとなれば、誰かに依頼して歌って録音して貰う必要がありました。
自分自身歌えるDTMerだったらそれで一応事足りるのですが、もしその曲の表現したいイメージが柔らかい女性の曲なのに、自分自身の声がどうやっても男性の声だったら??
自分が表現したい事を最大限出し切るには、どうしても女性に歌って貰う必要が出てくるわけですね。
そこを上手くカバーしてくれる存在として、ボーカロイドシリーズが続々と登場し、また様々なDTMer・コンポーザーの方がボーカロイドを使用して、ニコニコ動画にボーカルを入れた楽曲を発表するという流れが出来ました。
柔らかいイメージの女性曲ならば「初音ミク」や「MEIKO」や「巡音ルカ」、カッコイイ男性曲なら「KAITO」や「がくっぽいど」など、使用する曲のイメージに合わせてソフトを選び、歌詞と指示を入力する事によって、歌声だけでなく歌い方のニュアンスまで自由に変えて歌って貰う事が出来る訳ですね。
ここまで言えば察して頂けるとは思いますが、バーチャルフォトグラフのうち、とりわけVR美術写真における「VRカメラマン」と「VRモデル」の関係は、「DTMer・コンポーザー」と「ボーカロイド」の関係によく似ているのです。
撮りたいロケーション(ワールド)を決めて、その場でイメージした絵に対して最適な被写体の姿になり、細かなニュアンスは自分自身がポーズをとる事によってその場で即座に再現する事が出来る。
これまで美術写真を撮影するに当たって必要だった、被写体とのコミュニケーションすら全く必要とせず、カメラマンがたった一人で作品の完成までこぎつける事が出来る様になる。
これがバーチャルフォトグラフの素晴らしい利点です。
もちろんそれが一番良いやり方であると言う訳ではなく、作例に上げた様に誰かにモデルになって貰って従来通りのやり方で撮影するのもとても楽しいですし、自分自身が撮りたいテーマにこだわってみるのも良いと思います。
あくまで撮影手段の一種だと捉えて貰えれば幸いです。
確かに今はまだリアルの写真には及ばないかもしれませんし、所詮ゲームの中の画像だと切って捨ててしまう事も出来ると思います。
ですがその画像は、一人のカメラマンが構図を考え、カメラを設定し、モデルを配置してポージングさせ、リアルの写真と全く同じ工程で撮影されたものです。
前述のボーカロイドも、最初の日本語対応ボーカロイドである「MEIKO」が販売された当初は「機械的だ」とか「所詮オモチャ」とか、冷ややかな反応が少なからずあったそうです。
それが今となっては音楽の一つのジャンルとして認められるまでになり、それだけではとどまらずボーカロイドを使用していたクリエイターの中から、プロのミュージシャンにまで成る人も出て来ました。
今後VRの世界においても、PCのアベレージスペックが上がるにつれて、ワールドのクオリティがさらに良くなり、またアバターの見え方もどんどんと精細になっていくと思います。
そうなればバーチャルフォトグラフのクオリティも比例して良くなり、作品としてのレベルもさらに高まると思います。
そしていずれそうなった暁には、バーチャルフォトグラフが写真芸術の一ジャンルとして確立し、さらにはバーチャルフォトグラフ出身の写真家が生まれても何らおかしくないと私自身は思っています。
また、ぜひそうなって欲しいと願っています。
あとがき
VRChatの世界では、カジュアルに自撮りをする事が多いです。
どこかイベントに出掛けた時、綺麗なワールドに訪れたとき、自分自身のアバターを構図に入れてシャッターを切ります。
その時は、リアルでスマホのインカメラを使って撮影する時と同じで、自分自身を撮影しているという感覚があります。
つい先日の事ですが、いつもの様にVRChatの空間でVR写真撮影をしている時に、ふと「いつも何気なく撮っている自撮り」とは全く違う感覚を感じながら撮影している事に気付きました。
アバターを着て自分自身にレンズを向けて撮影している。という行為には変わりないのですが、被写体が「自分」ではない様な感覚を感じます。
自分の身体を使って操作しているのではあるのですが、あくまで構図の中で表現したい「絵」を作るために自分ではないキャラクターを動かしている。そんな感覚でした。
これは何なんだろうか?と思い考えた結果、よく似た感覚を得た事があるのを思い出しました。
初めて「初音ミク」をダウンロードして、自分のオリジナル曲をわからないながら必死に入力していた時の感覚です。
そして一番最初に再生ボタンを押した時。
自分以外誰も歌う事の無いはずの曲を、少しぎこちないながらも可愛らしい声が歌ってくれている。自分ではない存在が自分の意志を汲んで歌ってくれている。
それが少し気恥ずかしく、とても嬉しかった事を今でも覚えています。
青猫
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