
vol.56 「恵比寿映像祭2025」に行ってきました #ゆる展
先日、1月31日から2月16日まで開催された「恵比寿映像祭2025」に行ってきました。恵比寿映像祭とは、東京都写真美術館と周辺で映像作品が半月ほど展示され、ほぼ無料で鑑賞できるお祭りです。実は初めて、念願の恵比寿映像祭に行くことができたのですが、「無料で見ていいの?!」というくらい多くの作品を鑑賞することができました。今日は、映像祭で観た好きな作品をひとつ、紹介します。
ちょっぴり皮肉的?Gary Hill《Remarks on Color》1994年
Gary Hill
Remarks on Color
1994
Single-channel video
Courtesy of the artist and Electronic Arts Intermix, New York
本作は、作者の娘であるアナスタシア・ヒル(当時8歳)が、ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインの書籍「Remarks on Color (色彩について)」を朗読している様子が収録されています。アナスタシアは約45分にわたり、朗読し続けています[1]。書籍の内容は、「人間は色を認識するのに、科学的な見方*で色を識別するのではなく、色を見た人たちがどう感じたか、それを言葉で他の人に伝えることによって、色の概念が生まれるのではないか?」ということが書かれているそうです[2]。
*科学的な見方:物理学者のアイザック・ニュートンが提唱した、色彩と波長の関係性(波長の長さによって、光の色が赤や青に見えること)[3]
色彩に対する直感的なイメージを「言葉」で伝えることにより、その色の概念が生まれる、と書籍では主張されていますが、果たして、アナスタシアは書籍に書かれている「言葉」の意味を理解しながら朗読できているのでしょうか。作者は、アナスタシアにすべての単語をできる限り上手く発音するようにお願いをしました。その結果、アナスタシアが読み上げる文章は、不思議な抑揚になったり、言葉と言葉の間を切るタイミングが文章の意味合いと合わなくなったり、読み間違えによる文章の意味の変化が起きました[1]。例えば、アナスタシアは単語をこのように読み間違えてしまいました。
「five-sided angles(五角形)」→ 「five-sided angels(五角形の天
angles(角度)とangels(天使)の読み間違え
「now(今)」→「know(知る)」
発音は、少しずつ違いますが、nowもknowも発音が「ナウ」と似ています。
本作では、アナスタシアが「言葉」を綺麗に発音することを意識した結果、言葉・文章の意味を理解するところまで到達せず、単に音を発している様子が描かれています。この作品をはじめて見た時、「可愛らしい女の子が一生懸命、本を読んでいるな〜」と思ったのですが、 解説文を読み、言葉で色彩の概念を伝えることを提唱しているのに、女の子の朗読の様子がそれに相反していて、皮肉的でとても印象的でした。作者の他の映像作品は、初台にある、NTTインターコミュニケーション・センター(略称:ICC)で見ることができるようなので、みてみたいと思います[4]。
恵比寿映像祭、今まで行ってなかったのがとても勿体無いくらい充実した祭典でした。来年の開催が楽しみです!
<引用>
1.Remarks on Color, GARY HILL, https://garyhill.com/work/mixed_media_installation/remarks-on-color.html (参照 2025.02.23)
2.作品キャプション/ 解説文より, Gary Hill, Remarks on Color*,* 恵比寿映像祭2025, https://www.yebizo.com/ (参照 2025.02.15).
3.光と色, 武蔵野美大, https://cc.musabi.ac.jp/zoukei_file/03/sikisai/hikari.html, (参照 2025.02.23).
4.ゲイリー・ヒル, NTTインターコミュニケーション・センター, https://www.ntticc.or.jp/ja/archive/participants/gary-hill/,(参照 2025.02.23).