Il semble qu’il va pleuvoir.
激しすぎない雨と風で心地よいざわつきの漂う窓辺のソファで、司祭がひとときのうたた寝から目覚めた。体勢を整えるために置かれたいくつかのクッションと、胸までかけられたブランケットと、司祭の体重を受け止め隣で窓の外を眺めながらくつろぐ男をぼんやりと視線だけで確認する。戻ってきた、と、固まる体をゆるく動かしながら深く息を吐いた。夢から帰りその存在を思い出した肉体に、肩や背中に触れる男のぬるい体温が心地よい。
「おはよう。気分は?」
「悪くはない」
肩に回された腕がブランケットを引き上げるのをそのままに、司祭は焦点の合わない視線を漂わせながらまばたきを繰り返した。
「元気がないね。嫌な夢でも見たかい」
「いや、大丈夫だ。少し先の、いつかのことを考えていた」
「先のことなど、考えたって仕方がないだろう」
「そんなことはない」
司祭が目を合わせぬまま、男の胸に頭を擦り寄せる。布越しの男の胸は変わらずぬるく、一方の布越しの司祭の頭は少し熱い。
「僕のことじゃない。おまえのことだよ」
「私?」
その頭を包むように撫でる手は少し冷たく、熱をじわりと奪っていく。
「僕にはおまえのことだけが心残りだ。いつか、僕を喪って、心を病んでしまわないか」
とつとつと語る口ぶりは柔らかいが、そこに込めた感情を覆い隠すようでもあった。
男の体が嬉しそうに少し弾む。
「ふふ、君はそうなってほしいんだろう」
「そうだよ。おまえが死ぬまで、僕の死を悲しみ続ければいい」
「君はわがままだ」
「叶わなくとも、願うくらいはいいだろう」
「どうだろうね」
男は顔を寄せ、鼻で髪を掻き分けるようにして司祭の頭に唇を落とした。満足そうにも聞こえるため息が司祭からこぼれ落ちる。
「その日が来るまで、僕はこうやって、毎日少しずつおまえを呪うよ」
髪を撫でる手を掴み引き寄せ、司祭は男の手の平に唇を押し付けた。
「どうぞ、君の思うままに。その日が来るまで、私はそれを受け入れるだけだ」
互いに触れる唇が熱と呼吸の振動を伝え合う。雨はまだ、しばらく止みそうにない。
2022.01.13 雨が降りそうだ