ガタンゴトン
ポカポカとした陽気の昼下がり。
電車の駆動音だけが響く車内で、小気味よい振動が入眠を誘う。
いつも車内はこんなにガラガラなのだろうか。
同じ号車に乗ってる人の数もまばらで、片手で数えるほどしか乗っていない。
背後から差し込む日の光は、座席の赤いシート表面の規則的なパターンを鮮明に浮かびあがらせる。
縫い目のようなステッチのプリントが、半個周期で等間隔に配置されていた。
鉄道によって座席シートに使われる布地の色やデザインは微妙に異なるらしい。
マニアの手にかかれば特定も容易らしいが、自分がいつも乗っている電車のシートすらどうにも思い出せそうになかった。
習慣とは恐ろしいもので、日々のルーティンが無駄を削ぎ落とす過程で様々な情報を捨象していることに気付かされる。
知識の有無が目に映るものの解像度を上げていく。道端に咲く名もなき花も、図鑑を片手に歩けば勇気をくれる存在になるかもしれない。
車内で同じ時を過ごす名もなき同乗者にも、自分の知らない名前があり、名前に紐付けられたストーリーが確かに存在する。
なんだか気持ちよくなってきて、うとうと微睡んでいると、アナウンスが目的地にまもなく到着することを告げた。
写真提供:おまつさん(@omatsu_uuu)
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