鎖
この世界と繋ぎ留めてくれる鎖が欲しかった。
気を抜くと体ごと持っていかれそうな瞬間が不意に訪れる。
僕はその度に自分の心を強くこの世に押し当てるしかない。壊れないように優しくする余裕はもう無くなっていた。
人はよく「一時の気の迷い」といった言葉で表現するが、たとえ一瞬でも手放してしまったら取り戻せないものがある。
あてもなく外を歩いていると、昔遊んだ公園に見覚えのないブランコが揺れているのが目についた。
近くまで行ってみると、鎖は錆ひとつなく輝きを放っている。まだ新しい。
前にここにあったすべり台で今思えば他愛のない喧嘩をして絶交した友達のことをふと思い出した。
人気のない公園にいい歳した男が一人でブランコに腰掛ける様子はかなりシュールなものだっただろう。でも、そんなことはもうどうでも良かった。
地面を軽く蹴りとばす。瞬間、生まれる浮遊感。一定のリズムで可動域が音を立てて軋み、僕の体はそのまま前後に揺られた。
今、この鎖を手放せば僕の体はそのまま宙に放り出されるだろう。
まるで僕の人生そのものじゃないか。
僕は手にグッと力を込めると、タイミングに合わせて地面を強く蹴った。
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