日常的にリスクをとる瞬間
乗り換え駅で降車して、次の電車に乗るためには駅のホームを移動しなければいけない。
階段は登る人と降りる人で手すりで二分されており、すれ違う人のファッションが網膜に映り込むのを止めることはできない。
常に二つ上の段に立つ人の後頭部を眺めながら、黙々と階段を登る。
視線を少し下げると、入れ違いに電車の乗る人の流れも階段まで続いていた。
ポケットに手を突っ込んだイカついおっさんが一段飛ばしでスタスタと階段を降りていく。
階段を昇り降りするときにポケットに手を入れられる人間は、リスク許容度がよっぽど高いなぁといつも思う。
例えば、階段から足を踏み外したとき。
きっと華麗にバク宙でも決めて、現状復帰できる算段があるのだろう。
後ろから突き飛ばされたとき。
そのまま華麗にバク宙の逆回転でも決めて、現状復(以下略)
夏の終わりは早朝の風がひんやりとする。
体の先っぽはちょうど熱を放出しやすく、体温の低下を感じ、見兼ねてポケットに手を入れる。
体温を介した温もりが指先に伝わる。
駅のホームに電車が滑り込む。
乗り換え先の電車がいつもより30秒程度、早く到着したようだ。
僕はポケットの中で弄んでいた鍵から手を離すと、手すりの上に手を浮かせて階段を間に合うように駆け降りた。