私のスマホ写真で振り返る今年のイベント体験 2023 【7月-その2】羊文学
🔷羊文学
運転しながら、職場で流れているFMを聴きながら、歌が気持ちに触れる一瞬がある。
そんな時は曲名を憶えておいて、車を止めてすぐにスマホにメモする。メモできない時には、後で放送局のオンエア曲リストで探す。
そうやって書いた曲名リストが積み重なって、何十曲にもなっている。そのリストに何度も登場する名前、「羊文学」と「カネコアヤノ」。
気持ちにゴロっと感じる違和感があって、それは少し重くて、ずっと気になっていた。
私は気になりながら、この一組と一人を、なんとなく敬遠していた。どうしてなのかな。そこに何かがあるような気がする。
◆ ◆ ◆
この二人は、ちょっと知的なにおいがする。根拠はないんだけど、なんとなくそう思う。
カネコアヤノは、ウクライナ戦争開始直後にマヒトゥザピーポーが企画した、新宿新南口での路上反戦ライブで歌っていた。様々なしがらみやリスクがある中でも反戦を大声で言えるミュージシャンは、しっかりとした考えをもっていると思う。ロックって本当はそういうものだよな、とも思う。
一方で、彼らは強い何かを持っている分、個性とクセもあるように感じる。だから、なんとなく避けてしまう。聴くには気持ちを構えないとな、と私は思う。
それほどまでに、私の耳が「商業的」とも揶揄されるJJポップに慣れすぎている。だから、彼女らのメッセージを、「重い」と感じてしまうのかもしれない。
羊文学はどうだろう。彼女は恋愛の歌をあまり歌っていない。歌っているのは、暮らしの中の小さなできごとや現実。価値観や葛藤。そして、聞き流していた曲の歌詞を読むと、命を歌っていた。
◆ ◆ ◆
それから、詞を書いているボーカルの塩塚モエカは、言葉を大切にしていると思う。丁寧に選ばれた言葉は、優しくて、心地よく響く。
アルバム「our hope」の冒頭の曲「hopi」
🔵hopi 作詞:塩塚モエカ
命を歌った歌。新しいアルバム「12 hugs (like butterflies」の一曲目
🔵Hug.m4a 作詞:塩塚モエカ
🔵Flower 作詞:塩塚モエカ
◆ ◆ ◆
何となく向き合えずに羊文学に距離をとっていた私に、Twitterのフォロワーが、「光るとき」と、後に「マヨイガ」を教えてくれた。
🔵光るとき
作詞:Moeka Shiotsuka
ほら、やっぱり塩塚モエカは、恋じゃなくて時代と命と世界を歌っている。
この歌を、通勤途中にコンビニに止めた車の中で聴いて、泣いたんだった。
今の空気を持つ時代を、もう一人の自分が見ているような感覚。
自分の生と死と、そのあとも続く命。
自分の時間の終わりをよく思い浮かべる。
私がいたことを誰かが憶えていてくれたら、誰かの中で生き続けてくれたらな。
◆ ◆ ◆
こんな歌を歌う人だから、きっと何かを持っている。そう思って、ずいぶん先にある三つの羊文学のライブチケットを買ってしまった。
ファンでもないのに。一曲しか聞いたことがないのにね。
間近で聴いてみて感じたのは、ボーカルの塩塚モエカの若さと素直さだった。
彼女は、見られることを気にしていないように見える。素のまま、ありたいままの姿で、等身大の彼女がそこにいた。他人に過剰に適応しようとする私にとって、「人を気にしない」というのは、驚異的とさえ感じる。
タフなパーソナリティを持っているか、極めて自己中心的なのか。そんな強い個性が、私が敬遠してきた理由なのだと思う。
もしかして、彼女のような人との距離感は、新しい世代の特徴なのかもしれない。彼女は私にとって、次の時代を担う新しい世代の象徴のように見える。
そして、彼女らに任せるなら、安心して自分の時代を終われる気がする。空から新しい時代を眺める楽しみができた。
文・写真:©青海 陽2023
🌼 次回の更新は 未定です 🌼
🧸 連載無期限休止中 🧸