🔷GEZAN
仕事を終えて、車で向かった。中野サンプラザは夏には取り壊されるため、私にとってはたぶん最後になるだろう。深い椅子に座って、GEZANの歌に出会った時のことを思い出していた。
消灯後の時間、病院のベッドで布団を頭からかぶって、FMラジオを聞いていた。ヘッドフォンからは、初めて聴くGEZANの「DNA」が流れていた。刻むエレキギターの音が丸く柔らかだった。
その番組では、作家と思われる女性がインタビューに答えて、好きなバンドとしてGEZANを紹介していた。「ライブがとにかく楽しい」と。「ばななちゃん(吉本ばなな)も一緒にライブに行って盛り上がっているんだ」と話していた。
2018年の大晦日に、突然の心筋梗塞で救急搬送されて緊急手術をした。あとで振り返れば予後は順調な方だったのだろうが、あの時は、確かな明日はなかった。術後のCCUのベッドでは、不整脈で私の心臓モニターのアラームは何度も鳴っていた。動けないベッドの中で、私がすべきことは、生きていることだけだった。
一般病棟に移ってから、小さいラジオを許可された。ラジオが、孤独を和らげてくれた。命の瀬戸際を経て敏感になっていたので、歌がいつもよりもずっと、深く気持ちに響いた。メロディが、優しく気持ちを撫でてくれた。言葉のひとつひとつが、意味を帯びて深く響いた。
DNAの歌詞を聴きながら、私の命が、体を失って羽を持ち、大切な人の上を舞うのを想像した。どんなにクソでも幸せになってもいいし、人間を続けてもいいと思えた。彼の言葉のかけらに、温かい涙がポロポロとこぼれ落ちた。
アンコールでDNAのイントロが流れた時に、マスクをした顔を両手で覆って、声を上げて泣いた。
私の嗚咽は、ライブの熱狂の中でかき消されて、誰にも気づかれなかった。
赤いフロアが、波打っていた。
文・写真:©青海 陽2023
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