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荒井良二の絵本の魅力

今まで考えてみたことがなかったが、私は彼の作品のどこに魅かれているのだろう。そこで改めて彼の作品二十四冊を読んでみた。


 まず気づくのは、前の記事の『そりゃあもういいひだったよ』のように、その世界に没頭できることだ。淡くても伝わる強さを持つ絵と、選び抜かれた言葉によって、絵本の空気の中に入っていく体験ができる。それが例え荒唐無稽な空想の世界であっても、現実的なことを一切考えずに没入できる強い世界観が、それぞれの作品で描かれている。 

 二つ目の魅力は、いずれの本にもある色彩が豊かさだと思う。『なんていいんだぼくのせかい』という作品があるが、この言葉のように、彼の描く世界は彩りに満ちている。そこに満ちているのは光なんだと思う。しばしば登場する太陽の描写が、本当にまぶしい。月の色が温かい。空や水の色がとても深い。



 三つ目に、これは改めて気づいたことだったが、ページの使い方のダイナミックさがある。見開きページが、パースペクティブと呼ばれるような広がりを持って、大きく使われている。写実的に見た場合には不自然な大きさや画角の時もある。けれども、私たちの気持ちの上での見え方はこのようだ、と思う。気持ちをとらえたものは大きく感じ、かつ遠くにも存在を感じているものが見えている。(そんな絵の画像を添付したいのだが、それぞれの絵本の中では、大きく気持ちの眺望が開ける大切な場面で使われることが多く、これから読む人のためには載せる訳にはいかない)

 四つ目に、発見の面白さがある。粗く描かれたように見えるレイアウトの中にも、世界はち密に描かれている。一つの見開きを、長い時間じっくりと眺めて発見する、楽しみのページがある。



 そして、いずれの絵本にも感じるのは、懐かしさや憧れのような気持ちなのだと思う。言い換えるならば、子どもの頃の自分を愛おしむような気持。世界の果てがまだ未知で、夜が暗かった頃に、私が思い描いていた風景や地平を、彼の絵本を読んでいて思い出す。

 失くしたくない気持ち、本当はまだ気持ちの奥に持ち続けている記憶を、思い出させてくれる。私が絵本の中に探しているのは、そんな感覚なのかもしれない。


 彼が描く雨が、あの時の肌に感じた冷たさを思いださせてくれる。彼が描く夜の空に、一人で明け方に目覚めて見た、窓の外の青の匂いを思い出せる。


🔹私が好きな荒井良二の絵本🔹
そりゃあもういいひだったよ 小学館 2016
こどもたちはまっている 亜紀書房 2020
そのつもり 講談社 1997
なんていいんだぼくのせかい 集英社2012
たいようオルガン 偕成社 2008
きょうのぼくはどこまでだってはしれるよ NHK出版 2019
あさになったので まどをあけますよ 偕成社 2011
きょうはろらにまるいつき 偕成社 2016
じゅんびはいいかい 学研教育出版 2015
水の絵本(作:長田弘、絵:荒井良二) 講談社 2019



 

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文 :Ⓒ青海 陽

読んでいただき、ありがとうございます!☺ かつての私のように途方に暮れている難病や心筋梗塞の人の道しるべになればと、書き始めました。 始めたら、闘病記のほかにも書きたいことがたくさん生まれてきました。 「マガジン」から入ると、テーマ別に読めます(ぜんぶ無料です)🍀