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日経WOMAN 女性の手帳特集号を読む【4】

前回は、手帳の背景にある、女性の就労状況や社会の中でおかれた状況を考えた。そして女性の生活像により、その手帳は男性と違う使い方になり、独自に進化しているのではないかと推察した。
そこで今回は、改めてここ数年の手帳特集の変化と、そこから見える女性の手帳の強みについて考えてみたい。

6.ここ数年の手帳特集の変化
(1)2019年11月号

テーマ 「2020年、私が劇的に変わる!手帳のコツ200」

特集の主なコンテンツ
①なりたい自分に近づく手帳のコツ
②目標達成別・夢をかなえる手帳術
③手帳の選び方&カタログ
④手帳が続かない』を解決!
⑤最新!手帳文具&ワザ

ページ数:52ページ

一昨年(2019年)の手帳特集は、従来からの変化は小さい。

1)定番のフォーマット選択指南
定番は③と⑤。生活様式によりマンスリー、ウィークリー、デイリーいずれのフォーマットを選択するかのアドバイスは、これまでと同様である。

これに加えて、特に手帳の様式とデザインが多彩になったここ数年は、自分の書きたいことに応じて、ウィークリーであってもレフト、バーチカル、その他のいずれか、またデイリーの場合も、各社の独自のフォーマットを選ぶか等が、手帳の最新デザインとともに紹介されている。

2)より現実的になった未来指向
また、例年と似た傾向は、①や②のように自分を叶える「未来指向」である点だ。

一方、よく見ると、「憧れのあの人の手帳拝見」のようなコーナーがなくなっている。

逆に実例としては、①の記事では、「副業を実現!」「振り返りで習慣化」「手書きとデジタルで何でも一元管理」「資料作りが時短できる」「モヤモヤ・イライラがなくなる」「シンプル色分けルールで一目瞭然!ミスゼロ」「残業をコツコツ減らした」の7人のOLの手帳が紹介されている。

また、②の記事では、「出費を減らす!マネー手帳」「クローゼットをスッキリ片づけ手帳」「月経周期や体調を記録し。『無理しない日』をつくる体調管理手帳」「目標を意識した『PLAN』で最優先の『DO』を絞り込む勉強手帳」の5ケースが取り上げられている。

これらは、ここ数年見られる現実路線への変更ととらえられる。テーマはより現実的になり、自分でもやってみることができる所まで、目線が下げられている特徴がある。

3)「手帳が『続かない』」に見る、女性の手帳の特徴
④の「WOMAN読者の3人に1人がお悩み中」という「手帳が『続かない』」。これは女性の手帳に特有のテーマであり、男性には理解が難しい。男性にとって、手帳は「仕事に使うスケジュール管理、タスク管理のツール」なので、「続かない」ということは考えられないからだ。

ここに女性の手帳の大きな特徴が現れている。それは、手帳を「日々の記録」として使うことだ。

記録の例として、習慣化したいこと、WISHリストの振り返り、趣味の記録、旅行の記録など、それぞれのテーマが紹介されている。特に夢をかなえる目的での使い方では、「振り返り」が大切な場面とされている。

ここまで目的を絞った記録でなくとも、女性の手帳には書き残す目的の記述がある。例えば「友達と食事に行った店の名前」や「食べたもの」、「楽しかったこと」、「嬉しかったこと」等。これらは、男性にはない大きな特徴である。男性は、「待ち合わせ場所」としての店の名前を書くことはあっても、行った後で店の名前を書き残すことは、ほぼない。男性で、家に帰ってから、仕事のスケジュール確認以外の目的で手帳を開く人は、少ないのではないか。

このように、女性の手帳には未来指向であるだけでなく、書き残し、後で読み返すことを前提として書かれている特徴がある。男性の手帳術の本では、終わったことを書くことを「ログ」「ライフ・ログ」等と呼ぶことがあるが、主に仕事上の情報の集約や活用を目的として書かれることが多い。

私は、この女性に特有の「書き残す」手帳の使い方について、十年くらい前から気になっていた。一方、このことは、これまで日経WOMANの手帳特集では取り上げられることはなかったように思う。
この翌年、社会の変化により、この意味が注目されることになった。

(2)2020年11月号

テーマ:書いて”私の今”を残したい人、急増中
    私たちの手帳術2021

特集の主なコンテンツ:
①未来を「書く」から「残す」に変化!?
 いまどき「手帳」のリアル
②コ ロ ナ禍で手帳を「書く」意義、こんなにありました!
③人生が回りだす すごい手帳ワザ
④毎日がワクワクする すごい手帳ワザ
⑤タイプ別「自分にピッタリの手帳」の見つけ方
⑥手帳のタイプ別・書き方テク43
⑦今だからこそ始めたい「連用日記」のススメ
⑧最新手帳文具カタログ34

ページ数:49ページ

③の特集では、コ ロ ナ対策業務の人や、コ ロ ナで手帳を乗り換えた人、在宅勤務のタスク管理などが社会情勢と関連付けられて取り上げられているものの、実は従来の特集とあまり違いはない。④⑤⑥⑧も例年の定番企画である。
これまでと最も大きな違いは以下の記事だった。

1)生活様式の激変と手帳
この年は3月からのコ ロ ナの感染拡大に伴い、生活様式や働き方が激変した。その年の年末近くに発行されたのがこの号となる。

特集の始めに、読者の声として「3月末で派遣の仕事がなくなり、書くことが激減。手帳が真っ白に…」「テレワークで通勤中に手帳を確認するフローがなくなり、手帳をあまり開かなくなった」「先の予定が見えず、記入する頻度が減って、手帳を持ち歩かなくなった」等の現状が紹介されている。

その上で、「混沌とした時代だからこそ、「手帳」は私たちの大きな味方です」の表題のもと、「1 モヤモヤする心を元気にする」「2 テレワークでも仕事で成果を出す」「3 時間の使い方を整えて毎日が充実」「4 日々を記録して書き残す」を、コンテンツの大きなイメージとして示している。

今回の特集で、手帳に関する読者アンケートが実施されている。(日経WOMAN公式サイトで8月に実施。有効回答数681名、平均年齢41歳)

②の特集の中で、アンケートの「コ ロ ナ禍で手帳の使い方がや書く内容は変化した?」の問いに、19.5%が変化があったという回答を紹介。意見として「テレワークでメールやチャットが増え、~(中略)~手帳にToDoリストを書いて抜け、漏れを防止」「予定が減ってあまり書かなくなった」「家にいる時間が長くなり、手帳と向き合う時間が増え、今後どうありたいかを書くようになった」「今までは時系列のスケジュール管理だったが、その日のログを記入するようになった」等が取り上げられている。

2)「今を書き残す」ニーズへの変化
また、3社の手帳メーカーへの最近の手帳の傾向に関するインタビューへの回答では「仕事用、プライベート用、気持ちを吐き出す用など、複数の手帳の使い分けが流行っている」「スケジュールはWebで管理、一方でライフログ、日記、お金管理、習慣トラッカーを手帳に手書きする人が増加。「今を書き残したい」ニーズが高まっている」「手帳の売り上げがアップ。外出が制限されてモヤモヤする気持ちを紙に書き、ストレスを発散する人が増えているよう」等が挙げられている。

全般的傾向として、「手帳は『未来を書く』から、『今を書き残す』ニーズに変化しつつある」。これにより、各社は2021年度版は時間軸をなくす、減らすなど、より自由なフォーマットの手帳を数多くラインナップする予定とのこと。
また、「書いて残す」という傾向から、特集⑦では、改めて「連用日記」(複数年の同じ日付が同じページに並ぶ日記帳。3、5、10年用等がある)が取り上げられている。

このように、在宅の時間が増えたことにより、仕事に関する手帳の記述が変わっただけでなく、手帳と向き合う時間が増え、手帳がログとして使われる傾向が強くなっている。

3)女性の手帳が力を発揮する時
特集②では、手帳を「書く」意義の再発見について、読者の意見をいくつかのカテゴリーに分けて紹介している。大きく分けると「過去の手帳を見返して元気になる効果」「落ち込む気持ちの中でプラス思考する効果」「記録を書き残して日々を実感する効果」「仕事、家事、努力のタスクを書いて張りを持たせる効果」「やりたいことを思い描く効果」「自分の価値観やありたい姿の確認モヤモヤの発散効果」が、手帳を書いていて良かった、救われた、というエピソードとして取り上げられている。

上記のような活用の仕方は男性の手帳には一つもない。男性の手帳は、在宅勤務の新たなタスクを管理するために機能はしただろうが、予定が書かれなくなったスケジュール欄は他の何かによっては埋まらず、空白が残されたのではないか。そして、手帳に、すなわち業務に求めたのは、在宅でいかに以前と同様に仕事をするかであって、ステイホームは新しい何かを生まなかったのではないか。まして、男性の手帳は、危機の中で自分を保つ「武器」にはならなかったのではないか。

生活様式の激変の中で女性の手帳が強いのは、以下のような理由によるものだろう。

・いつか読み返すために書かれているため、過去の手帳が力を発揮する
・もともと自分を見つめる場として手帳が活用されている
・仕事以外のことも書く習慣がある
・常にある十分ではない環境の中で、私を主語にして夢を描いている

社会の条件や当たり前の前提とされてきた価値観が、予期せずに一度に失われる異常事態の中で、女性は変わらずに等身大で自らを見つめ、描き続けていた。この特集の中で、初めて女性の手帳の強みに女性が気づき、言葉にできていたのだと思う。この特集では、コ ロ ナを共通言語にして、女性は共感しつながることができていたのではないか。


(3)2021年11月号

テーマ:毎日がもっと大切に&愛おしくなる 手帳の使い方

特集の主なコンテンツ:
①みんなの最新「手帳」事情をウォッチ
②自分にピッタリ合う手帳の選び方
③マンスリー手帳の使い方
④ウイークリー手帳の使い方
⑤デイリー手帳の使い方
⑥夢をどんどん実現していく人の「WISH」リストの書き方ルール
⑦最新手帳ラインアップ2022
⑧手帳と一緒に使える「推し」文具36連発

ページ数:49ページ


前年に前述のような経過で、女性の手帳が強さを発揮し、手帳の意義が確かめられた特集を経て、今年の特集がどう進んでいくのかに私は興味があり、注目していた。
                                        
①が導入部のアンケート(同年8月公式サイトで実施。有効回答数605)。今回は平均年齢が42歳だったが、前年が41歳、11年前(2009年)が33歳となっている。このことから、以前の読者世代の何割かがそのまま歳を重ねて、引き続き読者層の中心となっている可能性が考えられる。
②は手帳のフォーマットと大きさの説明で、これも毎年のとおりである。

今回は②を踏まえて、③~⑤で、各フォーマットの使用例に大々的に取り上げられている。この実例が、極端にライフログ寄りになって、ある意味先鋭化しているのが今年の特徴だった。

フォーマットごとに、使用例とメーカーからの提案の2部構成になっている。前半の使用例は、手帳というよりはむしろ「作品」と呼ぶ方が良いかもしれない。以下にいくつかを掲載する。

1)実例の紹介(マンスリー)


2)実例の紹介(ウィークリー)


3)実例の紹介(デイリー)

各フォーマットを、自由な発想で従来の使い方にとらわれずに使っているのが面白い。ただし、これらの手帳の多くは、前年から流行っているというにプライベート用に使い分けられた手帳か、または手帳を人前で開く必要がない業務形態の人ではないか。というのも、私も以前、ほぼ日手帳を似た方法で使っていたことがあるが、プライベートの写真を貼り付けたページは人前で開くことができなかった。スケジュール調整をするために、どうしても客先や同僚や部下の前で手帳を開く必要がある。時に手帳の予定欄の空きを指しながら話すこともある。だから、プライベートの予定さえ記入しにくいのが現状である。
したがって、この使い方はどちらかというと日記に近いかもしれない。そう考えると、女性の手帳の「続かない」という言葉の意味もわかる。

これらは、ログを中心に考えるとこのようになるという例である。前年にはステイホームという共通項があり、読者が共感しやすかった。今年も、女性の手帳は私が主人公である点には変わりがないが、共感を得にくい「個の強調」にまで至ってしまった感がややある。これが、同じ女性からも「手帳が趣味か」「手帳にそんなに時間をかけられない」と揶揄される点にもなっているのではないか。

4)手帳メーカーからの提案(マンスリー)


5)手帳メーカーからの提案(ウィークリー)


6)手帳メーカーからの提案(デイリー)

各フォーマット記事の後半は、手帳メーカーのスタッフからの提案(メーカー社員が実際に使っている手帳の紹介)となっている。こちらは仕事や育児を中心に書かれている。これでもまだ凝っている印象はあるが、楽しみながらきめ細かく書き留めていった結果は、このようになるかもしれない。


7.おわりに

ここまで四回にわたって、女性誌である日経WOMANの手帳特集号を通じて、女性の手帳を見てきた。
始めは単純な「楽しそう」という関心から始まった記事だったが、細かく見ていく内に、手帳の背景には女性がおかれた生活や働き方があることが見えた。

その上でもう一度、私がうらやましいと思う、男性にはない女性の手帳の特徴を書き出してみる。

①未来を思い描く場になっている
②楽しむ場になっている
③自分を見つめ、癒す場になっている
④大切なことを書いて残している

雑誌の手帳特集では、一定の傾向を持つ人を取り上げて、特定の「イメージ作り」がなされている側面はあると思う。そもそも手帳を男性と女性に分けて考える私のあり方が、性差を前提にしており、現実ははっきりと分けられるものではないだろう。また、女性の手帳の使い方が、望まない働き方の中で、スケジュール欄の空白を埋めるために編み出されたひとつの方法であるのかもしれないという厳しい現実もある。

しかし、そこには明らかに男性の手帳にない特徴がある。それは依然として男性中心の社会の中で、比較して淘汰されるものではないと思う。女性によって手帳に描かれるイメージは、しなやかさと、おおらかさと、強さを持っているように感じる。そんな女性の特徴が社会の中に融合する時、世界がぶ厚くなると思う。

だから女性の手帳は、同じ場で働く中でも、決して男性の手帳に近くなることなく、その良さを育んでいって欲しいと思う。また、私はその秘密に触れるために、これらの特徴を手帳に取り込もうと思う。

そして、私がもっともうらやましいと感じていたのは、女性の手帳が「私」を主人公にしていることだ。
自分に向き合い、自分を大切に思い、自分を癒す姿は、私が見失ってきたもの。できるなら、もう一度取り戻したいものなのだ。

(おわり)


長い長い記事に、最後までおつき合いいただき、ありがとうございました。
また来年、手帳が発売される時期に、続きの話をしたいと思います。


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文:©青海 陽 2021               

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青海 陽
読んでいただき、ありがとうございます!☺ かつての私のように途方に暮れている難病や心筋梗塞の人の道しるべになればと、書き始めました。 始めたら、闘病記のほかにも書きたいことがたくさん生まれてきました。 「マガジン」から入ると、テーマ別に読めます(ぜんぶ無料です)🍀