ワクワクをくれたクルマ | ジムニーSJ30への道のり①
働き始めてからお金を貯めて免許を取って、初めて買ったクルマがジムニーSJ-30でした。赤色が色あせて煤けたレンガ色のような朱色になった、ブリキのオモチャみないな彼。まさにポンコツとかガラクタという言葉がぴったりのクルマで、とても気難しいヒトでした。でも、それがよく言われる「乗りこなしている」という支配ではなく、「つき合っている」という心持ちがして、愛着が育まれたクルマでした。ワクワクをくれた彼のことを、書いておきたいと思います。
🚙気難しい彼のエンジン始動
彼のエンジンをかける時には、昔のバイクみたいにチョーク・バルブを引かなければなりませんでした。チョーク・バルブというのは、エンジンの吸気に混ぜるガソリンの量を濃くするレバーで、ガソリン量を多くして点火始動しやすくするものです。
キーを回してエンジンがかかり、エンジンが温まり始めたら、徐々にバブルを通常の位置に戻していきます。タイミングを見誤るとエンストするので、もう一度やり直します。機嫌が悪いときには、エンジン始動キーを回す時に、ごくわずかにアクセスを踏み込むとエンジンがかかることが多いことが、経験によってわかってきました。
走り出してからも安心はできません。寒い日にはエンジンが十分に温まっていなくて、信号待ちの交差点で時々エンストしました。前日までの運転したときの状況と当日の気温などを材料に、エンジンが一番かかりやすい方法を常に探っていました。
🚙電装系の無骨な思想
もちろん彼にはパワー・ウインドーはなく、窓は手でレバーを回して開けます。窓を開けた時にガラスを保持するパッキンが劣化して落ちてしまっていたのでしょう、窓を開けて走ると、ガラスがドアに当たってガタガタ鳴りました。
パワステがついていませんでしたので、トラックのような形の黒く光ったハンドルは、最初は重かったことを憶えています。けれども、それも慣れるもので、マニュアル車でしたから左手は常にシフトレバーを操作していますので、右手だけでハンドルを回せるようになります。
カーステレオはなくラジオのみ。ダッシュボードには動かない針の時計がはまっていました。
エアコンは良くは効きませんでしたが、かろうじてありました。クーラーのついているクルマを選んだ印象がありますので、メーカーオプションではなく、後付けだったのかもしれません(古いカタログを見ると、オプションにヒーターはありますが、エアコンはないことがわかりました)。
室内に断熱効果のある内装がほとんどないため、冬は暖房しても相当寒くて、必ず厚着をして手袋をしていました。ジムニーはそういうものだと思っていましたし、同じ空気感のある三菱ジープにもエアコンはありませんでした。「それが嫌ならジープに乗るな」と、「パワステが重いと言う前に体を鍛えろ」とか、そんなことが雑誌に当たり前に書かれていました。
「クルマは快適居住空間を持つ場所ではなく道具だ」という考え方が彼らの中にあったのでしょう。私はといえば、それまで徒歩や自転車でテント生活をしていましたので、クルマは「荷物を自力で運ばなくていい」「壁と屋根があって濡れない」と、あまりの便利さに有り難がっていました。だから、クルマの中が寒くても気にすることはなく、私はどちらかと言えばジープ寄りの人だったのでしょうね。
うまいことエンジンがかかりますと、「ポンポンポン…」というサウンドが響きます。とても機嫌が良い日が時々ありました。いい音が聞こえてきたら、クラッチをわずかにつないでアクセルを軽く踏み込みます。そうすると「ポポポポ…」と前に動き出してくれるのです。
冬は大昔のカーレースのアニメのようにモウモウと白煙を上げて走り、町の人の視線を感じますが、クルマが走っている、私は操作している、という実感がある瞬間でした。 (つづく)
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文:©青海 陽 2022
写真:©スズキ公式HP
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