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掌編小説|Aurora
水の中を彷徨って宇宙を見つけた。
わたしが見た宇宙は暗くて、冷たい。そこにしか無い哀しみがあった。
そのことを思い出して時々怖くなる。
一人になりたくない。一人で消えたくない。一人では、生きられない。
ママの布団に入って、抱きついて泣いた。
もう何度目だろう。大人になるわたしは、こんなにも暗い気持ちを抱えている。それなのに、そんなことは微塵も感じさせない昼間の姿は生き生きとして、心の闇に背を向けることが得意だ。
ママは、わたしが隣にいることに何も感じていない。目を合わせることさえない。ママは、とっくに宇宙に還ってしまったのだから。
「きらいな人に付けられた傷と、心からあいしている人から付けられた傷は、全く別のものなのよ」
そんなふうに冷静に話していた頃のママは、柔らかい笑みでわたしを見ていた。だけどきっと、その頃からすでに、ママは水の冷たさに慣れていくように、少しずつ足先で暗い水面に輪を広げていた。
水は体を冷やす。頭の中を鎮めるように、ちゃぷんちゃぷんと音を立てる。内側から鳴るその音に意識を集中させてはだめ。なぜならそこは───
「水の中も宇宙も、人が生きる場所ではないんだよ」
そう言っていたママは、もう戻ってはこない。
わたしが抱きつくと、ママは少し息を吐く。
窮屈でしょう。体を少し捩ると、わたしから顔をそむけてしまう。
「ねえ、誰が呼んだの?」
ママを、今ママがいる場所に呼んだのは誰?
そこにいれば、ママは誰からも傷つけられない?
そこが、ママの生きる場所なの?
暗い宇宙を誰もが抱えているなら、わたしの中の宇宙に戻っておいで。
わたしが大人に成るということは、きっとそういうことなのだ。
ママをわたしの宇宙にいつか呼ぶから。それまではそこで楽に息をして。
もうこれ以上、苦しみません。
泣き疲れたころ、わたしの中の闇はしだいに小さくなる。ママから腕を離し、冷たい指先で胸を撫でた。