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ろうそくの夜

6月最後の土曜の初夏の晩、「ろうそくの夜」をしました。

身のまわりのすべてのことを、「役に立つかどうか」「払った対価に見合っているかどうか」、そんなモノサシで測ってよいものだろうか。その価値観で捨てた「ムダ」なもの、それは本当に「ムダ」なのか? 誰にとって? 何にとって? そもそも「ムダ」で何が悪いのか?

辻信一『ナマケモノ教授のムダのてつがく「役に立つ」を超える生き方とは』さくら舎 2023年

ためになる話を聴くわけでも、自分や他の誰かのために役に立つことをすることをするわけでもない、ただただ目の前にゆらゆらと揺れ動く和蝋燭の灯を、そっと見つめるだけの時間。

そんな一見「ムダ」にしか見えないかもしれないことを「やってみたい」と思ったきっかけは、先月5月のGWにれもんハウスで実施した、文化人類学者の辻信一さんとの「ムダのてつがく」について考えるお話会。「ろうそくの夜」は、辻さんからアイデアを頂き、実施に至りました。初開催です。

参加者に受付時にお渡ししたウェルカムカードと「ろうそくの夜の、過ごし方ガイド」

1. ろうそくを受け取ったら、すでにいる人からろうそくの火をもらってください
2. 好きな場所にすわって、思うがままに静かな時間を過ごしましょう
3. ろうそくの火が消えた時か、好きなタイミングで、カードに思ったことを自由に書いてください(文章でも、絵でも、単語でも、なんでもOK)。カード裏面には差し支えなければお名前をお書きください
4. 退場する際に、カードをポストに入れてお帰りください

ろうそくの夜の、過ごし方ガイドより

過ごし方。見えたこと、聞こえたこと、感じたこと。

今回の和蝋燭「菜の花ろうそく」は金沢県能登七尾の「高澤ろうそく」さんより。1892年に創業された老舗。植物ロウを主原料に芯は和紙と灯芯草を使用して一本一本丁寧に作られた、 やさしいろうそくです。

「ろうそくの炎。どうしてこんなに綺麗な形をしているのだろうか。どういう仕組みで燃えているんだろう。美しい。ろうそくをこんなにじっくり見たことがなかったから、気付かなかったけど、何て美しいんだ!ろうそくは!!どうやって光を出しているのか。この光は電気の光とは違うのか。それとも同じなのか。光はどこでも同じ光?

カードに綴られた参加者の声。タイトル「ろうそくについて。」
玄関で和蝋燭を手に取り、静かに入ります。
やさしい菜の花ろうそくを1本受け取り、既ににいる人から火をもらい、ろうそくとの静かな一人の時間が始まります。

始まってしばらくして「ああこれは面白い、いいな。ろうそく1本じゃなくて2本欲しい」と思ってしまって、なんか自分は欲張りだなと思いました。まず目の前の1本に向き合う。何事もそこから・・・

参加者の声
好きな場所で、思うがままに静かな時間を。誰とも会話をせず、ただただ灯火の前にイルだけの時間。「一人だけど、一人じゃない不思議な感覚」がありました。

ろうそくの火はとても明るくて。でもずっと見ていると光があたらない場所がとても気になる。どんなに大きくてもてらせない場所はあって。ある人がろうそくを持って移動した。すると明るかった場所がやみになった。やみだった場所に光が当たった。新しい人がやってくると、また別の場所に光が。
すべての場所に1回でいいからろうそくの火のあかりが届くといいなあ。

参加者の声
6月の風に揺れる灯火。

最初と最後の方のジジジという音、好き。(心に)火を点ける、ではなく、もう既に火は点いている。風が吹いている中でも燃え続けるその燃料は何か。

参加者の声
ろうそくの火が消えたら、思ったことを書いたカードをポストに入れて、れもんハウスを後に、再び、喧騒な大都会の音、光、人の中に戻っていきます。

「ふだん、音や光、人にずっとさらされていて、こんなに静かな時間をすごすのは本当に久しぶりでした。・・・自分がこれらの音、光、人にさらされて、ちょっとずつ疲れていたんだろうなと思ったり。」

参加者の言葉

外の音を感じ、人の気配を感じ、自らの呼吸を感じ、今ここに在る事を感じ・・・とてもぜいたくな時間でした。

参加者の声
カードに綴られた参加者の声。描かれた絵。静かな空間ではあったけれど、こうしてカードを見てみると、灯火を見つめながら、心と頭の中では自分と、また、浮かんできたあの人、この人と、時空を超えてお話していた人がいたことを思わされます。静けさの中に、実はたくさんの「声」が満ちていたのかもしれません。そう考えると、私たちが普段耳にしている声や音というのは極めて限定的なのだろうと思いました。

ひとこと感想

西新宿のど真ん中で、ありのままの自分としてアルこと、そして他者と共にイルことを大事にする、れもんハウス。れもんに来るきっかけや理由は十人十色だけれど、「こんな場だからこそ得られる繋がりがきっとある。」来る人の心のうちには、そんな期待と願いが何処となくある気がします。

だからこそ、いつもなら、そんなれもんに人が集まれば、人々の会話の声や人が動く音、そして、ゲラゲラとそれはそれは楽しそうに笑う、れもんハウス代表の琴子ちゃんの声が、その西新宿の一軒家から聞こえるのだけれど、今回はいつもの音が聞こえてきませんでした。

人々が一つ所にいるのに、あれだけ静かだった場は、あの晩、新宿では、唯一れもんハウスくらいだったかもしれません。


静まること。
灯火が・・・そっと消える、その瞬間まで、
ただただ灯りを見つめ、灯に照らされる自分を心の目で見つめること。


現代社会に生きる私たちは、静まることや「ムダ」なことに、どれだけ価値を置いているでしょうか。静まるという感覚や「ムダ」なことに時間を使うことが、一体どういう感覚か分からなくなるほどに、常に何かに追われ、また、何かを追い、気がついたら自分が置いてけぼりになっていることさえある。そんな日々を繰り返しな気がします。

それでもいい。
それでいいから、そんな自分のまま、灯りを灯して自分の隣に座ろう。共に。

今、そんな風に、自分に、また、そんな言葉を必要としていそうな誰かに伝えたくなりました。

次回の「ろうそくの夜」は涼しくなった頃に開催予定です。
お楽しみに。

「暗がりの中に 消えない灯りをともしたい。小さく弱い光でも、つながり合えば、大気ゆるがす」参加者の声

文責:カナ

*舞台裏*
琴子ちゃんの「やってみたい」に、「私も一緒にやりたいです」と手を挙げたのが、百詠子(もえこ)さん。キャンドルホルダーを調べ、実物の菜の花ろうそくを立てて、それが倒れないように固定する方法を何回も試して、「過ごし方ガイド」まで作ってくださいました。百詠子さんの「やりたい」と、たくさんの試行錯誤とあたたかな細やかさあっての「ろうそくの夜」でした。百詠子さん、ありがとうございました。

サイズ、見た目の美しさ、耐熱力、コストにみあったキャンドルホルダーを見つけ、見つけてからは、ろうそくが倒れないように、一本一本固定する方法を考え、またその作業を萌子さんが中心にして下さいました。当日お手伝いくださった方々にも感謝です。