八雲のはじまり。
メリーが消えてから、どのくらい経っただろうか。
「ここは…?」
意識を取り戻した私の目に広がるのは、日本史の教科書に出てきたような景色。
「は…?なによこれ…」
まさかタイムスリップでもしたのというのか。
足元には大きな水たまり。そこに映るのはー
「メリー?」
消えた筈の、親友の姿。
いや、そんな筈はない。
だってメリーはこんなに髪が長くなかった。だってメリーはこんな服を持っていなかった。だってメリーは…
そうだ、結界。彼女は結界の境目ー境界を見ることができた。この姿がメリーなのならば…
「うそ。」
とんでもないことがおきてしまった。
私の眼前には無数の目玉が映る裂け目。
違う、ちがう、チガウ。
これはマエリベリー・ハーンではない。
だけどこの姿は宇佐見蓮子でもない。
それならば、
「…やくも、ゆかり」
ー八雲紫と名乗りましょう。
『八雲立つー』
素戔嗚尊が詠った、最古のうた。
紫はメリーのよく着ていた色。
幾らかかっても良い。メリーに再会(あ)う為に、夢を現実に変えるために、
この地を今、幻想の始まりとする。