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コロコロ変えないでほしい  /ファシリテーション一日一話 19

ある電機メーカーの技術者部門会議のファシリテーションをしたときのこと。それぞれに光、磁器、熱、バイオテクノロジーなどの専門分野を持つエンジニアたちは、会議室につくと同時にパソコンを開いて、もくもくと作業を始めていた。開始時間になり部門長が会議の主旨を説明する。ファシリテーターにバトンタッチとなったときに「もしかしたら、パソコンを閉じてもらって、紙に書いたり、立って話したりする時間が多いかもしれません」と伝達すると、大半の人は素直にパタンと画面を閉じてくれた。

いつものようにA4のクリップボードを配り、全員で絵を描いたり、文字を書いて話し合う様式をとってみた。この前読んだ本で「会議なんて、形式張らなくていい。立ち話でもいいんだ」というのを知ったこともあって、スタンディング状態で、あれこれ話し合う時間をたくさんとった。技術者たちは能弁に語った。

ワイガヤしよう

かつて本田技研工業の本田宗一郎さんが、会議と呼称せずに「ワイガヤしよう」と声をかけ、立場や分野や職位を超えて、自由に語り合う場を大切にしたという話を思い出した。妥協や調整や合意形成のための話し合いではなく「こんなことできたら面白いよね」という夢のような話をガンガン出し合って、異分野からも「この技術もかませてみたら?」と提案がでたり、「あそこはどういう素材を使う?」と質問が飛び交ったり。かなり興味深い場となって、僕は話しをもっと聞きたくなって「これから、どんなテーマで研究や開発をしていきたいですか?」と聞いてみた。すると、ほぼ全員から「実はこんなテーマを温めていて、、」とか「せっかく新しい部ができるならこういう切り口で開発してみたい」とか「この技術をものにできれば、日本中・世界中の環境負荷が下がる」などと夢のある話が、どんどん出てきた。素人の僕が聞いても「それ、うまくいったら世界中に変化をもたらしますよね」と興奮するような内容だった。僕はうれしかった。

こぼれ出る本音

一通り出た後で、部として、どこにフォーカスを絞るのか、私たちは何に向かっていくのか?という意見交換をした。できること、自分たちがやってみたいこと、社会やお客様から求められていることの重なるゾーンはどこか?を話し合うなかで、ある技術者がこぼした本音が、心に残っている。「こうやって、よしこのテーマで開発ししていこう!って動き始めても、うちの会社のパターンだと、上が変わると、テーマ変更させられるんだよな…」と。そのとき、たくさんの技術者がうなづき、辟易とした顔をした。

それを皮切りに本音がどんどんと出てくる。「あたらしく本部長になった〇〇さんたちは、なんとかビジョンとかいうのを発表したけど、あういうビジョンとかいうのも、また数年後に人事が動くと、おしゃかになるしね…」「開発には最低でも3年、革新的なものを生もうと思ったら5年10年腰をすえてやらないと、いいものは出てこないのに、経営層は<すぐに成果を出せ>とか<なるべく早く売り上げにつながるものを開発しろ>と言ってきて、本来やるべき開発に身を置くことができない」「自分ももう50才近くなってきたので、自分の集大成もかねて、いいテーマでじっくり開発したいよ」などと、技術者の悲哀を語った。お話しを伺っていると、悲しい気持ち、残念な気持ちも湧いてきた。ここにいる頭脳とウデを活かせば、本当に面白い技術開発ができるのに、めまぐるしく変わる経営環境や、短期思考でコロコロ変わってしまう方針が、それらを邪魔しているのだろうか。
「コロコロ変えないでほしいよな」という声が聞こえたところで、「あ、これは教育の分野でも聞いたことがある声だな」と思い出した。


植物は、一度そこに根付くと決めたら、コロコロ場所を変えずにふんばってみる

一度決めたことを、やり切る前にコロコロ変えるな

学校の先生たちと話をしていると「こんど文科省がこういう方針を打ち出して、それに向かわないといけない」「市の教育委員会が〇〇カリキュラムというのを言い始めて、その対応をしないといけない」「〇年前にこうしましょう、という方針が出されて、数年かかって、ようやくそれが現場でいいかんじに運用できる感じになって来たのに、このたび、また違う方針が打ち出されてしまった。かんべんしてほしい」という声もよく聞くのだ。

同じ声は行政の仕事を手伝っていても、よくきく。「市長が新しくなると、前の市長がやっていた施策をことごとく否定するような指示を出すので、市として一貫性のある仕事にならない」「前の市長が肝いりでやっていたことだとしても、市民に評判がよかったもの、本質的に役立っていたものまで、変えられるのは、残念」という声は幾度もうかがった。新しい上役は、時に、自分の存在価値を示すために前の上役と違うことをやろうとするのか。

会議や話し合いは、その後、どのように行動すればいいのか?を見出すために行うもの。会議後に大事なのは、一度決めたことを、やりきること。がっつりと手応えを感じるところまではやりきってみよう。その上で修正するなり、工夫を入れるなりする。しっかりとやり切る手前で、また話し合って、あっちへコロコロ、こっちへコロコロと方針を変えるのは、本当にもったいないこと。

「コロコロ変えないで欲しい」は、分野を超え地域を越えて、発せられる悲痛な願いと思う。願わくば、変えるべきことと、変えずに継続すべきことを見極める目を持ちたいなぁ。

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