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うまくいかなかったこと /ファシリテーション一日一話 24


久しぶりに日帰りで東京出張をした。ほんの2時間、東京での会議を進行するためだ。日帰りだと荷物が少なくて楽だ。パソコンも着替えもスーツケースもいらない。ファシリテーターの7つ道具と水筒だけをもって、小さなリュックで仕事場に向かう。よくお世話になっている会社の会議室が、この日の舞台だ。

お掃除からはじめる場づくり

掃除機をお借りして、部屋を掃除する。なじみの会社なので「あー、青木さん、すみません、ありがとうございます」ぐらいで済むのだが、初見の企業でこれをやると、先方がかなり恐縮する。今回の会議は、あるプロジェクトがうまくいかなかったので、その振り返りの会議。ひょんなボタンの掛け違えや、ちょっとした準備不足で、クライアントを怒らせたり、プロジェクトが滞ったりする。挽回しようとそれぞれに動こうとするが、どうにも足並みがそろわなかったり、超過労働でストレスがたまったり。迫る納期に、変動の大きい現場、はだかる予算の壁やら何やらで「もう2度と、こういう過ちは犯したくない」という気持ちになった面々が集う。

そういう時こそ場づくりは重要だ。僕はホワイトボードの汚れを可能な限りおとし、さんの部分にたまったカスを回収し、机の上のほこりを払いながら「どうやって進行しようか」と、考えた。うまくいかなかったこと、こそ、きちんと振り返り、今後につなげたい。しかし、往々にして「犯人さがし」になったり「自己弁護大会」になりがちだ。起きた問題を正面からとらえ、「なぜ、そうなってしまったのか?」をつかむこと。過ちから学び、今後の動きにつながる知見を得るような時間が望まれている。部屋の掃除をしながら、そんなことを考え、進行を逡巡した。

事実と感情を分けて話す

時間になって、参加メンバーが顔をそろえた。冒頭、進行役からのお願いとして、こんなお話しをした。

「何が起きたのか?(事実)」と、「その時どんな気持ちになったか?(感情)」を分けて話しましょう。事実は事実として、確認し、その時どんな気持ちになったのかについては、双方が耳を傾けてきき合う。そういう場が必要な場合がある。

加えて起きてしまった事実を正面からとらえ「そこから何を学べるか?(教訓)」をともに考え、今後につなぎましょう、と提案した。ありがたいことに、会議参加者はいずれもそのことを了解してくださり、結果として2時間の会議は白熱した。

「ところで、あれはなんであんなにトラブっていたの?」「自分がヘルプに入る前の状況が見えなかったのだけど、冒頭のところでどういう話があったの?」といった疑問に関しては事実ベースで応答があり、「巻き返すために長時間労働はきつかった」「バトンを渡して頂くときに、もう少し意図を伝えてくださると動きやすかった」「お互いの守備範囲をきちんと確認せずに走ったので、バレーボールのお見合いのようになってしまった」「クライアントの話をちゃんときいて、確認して、反映する。その点が抜けていたのでは」といった感情の含まれた発言もあいつぎ、それらをきき合った。おやつ休憩でひと息いれて、今後に向けて、いくつかのアクション・リストを整えた。

終わりのない模索

自分なりにできることはやった気もするが、まだ追い切れてない点が、いくつか残るような時間でもあった。帰りの飛行機で反省点を洗い出したりしながら、別れ際の皆の表情を思い出した。すっきりした顔の人もいれば、淡々と次の仕事に向かう顔もあったなか、ちょっと浮かない顔のメンバーのことが気になった。浮かない顔をしているということは、今回の会議で充分に言えたり、聴けたり、腑に落ちたりしていない、という可能性がある。気になった僕は、後日フォローアップを兼ねて、その方のお話しを伺うことにした。時間には限りがあり、生ものの場づくりに完璧はない。それでも、関わる皆にとって有意義な場をつくってゆきたいという切なる願いだけがある。僕がやっている仕事は、そういう終わりのない模索のようにも思えた。精進、精進。

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