熊野古道合宿のススメ
みなさん、こんにちは。熊野生まれ、淡路島在住のファシリテーター、青木マーキーです。
このたび、とあるプロジェクトからのご依頼で「熊野古道合宿」のファシリテーションをお引き受けしました。熊野は僕が生まれ育った土地。一昨年に父親がなくなり、実家が空いてしまったのを「どう活用しようか?」と考えていたところに、タイムリーなご依頼でした。
お話しを伺うと「これからプロジェクトを行う上で、巡礼の地・熊野に身を置いて、対話や体験を積み重ねながら、問いを深める時間にしたい」とのこと。単なる熊野観光ツアーでもなく、会議室で話し合いでもない、特別なオーダーです。「ぜひ熊野古道も歩いてみたい」というリクエストもあったので、2週間前に下見し「どのルートがいいのかな?」と確認をしたり、地元の協力者のアポイントをとったりして、ワクワクして過ごしました。
学生の頃に海外スタディーツアーや国内合宿の企画などをやってきたので、ツアーを組んだり、合宿プログラムを考えるのは好き。「ここで集合して大きな楠を眺めて、あそこで海を見ながらお弁当を食べて、あの神社で胎内巡りをして、あの浜辺で焚き火して語り合おう♪」などと、妄想爆発しながら企画していたのですが、そうは簡単に行かないのが熊野の旅。
台風直撃で嵐のスタート
季節は梅雨も明けた7月上旬。晴れやかにお迎えしたいところですが、やってきたのは台風4号です。長崎佐世保に上陸したこの台風はゆっくりとした速度でじわりじわりと雨を降らせます。かくして、初日の朝には、こういう感じで雨が降りました。
ががーーーーん。紀伊半島めっちゃ赤いやんけ。ごうごうふっとる。飛行機で到着予定の参加者からは「視界不良で条件付き運行になりました」とか、電車で集合予定の方からは「JR西日本は前日の特急運休を見合わせているらしい」という悲報が次々と寄せられます。よもや、これは「今回は、熊野に入れませんでした」パータンか、orz…と悩んでいるところで、依頼主との直前Zoom会議。結論は「たどりつくことができたメンバーでやろう」ということに。ラッキーなことに、当日の朝だけ奇跡的に特急が動いて、予定してたメンバーが揃いました。
初日は30mm /hを超える怒濤の雨のなか、主に屋内施設を訪問。南方熊楠顕彰館や熊楠邸を訪問していると、少し雨が収まってきます。熊楠ゆかりの神社や、熊楠が守った森を訪問しながら、一路、熊野古道・中辺路(なかへじ)を通って熊野三山のひとつ・本宮へ向かいます。この日は、川湯温泉に宿泊。晴れていれば、川をスコップで掘ると温泉が湧き出るという清流なのですが、あいにくの濁流を眺めての初日となりました。
朝の古道歩きは格別
2日目は、雨天にて昨日歩けなかった熊野古道にチャレンジ。1時間ほど歩いて、早朝の本宮大社にゴール・イン。古道を歩くときは「無言の行」さながら、何も話さず歩きましょう、と提案すると、快く受け入れて頂きました。差し込む朝日や、さえずる鳥、沢の水音がよく聞こえるステキな時間となりました。ちょっと瞑想しているような、歩きながらトランスしているような。平安の時代に歩いていた人たちと共に足を運んでいるような気持ちにすらなります。
熊野本宮大社では、朝7時からの日供祭(にっくいさい)というのを毎日やっていて、事前予約すれば、どなたでもご参加できるとのこと。古道を歩いて心地よい汗をかいたメンバーは、神職さんのお導きのもと気持ちよく参拝。かつ、希望すれば大社のお掃除もお手伝いさせていただけるとのこと。他の参拝者が訪れる前の本宮大社を、皆で掃除をすることができ、特別なスタートを切ることができました。
朝飯前からたっぷりと行動したので、この日は、ちょっとゆっくりと回ることにします。僕の叔母が、お茶の先生をしているので、和室で抹茶をご馳走になることに。涼やかなるしつらえと、さっぱりとするお抹茶で心落ち着く時間。
午後は、2つのコースに分かれます。1つは、地元食材を買い出して、それを料理するという体験プログラム。土地の食材を、地元の女性と一緒に買い物して、お料理するというのは、文化を知り、風土を学ぶためにも、とても素晴らしい体験です。魚や野菜や漬物が、彩り鮮やかにカタチをかえ、食卓に乗らないぐらいのご馳走が並びました。
もう1つは、「いかにも熊野らしい小さな神社」を訪問するコース。世界遺産にも登録されておらず、観光客もほとんど来ない小さな神社。いかにも熊野の森らしい鬱蒼とした、神の宿る大きな岩のある空間。冷たい水に足を浸して、禊ぎをしてからの参拝。倒れた木の上から、小さな実生が育ち、美しい苔が社全体を覆う空間を堪能しました。
夜は、歩くこと、食べること、地方で生きること、移住をすること、さまざまな角度からの語らいの時間。亡き父が漬けてあった梅酒を「おいしい、おいしい」と言ってもらえて、故人もさぞ、喜んだと思います。次にやるときは焚き火を囲みながらの語らいにしよう、なんて話にもなりました。
めはり寿司づくり
3日目の朝は、神倉神社への参拝登山からスタート。新宮市内を一望できるオススメ・スポットです。500段以上もある急な石段を登り切ったあとの風が、心地よい。
この日は、熊野の朝ご飯の定番「茶がゆ」と「めはり寿司づくり」を楽しみました。地元協力者のMちゃんが、めはり寿司のお手本を見せてくれると、皆で、あれこれしゃべりながら、自分がお昼ごはんに食べる予定のめはり寿司をつくります。高菜でくるんだおにぎりで、目を張るほど大きいから「めはり寿司」と呼ばれるようになった郷土料理。自分でつくっためはり寿司を抱えて、一同は、いざ、熊野古道の終着点の那智の滝へ。
藤棚のもとで那智の海をしみじみ眺めながら、めはりずしを頬張った一同は、熊野古道の代表格である「大門坂」を一歩一歩登って、無事に満願。ほてった体を、那智の滝からの清らかなるミストが冷やしてくれました。
旅の締めは歌詠みで
車での移動時間も長い熊野の旅。車内では、旅の振り返りトークが花を咲かせます。「今回の旅を経て、自身の習慣にしたいと思ったことは何か?」「なぜ、旅先で、掃除や料理をすることが、思い出深い時間となるのか」「熊野は、蘇りの地と言われているが、それはいったい何故なのか」「これから、私たちのプロジェクトをどのように進めてゆこうか?」など、旅で得た刺激を元に、たっぷり語らっておられました(僕は3日間の案内で力尽きて、うとうと・こっくり)。
皆さんをお見送りする白浜空港のロビーで、旅での気づきを短冊にしたためてもらうことにしました。ちょうど七夕だったので、近くの山でササをゲットして、筆ペンなどで書いてかざります。俳句にする人、短歌を詠む人、自由律で何かを書く人、絵を描くひと。それぞれの表現で旅を締めくくる時間となりました。
ともあれ、皆様ご無事に熊野をお参りでき、ご帰宅なされたこと、心よりありがたく思います。
装束も大事
古道を歩くときは、山伏修行の装束でご案内しました。そもそも熊野古道は白装束で歩いた歴史があるようです。みなさんも熊野古道にお参りするときは白めの服をチョイスしてもいいかもしれません。
そして、対話の時間、振り返りの時間などは、ファシリテーターとしての働きも。自分が生まれ、育ち、ファシリテーターというの仕事に出会い、山伏修行を続けてきた全てが投入できた「熊野古道合宿」。僕のライフワークにしたいな。
僕自身にとって、深い学びと転機になる時間を頂いたと思います。ご参加いただいた皆様、ご依頼くださったプロジェクトの関係者の皆さんに、深く、感謝を伝えたいと思います。
実家を活用できてよかった!
もともと4人兄弟で育った僕は、父と母の6人家族でした。兄が大学に出ると5人で暮らし、姉が大学に出ると4人で暮らし、僕が大学に出ると3人で暮らしたこの家。弟が結婚をして、自分の家を持つと、夫婦2人の時間になるのですが、まもなく母は亡くなり、父親は長く、この家に一人住まいでした。その父も亡くなり、無人となったこの家を、どう活用するか、僕自身、悩み、考えたものです。
幸いなことに、今回6名の方と、我が家の円卓を囲んだことで久しぶりに6人家族が戻ったようで、僕は少し涙がでてきました。父親が座っていた定位置から眺める我が家は、温かく、家が喜んでいるようでした。
旅立ちの朝、ご利用いただいた皆さんが、父母の遺影の前に座り、お線香をあげてくれました。参加者のお一人にお坊さんがいらしたので、お経もあげてくれました。ありがたいことです。追善供養。生前にあまりできなかった親孝行が少しできたかなと思い、とても感慨深い旅の締めくくりでした。
思えば、妻は実家に何度も足を運んでくれ、亡くなった父の遺品を整理したり、台所を掃除し、お布団を整え、トイレを快適に工夫し、ダイニングテーブルの高さまで調整してくれました。ありがとう。おかげでお客様をお迎えできる空間になりました。また、地元を守ってくれている弟夫婦がときどき草刈りや手入れをしてくれているおかげで、家に心地よく入れることにも感謝。やっぱり家は使わないと活きてこないですね。
※利用希望の方いたら、青木までコンタクトください。熊野古道歩きの拠点に活用くださればと思います。
熊野古道合宿、いかがでしょうか?
このブログを見て「あ、私も熊野古道を歩いてみたい」とか「うちの会社やプロジェクトでも熊野古道合宿を依頼したい」思われた方は、どうぞ気軽に声をかけてください。お食事から、宿から、移動手段、対話の場づくりとファシリテーションまで、心を込めてお支度させていただきます。
また、10月12から14日(水・木・金)の2泊3日で知人を誘って「熊野古道を一緒に歩きませんか」を企画。コロナ以来、久しぶりにあう仲間達が集いそうで、とても楽しみです(残席1)。大切な仲間とともに熊野を歩けるのは、何よりの喜びですね。熊野出身者としては、これほどうれしいことはないなぁ。
ぜひ皆さんも、蘇りの地・熊野においでください。いっしょに古道を歩いて、スッキリと生きるきっかけになれば幸いです。必要あれば現地の信頼できるガイドさんや予算に応じたお宿もご案内できますので、「熊野古道わたしも歩きたい」と、お気軽に声をかけてください。