変わらない自分
高校の友達に会うのは久しぶりだ。
高校生の時は、毎日のように会っていたが高校を卒業し、大学生になり社会人になった。お互い、忙しい日々を過ごしていたから今日会うことに少し緊張していた。
「久しぶり。」
そう声をかけてくれたのはさやかとみっちゃん。私はこの2人と、3人で高校の3年間を楽しく過ごした。久々に、会う二人は少し大人っぽくなっていた。
「すごい、久々だよね。元気だった?」
みっちゃんが、最初に話し出す。私とさやかは、元気だったよと答え、次はさやかが話し出す。私は、高校生の時と話しかたも笑いのツボも何も変わっていなくて嬉しいと感じていた。何年かのブランクはあったが、私たちは何も変わらないのだと確信して安心していた。
しかし、その安心は少しずつ崩れていった。それは、みっちゃんの話が始まりだった。
「もう、それ好きじゃないんだよね。」
みっちゃんと私の唯一同じ好きなもの。高校生の時、よくみっちゃんとそれについて語った楽しい思い出。なぜか、すごく私だけ過去に取り残されている気分になった。
「それより、私彼氏出来たんだよね!」
嬉々として話すみっちゃん。その話題に食いついたのはさやかだった。
「え、嘘でしょ?詳しく教えてよ。」
そして、二人は恋バナトークに花を咲かせた。どうやら、さやかにも今いい感じの人がいるらしい。私は、ただ二人の話を聞いていた。みっちゃんは、その彼氏と結婚も視野に入れてるみたいだ。急に、出てきた結婚という話題に、私たちも大人になったんだなと少し思った。
「ねぇ、あんたはどうなのよ?」
さやかが突如私に話を振る。私は、少し困った。だって、何も話すような恋愛の話はなかったから。
「それが何もないんだよー。」
私は、精一杯の笑顔で言った。さやかは、そんなことないでしょ!と言って私から少しでも恋の話を聞こうとしていた。しかし、本当に何もないのだ。
そして、小さな違和感を感じた。
あれ?私たちのグループはあまり恋バナをするタイプではなかったはず・・・
そして、次は仕事の愚痴に変わった。
さやかは、初めての後輩が使えないと嘆いていた。みっちゃんは、転職したばかりでもうすでに上司にこき使われて嫌気がさしてるみたいだった。高校生だった私たちが、仕事の話をしてるということに時の流れを感じ、もう子供ではないのだと痛感した。
しかし、私も仕事の愚痴は沢山あり話はとても盛り上がった。
散々愚痴を言った後、将来の話になった。高校生の時も、どこの大学に行くのかなど話たなーと思い、少し懐かしくなった。さやかは、もともと自分のお店を開くことが夢だったらしく、その夢のために勉強をしていると教えてくれた。みっちゃんは、彼氏との結婚に向けて花嫁修行をしようと思っていると楽しそうに話してくれた。
そして、私の番。
私は、今何を頑張っているのだろうか。
何になりたいのだろうか。
私は同じ問いを大学を選択する時にしていたことを思い出す。
あの時は、3人ともあやふやだったはず。しかし、2人はしっかりと意志を持って歩き始めてる。
じゃぁ、私は?
大学で何か見つける予定だった。しかし、何も見つからず何となくて就職して今を生きてる。
何か変わりたくても変われない自分。
ただ、その場しのぎで道を選択してきた自分。
私だけ、何も変わらない。好きなものも、恋も、将来も。
二人が私を見る。
「私はまだ・・・何も・・・」
恥ずかしかった。何も変わらない自分が、何も考えてない自分が。
「じゃぁ、これからだね!」
さやかは、普通に言った。みっちゃんもそうだねって笑顔でいう。
これから・・・?
本当に、私にこれからなんてあるのだろうか。今まで何も見つからなかった私に。
でも、なぜか二人の言葉は私の心を軽くした。
そういえば、大学の進路をなかなか決められなかった時もそうだった。決めるのが遅かった私に親や先生は、急げと言った。しかし、この二人だけは焦らなくていいと思うと言ってくれたんだ。
その時もその言葉が私の心を軽くした。
やっぱり、二人も変わってないのだと私は思った。しかし、変わった部分も沢山ある。
少しだけ、ほんの少しだけ私も変われるのかもしれないと思った。