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さいごの欠けた月

  まだ、指先が冷えて痛む。
 水仕事をしていたマンションから見える人通りが、描き消すように無くなった。車もごくたまに通る未明くらいの台数だ。それも、今は街の暗さで、音で分かるくらいだ。
 椅子に座って、煙草をくわえた。暖かく感じるライターの炎。一口目の旨さ。目に入った煙が染みた。
 ぐい呑みにぬる燗をいれて、舐めるように一口。ぐっと一口。
 「今年も最後の日か」
 つぶやいて、酒が体を温めるのを待った。

  昆布を入れて、しばらくしてから、顆粒だしを入れる。出汁がぐらぐらしてきたら、醤油出汁を入れて待つ。また、ぐらぐらときたら、白菜の芯に近い部分を土鍋に入れる。すぐに、ささがき牛蒡を入れる。ぼちぼちとした火の通りで、とり肉を入れて、また待つ。焼きの入った木綿豆腐を入れて煮えたら、関西醤油出汁の鶏鍋が出来上がる。

 鶏鍋とぬる燗と https://open.spotify.com/track/1xEzF35lwCRRFEXWG08j8x?si=d6jubdAbRa-cQUNhQOVxbw&utm_source=native-share-menu
これがあれば、寺が鐘をつき始める。それだけでいい。
 外がさらに静かになった気がして、透かし見た街には雪が降り始めていた。
 「今年は本当に色々あったな・・・」
 つぶやいた。
 目に染みた煙草の煙に目をこすりながら、再び透かし見た静かな雪の街が、滲んで見えた。

     Copyright 2021(C)Kazuya Aoki(碧木和弥)

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