「太宰治へ」(連載小説)(九)

「彼」の小説より




 今、描き終えた。「虚無」を、描き終えた。ある田舎の秋の一景である。朝日である。
一見これは夕日に見えがちなのであるが、実際は紛らわしいものである。初めは、題名を「斜陽」にしてやろうかと思ったのであるが、どうやらそうなってはあの人への侮辱にもなる可能性も考えうるし、なにか剽窃に似た行為をしたようで、罪悪と、それこそ虚無が襲ってきそうであったからやめておいた。

  自分はこれを、またの名を敗北の虚無としようか、敗北によって虚無となる。こんなものは美しくなんてない。
 実際軽トラも田圃もなにも関係ない。一種のオマケでしかないのだ。これはこの朝日だけを目的とする作品である。


 月は太陽がなけりゃ輝くことすら出来ぬ、それらのことを自分は虚無と名付けプラスで敗北とも解釈させる。
 女は強い。強すぎるのだ。昼になって、万人の幸福と喜びと元気を、いかなる方法で与えるのである。
 男はどうだ、顔にニキビが出来てるだけではないか、これは余計な性欲とプライドのせいだろう。月は哀れなようである。

 本日は日曜日である。まだ、朝六時のようで自分は目を擦りながら、早朝の空を見た。
 おぼろげながら、今にも溶けそうな青白い月が、太陽に照らされている。或男はその様子を見て、駄目だなあと呟く。そしてこの月もまたこの男を見て駄目だなあと呟くのだ。男とは皆その様なものである。
 月は沈み、太陽はまた昼に、ありのままの姿で躍り出る。自分はこの太陽に、好意をのせた。それはまた「斜陽」のせいであろうか。

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