失言警察(ショートショート)

失言警察とは、有名人は、必ず全国民の規範とあるべきであるという考えのもと、マナーやルールを逸脱した行為をした有名人を徹底的に打ちのめすために発足された機関である。
私、柿崎玲子はそんな機関に、属することになった。
東口先輩「これから、みんなの仲間になる柿崎くんだ。いろいろなことについて、教えてやってほしい」
柿崎玲子「柿崎玲子ですよろしくお願いします。」
東口先輩「早速なんだが、そこの壁に貼ってあるプロパガンダを、みんなと一緒に暗唱してほしい」
柿崎玲子「はい…」
「政治家、タレントの発言は、世論に大きな影響をあたえるため、慎重に扱わなければ、ならない。モラルに違反する行為は絶対に許さないこと」
玲子は、仕事仲間と一緒に、張り紙に書かれている文章を、暗唱して、席についた。
我ながら、やばい職場に来てしまったとおもったが、後に引けない状況である。
プルプルプルプルプルプル
固定電話が、騒がしく鳴り響いた。
山口先輩が電話対応をして、「はい、わかりました。」と言い頷いて、きった。
その後、山口先輩は大きな声で、「マスコミから連絡だ。失言で有名なH会長が、問題発言をしたらしい。これは、モラル違反になるのか調べてほしいとのご連絡だ。」と言った。
すると、柿崎以外の人間が、騒がしく動き出し、分厚い本を読み出す人やどこかに電話をかける人が現れた。
玲子はこの状況に、ついて行けずに、ただただ仁王立ちをすることしかできなかった。
「おい何サボってんだ。わからないのなら、先輩に聞け」
柿崎「はっはい…」
東口先輩は不機嫌そうな顔をして、玲子の方を見た。
玲子はとりあえずどうすればいいか聞こうと思い隣の席に座っている工藤先輩に話しかけた。
工藤「今忙しいから後にして」
面倒ことが嫌いな工藤先輩は、玲子のことなど、相手にする気もなかったのだ。
その後、電話をかけていた山口先輩は、「H会長が、女性蔑視だと思われる不適切な発言をして、これはモラル違反に相当します」と皆に報告した。
その報告を聞いた分厚い本を持っている東口先輩が、「これは、モラル法第12条、女性差別または、ジェンダーに対する差別に値する発言であり、早急に、H会長に言及するよう求めるという判断が正しい」と答えました。
すると、山口さんは、それをマスコミに伝えて、H会長のところに行き発言の真意を聞いてくるように指示をしました。
その一連の流れを、工藤さんは、パソコンで記事として、こういう判断に至ったという経緯を事細かくかいていた。
玲子は、勝手にパソコンの画面を覗き記事を読んだのだ。
工藤は少しイラついて、舌打ちをし、きつめの口調で、「柿崎さんすることがないなら、席に戻ってください」と言った。
玲子は工藤さんの威圧的な態度に、委縮してしまい「す…すみません」と謝った。
その後、工藤は、引き出しからモラル違反についての本を取り出して、玲子に渡した。
玲子「ありがとうございます」
玲子は分厚い本に少しだけ目を通し、工藤さんとコミュニケーションを取りたいと思い話しかけた。
玲子「工藤さん、私が子供の時は、失言警察なんて組織はなかったはずなんですが、いつから発足されたんですか。」
工藤「やれやれ、そこからか。俺は社会の先生じゃないんだぞ、それくらい調べろ」
工藤は、初日から学生時代に習うはずであることを聞いてくる玲子に、あきれていた。
工藤は、内心これだから、リモート世代は、自分の気になることしか調べようとしないから、知識が偏っていると思ったのだ。
玲子は工藤先輩は、教えてくれなさそうなので、自分で調べることにした。
令和2年コロナウイルスの蔓延に伴い緊急事態宣言が出された。
緊急事態宣言とは、政府がコロナによる感染拡大を防ぐための対策として、不要不急な外出を控えるよう国民に注意喚起した政策である。
緊急事態宣言が出ているのにもかかわらず、政治家が夜中に、レストランで食事をとっていたということが発覚し、総理大臣の息子も不要不急な外出をしていたとして、マスコミが大暴れし、騒いだことがきっかけとなり、これはやり過ぎではないかと疑問を抱く声が多くなった。
レストランに食事をした政治家は、忙しくて、家でご飯を作る余裕がなかったということを、マスコミが考慮しない報道と、総理自身が外食したのではなく、息子のことなのに、息子には聞かずに、総理を責め立てる議員とマスコミの無法地帯に、緊急事態宣言を出すしかなかった。
このことがきっかけで、ちゃんと情報収集を区別化できる組織を作るべきだという意見のもと、失言警察は、発足されたのである。
玲子はこの記事を見て、「なるほど、そういうことか。」と言って、手を叩いた。
その後、失言警察の見解としては、緊急事態宣言が出ているにもかかわらず、遊んでいた政治家は、罰する必要があるが、食事など生きるために必要不可欠である行為は致し方ないとした。
しかし、今の時代は、調べれば、ある程度食べれるものを作ることはできる。
忙しかったとしても、妻に作ってもらうということもできたのではないかと、いう見解を示した。
また、この騒ぎによって、コロナ対策が遅れた可能性もあるのではないかと、記者も謝罪文を出すことになったという。
これを読んだ玲子は、いや失言警察もやりすぎなのでは…と思ったのだ。


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