童貞こそ楽(ショートショート)

「彼女と別れた」
「へぇーなんで」
「ほんまに、さぁだるくて、こんな仕事やからさぁ夜遅くなるのはあたりまえだろ、なのに、ラインを既読スルーして返さなかったら、機嫌が悪くなって、理由を問い詰めてくるんだよね」
僕は友達との会話を思い出した。
そいつは、明らかに陽キャラで、彼女ができるくせに、陰キャラの風貌している友達で、「人と会話するのが苦手やで俺も」と、僕が彼女をできない理由は、コミニケーション力がないからと言う話をするといつもこう言う。
はっきり言って、陰キャラに縋らないでほしいと思った。
学生時代に知り合った時、調子のいいやつという印象だった。
今でも、たまに集まる時には、なんで連んだのだろうかと疑問に思うような感覚に苛まれる。
きっと、不器用にしか生きられない姿に、既視感を感じて友達になったのかもしれない。
会話に困ったら、「お前誰やねん」と言い出し、退屈だったら、体をつねってくる。
僕との接し方は、こうゆう感じだったが、女の子と接する時は、人が変わったように積極的に会話する変態ということを知った時、衝撃のあまりたじろいだ。
その時の友達の目は、獲物を狙う狩人の目をしていた。
忘れもしないあの時一瞬、思考停止してしまったよ
だから、友達と女の子がどんな会話をしていたかおぼえていない。
しかし、そんなにも女に免疫力があり、会話を弾ませることを容易に済ませてしまう人でも破局してしまうと言うことがわかった。
僕は恵まれているよなだって、彼女に時間を奪われることなんてないのだから、片手にビールを持って、「童貞最高」と叫ぶことこそ男に生まれたら絶対にするべきことだろう。
友達「何ボッーとしてるの」
僕「ごめんごめん、考え事しててさぁ」 
友達「あっそぉー、人と会話する時は、あんま考え事しないほうがいいでぇー」
僕「気をつけるわぁ、」
友達「まぁ、面倒くさいけど、彼女おったほうが楽しいでぇ」
僕「嘘つくなよ、」
友達「嘘じゃないって」
僕「彼女なんて鬱陶しいだけやろ、絶対おらんほうが、自由やし百倍楽しいに決まってるやん」
友達「おぅ」
それから、数十年が経ち、僕は同期の女の子と付き合うことになり、結婚式を前日に控えていた。
その夜久しぶりに、友達と連絡を取り合い居酒屋で飲みながら話をした。
友達「女に興味がなさそうなお前が、1番に結婚するなんてなぁ」
僕「なぁ不思議だろ」
友達「うん、なんか裏があったりして」
僕「そんなのあるわけないだろ」
友達「そうだよなぁ…はっはっはぁ」
友達は一気に、お酒を飲み干した。
僕「おいおい、結婚式出席するんやろあんまり飲み過ぎない方がいいって」
友達「いや、俺は出席しないさっき断ってきたよ。なぁ、お前あの頃、彼女なんていらないって言ってたよなぁ、結婚したら自由なんて奪われるんだぜ……俺が連れ戻すよお前を…独身だったらさぁ俺らと一緒だろぉ」
僕「お前、何言ってんだよぉ……」
友達「なんでもない俺…帰るよ」
僕「そっか」
友達は居酒屋を後にして、僕もその後家に帰った。
ずっと、友達が気がかりだったけど、特に気に留めることもなく、ぐっすりと眠り、結婚式会場へと向かった。
結婚式は順調に行われて、誓いのキスをする時だった。
ダッダッダッダッダッダッダッダッという騒がしい足音が聞こえ、気がつくと彼女が友達に、包丁で刺されて倒れていた。
僕「えっ、えっ、どういうこと」
気持ちの整理がつかずにテンパっていると、友達が「これで一緒だね抜け駆けなんてダメだよ」と囁いた。
僕は「ふざけるな」と言い友達の胸ぐらを掴んで地面に倒し馬乗りになって、頬を目掛けて、殴ろうとした。
友達「おいなんで、なんで怒るんだよ、お前なんかに女をもらう資格なんてないだろう。絆とか面倒くさいって思ってるあんたに、だから、俺はあんたを救ったんだ。感謝しろよ」
僕「人殺しが、救いだって…」
友達「ごめん、俺自分のおこないを美化してたは、ただお前が羨ましかった。ずっと俺の方が勝ってるって思ってたのに……チラチラと目障りなんだよぉ」
溝打ちを喰らわして怯んだところを狙って、馬乗りになっている僕をどかして、友達は立ち上がった。
友達「じゃあ、俺逃げるわぁ」
僕「待てよ、待ってくれよなんだよそれ」
ダッダッダッダッダッダッ
僕は友達を無我夢中で追いかけていた。
友達は息が上がって立ち止まり「はぁ、はぁ、はぁ、俺のこと許せないよなぁ」
僕「あぁ、許せないよ俺の彼女を返して欲しい俺の未来はお前に奪われた」
友達「俺は警察に自首する。最後に一つだけ、君は彼女の奴隷を選びたくなかったはずだ。なのになんで、結婚なんてしようと思った。俺には訳がわかんないんだよ」
僕「なぁ、結婚は、女の奴隷になることなのか。」
友達「そうだあれは毒の契約だよ、女ってのは、男によくしてもらうことを望んでいる。」
僕「きっとそんなことはないと思うけど」
友達「うちの家庭はかかあ天下だった。母親がお金の管理をしていたし、母型の血筋の方が家柄も良かったし、母は、ワガママで色々と僕らをこき使ってた。父親は無口で、物静かな人だったから、いつでも、楽しそうじゃなかった。反論するのも疲れたってのもある。」
僕「一例だけで、暴走すんなよ」
友達「うるさい、あの時おんなじ考えだったから、仲良くできたけど、今はできない」
僕「はぁ……?」
グサッ
彼女の血のついた包丁の刃が僕の体に入り込んだ。
僕に彼女ができてしかも結婚までたどり着いたから、腹が立って、僕を救うという口実にむりやりして、彼女を殺した。
なのになんで、女嫌いの話になっているのだろう。
僕「なんで、女嫌いなのに、ナンパしてたんだよ意味がわからない」
友達「あの時は、彼女自慢がしたかった年頃だったんだよ、あのまま童貞だったら、オレに殺されなかった。自分の行いに後悔するんだなぁ」
こいつと口論することも、生きたいと思って再起することも、何もかもが、馬鹿らしくなって、笑いが込み上げた。
僕「そうか、一生童貞だったら、よかったなぁ、殺されることも悲劇はなかったんだ………なんで女と一緒に幸せを掴もうなんて考えたんだろ」
僕は息絶えてしまった。








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