大雪瞑想(ショートショート)

「今年は10年ぶりの大寒波なんですって、まぁ大阪は降らないでしょう」
ニュースを見ながら、母はこう呟いた。
大雪なんて、滅多にないことなので、「絶対降らないね、日本海側くらいだよ、雪なんて、テレビで見てるぐらいがちょうどいい」と言うと、大欠伸をして、寝室へと向かってベットの上で睡眠する。
僕は寝ながら考える
雪のない世界について考える
雪が売れる世界について考える
雪が不可欠な世界について考える
僕は考え終わった。
雪のない世界で、雪が降ってきた。
人々は、白い塊が空から降ってくることに恐怖した。
身体にあたってもひんやり冷たいだけじゃない
無害なんだこれって、よかったと思うだろう。
そしてきっとその現象について名前をつける。
そしたら、雪のある世界へと変化する。
この場合は、人々が雪を知らないだけだ。
本当に雪というものが存在しなかったら、ただ単に存在しない世界で元気に暮らすだけ、雪というものが存在する世界があるだなんて思いもしないだろうよ
「そうか、無知とは違うよなそれは」寝言で呟いた。
もしも雪が売れたら、雪に需要があるってことだから、雪が必要な状態になる必要がある。
雪は自然なモノだから、実質0円だが、何かしらの売れる理由があれば、価値がつくはずだ。
例えば、いつでも、観賞することができるとか、いいんじゃないだろうか。
雪が不可欠なものになったら、それは、もう低体温症を人類が発症して頭がおかしくなっているに違いない手遅れだ。
僕は考え終わった。
そして思った。
考える必要などなかったと……
「早く起きない」
母の怒鳴り声が聞こえて、目が覚めた。
「あー、なんだぁーもうこんな時間かぁー」
大欠伸をしながら、重たいまぶたをこじ開けると、辺りが一面真っ白になっていた。
「本当、部屋の中まで、雪が降ってくるなんて、びっくりだわぁ、凍死してなくてよかったよ」
そう母に言われた時、僕はなんだか、白昼夢な世界へと迷い込んだ気がした。
なぜなら、僕は、上を見上げて、思わず「天井をすり抜けているなんて」と驚愕したからだ。
すると、母はすました顔をしながら、「何が起こるなんて、分かりっこないのよ、だって、男子高校生のノリで、友達と遊びまわっている無職が、遊んでる様子を撮って、YouTubeにあげたら、金儲けできるって世の中よ。
そいつらは、口を揃えて、楽しいことで生きていくと、自分があたかも選ばれた人間であるかのように、呟くのさぁ」と言った。
たしかに、昔に比べたら、稼ぎやすい世の中になったのかもしれないけど、雪が、天井をすり抜けて部屋の中は積もっていく謎現象を、世の中嘘のようなことが、平気で起こるのよで片付けるのは、いささかどうなのかと、思った。
「母さん、こんなことが起きてるのって日本全国なの」
僕はふと思った疑問を、尋ねてみた。
母は、深刻な顔をしながら、「ここだけなの」と言う。
なぜここだけ、謎現象が起こっているのかまったく検討がつかない。
心当たりは、雪について考えすぎていたそれくらいだ。
「考えても原因はわからないから、とりあえず積もった雪を、外に捨てるしかないわぁ、手伝ってよね、家の中だけ白銀の世界ですなんて、笑えないのよ」
母はそう言うと、スコップを手渡した。
僕は、渋々スコップを受け取ると、作業に取り掛かる。
「きりがないなぁ、ずんずん積もってくるんだったら」
作業に疲れて、ぼやいている。
もうなんだか、逃げ出したくなって外に出た。
外は全く雪が降ってなかった。
「なぜ、部屋の中だけ、雪じゃなくて、ホコリなんじゃないか。そうだよきっと、きっとそうだ。そうに違いない」
僕はそう呟くと、慌てて家の中へともどり、「これは、雪じゃなくて、埃だったんだ。まったくなんて、汚い家なんだぁー」
僕は大声で、こう言うと、母は、「しかたないでしょ、知り合いから譲り受けた家なんだからぁ」という。
どういうことなんだと、困惑していると、母は、「家が汚いから、掃除してってあなたに頼んだら、嫌だって言うから、この、娯楽酔狂薬を使ってみたの、まさか昨日の大寒波のニュースで、影響されて、埃を雪だと思うなんて、滑稽だったわぁ」と、嘲笑した。

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