狂人レストラン(ショートショート)

これは私の、レストランコレクションの中から、抜粋した話だ。
私がひどい二日酔いでのたうち回りながら、三軒目の店を探して彷徨っていた時偶然見つけた。
従業員のほとんどが、何をしでかすかわからない狂人ばかり雇っている飲食店で、名前を狂人レストランという。
店内に入ると、店員が、急にお尻を触って来て、「この場合って、痴漢が成立すると思いますか。」と囁いてきた。
私は訳がわからずに、立ち止まっていると、「異性の人のお尻を触ると、痴漢なのは理解できるんですけど、同性の人のお尻を触った場合は痴漢になるんでしょうかねぇ」と店員は話しかけてきた。
私は唾を飲み込むと、「人に不快感を与えてる時点で罪なんじゃないですか」と精一杯怒鳴ってやった。
すると、「なるほど、勉強になりますよおきゃくさん」と言ってきた。
私はむかついて、店長を呼ぶように言い付けると、10分後店長がやってきた。
「どうしましたか、お客さん」
「どうしたもこうしたもないんだよ。なんなんだあの態度、ふざけるのもいいかげんにしろ」
「お客さん、申し訳ないのですが、怒るのは筋違いですよ。あなたはこの店のサービスを了承して入ってきたのではないですか。」
「ふざけるな、どういうことだ。」
「店に入る前に、張り紙がしてあるでしょう。ここの従業員はみなお客様に、親しみをこめてちょっかいを出しにきます。あたたかく受け入れてくれる方だけ歓迎しておりますと書いてあったはずです。」
「じゃあなんだ。こうやって書いてあるにもかかわらずに、ちょっかいを出してきた店員にむかって怒ったおれは、迷惑な客だとでも言いたそうな口ぶりだなぁ」
「そうですよ、こんなことで怒るなんて、よっぽどお腹空いてるんですね。朝倉くんこの人に、ご馳走持ってきてぇ〜」
店長の命令にあわてて、朝倉は冷蔵庫にある食材を少しずつ集めて炒め物を作った。
出来上がりがやってきたので見てみると、ピーマンとヤングコーンしか入っていなかった。
「なんだ、これは、俺はビーガンじゃないんだぞ、まぁ美味しかったら、ゆるしてやるが」
私は、そう言って少し食べた。味は、味気がなくて、なおかつ食材が硬く火が通っていないので、怒り狂って、怒鳴り散らしそうになった。
お天気屋の店長が、「まぁ、まぁ朝倉くんも、急な無茶振りに、びっくりしちゃったんですよぉ、彼は、あなたに悪気があってこんな粗悪料理を出したのではないってことを、理解してほしいんです。」と呟いた。
その時、私は、朝倉ではなくこの店長が、色々とやばいとやっと理解することができた。
怒りはひいて、店長の監督責任を疑っては呆れ果てた。
「もう帰りますここにいたら、頭がおかしくなりそうだ」
私はこう捨て台詞を吐いて、店を出た。
このレストランの評価は、本当の狂人にあえるという意味なら、星5に値するだろう。
こんなことがあってから、数日後、酒が抜けて、シラフだった時、この店に立ち寄った。
女性店員が、話しかけてきた。
「あなた、お一人様、おひとり様なの、ねぇ聞いてよ。私本当に昨日お腹が痛かったのに店長は、仮病っていってわたしを疑うの、本当に最低だと思わない」
「そりゃ、最低だなぁ」
「でしょ、でしょう。それに加えて汗臭いし、頼りないし、何より男として魅力がないの、でもね、お客さんは、全然違うなぁ」
「どう違うんだ」
「私が傷つけられそうになったら、私を守ってくれそうな感じがするから、私魅力を感じちゃうなぁ」
「そうか、そう言ってもらえるとなんだかうれしい」
「うれしい気持ちになったら、いっぱいお料理食べられるよねぇ、ここがあなたの席で、これがメニューですぅ」
そういうと彼女は、私をテーブル席に座らせた。
メニュー表を見てみると、なぜか炒め物ははなかった。
すると忘れていたことが、溢れ出るように思い出した。
あの時コンプライアンスのない接客態度にふまんをもった私は激怒して、持ってきてくれたウェルカムドリンクを、投げ捨てた。
「こんな食事が出来るカァー」と一喝入れた後店長を呼んだ。
そら、朝倉くんもびびり散らして、メニューにない料理を作ってしまうわけだなぁ、本当に悪いことをしたと、気がついたが、本人にあやまろうなんて、少しも思わなかった。





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