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雨音のシンフォニー

8月7日。
清里旅行に出かけた。
清里フィールドバレエ2024「白鳥の湖」を鑑賞し、一泊する。
横浜に住む長女とバレエ少女の孫娘2人、そして私たち夫婦、5人。
突然の雷雨によって、バレエは中止となってしまったが、この夜のことは、忘れられない記憶として、心に残った。

日本唯一の長期野外バレエ公演、清里フィールドバレエは、今年で35回目となる。
山梨県民として、清里は、好きな場所の一つで、季節を問わず何度となく訪れている。しかし、バレエはみたことはなかった。
まず、インドア派としては、野外に長時間滞在する自信がない。
そして、公演終了は夜9時。1時間で自宅に帰れるため、宿泊するか山道を無理して帰るか、悩むところ。
そんな理由で、なかなか腰が上がらずにいたが、今年は、長女に誘われ、考える間もなく、半ば強制的に旅行が計画されてしまった。

午後4時、開演3時間前に清里に到着。
少し混みはじめたROCKで、早めの夕食をとる。
予報は夕方から雨ではあったが、この時点で清里は快晴だった。
夕食後は、萌木の村を散策する。広大な自然を舞台に、バレリーナたちの優雅な舞いが繰り広げられる。そんな情景を想像し、高揚していた。

☆☆

午後6時、開演1時間前。
雲行きが怪しいと思っていたら、やはり降り出してきた。
急いで屋根のある場所へ移動し、待機する。
ピアノの調べのような雨音が、葉を揺らす。ポツ、ポツリ。
このくらいなら大丈夫、という思いとは裏腹に、雨は次第に勢いを増し、雨音は、弦楽器のなめらかな旋律へと変化していく。サー、ザーザー。
さらに、雷鳴を伴い、ドラムの轟音が響き渡る。ドーン、ゴーン。
雨粒は、葉を打ち、フィールドに落ち、地面を叩いていく。
一つ一つの音が重なり合いながら、壮大なシンフォニーを奏でていく。

当初は、この雨に苛立ちを感じていた。
突如決まったこととはいえ、密かに楽しみにしていたのにと、ため息まじりに空を見上げていた。
しかし、雨音に耳を傾けていると、刻々と変化していくことに気づく。
雨音が大きくなるにつれ、周りの雑音が次第に消えていった。
人の声も、鳥のさえずりも、風のそよぎも、そして、遠くから聞こえていた車のエンジン音すらも。
残ったのは、雨音のみ。
静寂の中に現れた、生命力あふれる音の洪水は、まるで自然が特別に作曲した、壮大な音楽のように、いつまでも響き続けた。
雨音に包まれることで、次第に気持ちも落ち着きを取り戻していった。

☆☆☆

午後7時。
開演時間ギリギリになって、ようやく中止のアナウンスが流れた。
残念だが、この雨では、公演を続けることは不可能だっただろう。
自然の前では、人間は無力なのだ。自然の厳しさ、力強さ、そして儚さを痛感した。

☆☆☆☆

雨の中を駐車場まで急ぐ。
キャーと言いながら、びしょ濡れで走る孫娘たちはなんだか楽しそう。
来年も、来よう。
また雨に降られたとしても、それはそれでいいような気がした。




①ROCK
山梨県北杜市高根町清里、萌木の村内にあるブルワリー併設レストラン。1971年、清里高原初の喫茶店としてオープン。年間15万食オーダーされる清里の名物料理「ROCKビーフカレー」、また、併設醸造所で八ヶ岳の名水からつくられる“最鮮端”ビール「八ヶ岳ビール タッチダウン」、さらに、甲州麦芽ビーフを使ったメニューや、地元野菜をたっぷり使った、こだわりのオリジナルメニューがたくさんある。

②萌木の村
山梨県北杜市清里にある"萌木の村"は、清里の森に、おしゃれで個性的なショップ、レストラン、オルゴール博物館などが点在する、一大観光エリア。大自然の中をゆっくりと散策したり、地元の新鮮な食材を使用した料理を堪能したり、他では手に入らないおみやげを探したりと、さまざまな楽しみ方がある。クラフト製作や、オルゴール製作の体験メニューも人気。年間を通じてさまざまなイベントが開催されており、季節を問わずに楽しめる。

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