妄想散歩vol.7「闇の樹海で婚活する女の両目」
1124文字・30min
闇の世界。
私は右目。彷徨う女の右目。私はじぶんにふさわしい赤い糸をたぐって闇の中をあるく。闇の地面は黒く盛り上がった。歩くと地面に一瞬、白い斑紋がうきでた。まるで星空のように。地面をあるく感覚は、巨大な生き物の角質の上のようだ。闇の巨獣の上を、幾人もの女たちが、のろのろと歩いている。私の恋敵なのか? 女たちがあるく星空の柄の角質の地面は、鮮血のように真っ赤に濡れている。
私は左目だ。私は白い地面を浮遊してあるく。まるで魂のように。急に地面はカーテンがゆれるように盛り上がった。闇の空を見上げる。星空のように散らばる黒い点が揺れる。その揺れで、星空は汚れている。と私は気づく。私は、じぶんが、汚れた地の奥深い底にいるような錯覚に陥った。目を凝らして汚れた星空の上を見ると、闇の穴に足を放りだして笑う小妖怪を見た。小妖怪は首(こうべ)をカタカタ振るわせて笑って、私に足の裏を見せる。
赤い糸を頼りに歩く私は闇に紛れ込んでしまった。そこは闇の樹海だった。左側に男の影が見える。男は猫背であるく。私は男の横をあるく。男があるく後ろには直径十五センチの赤い血の染みが浮き広がる。ぽた、ぽた。男は無心に何かを焼き払うような身振りをして樹海をあるく。男は大樹の前にたどり着くと大樹の溝に消えていった。男は大樹に同化した。
鮮血の地面を踏んで右目が樹海の大樹の麓(ふもと)にやってくる。私の右目と左目が合った。そこで私は自分の両目が揃ったと気づく。私は左目をつぶったまま右目で闇の空を見上げる。大樹はすごく大きい。森のように天に伸びる。これは大木だ。大樹は闇を突き破ってその上に伸びる。これは男の欲望の大きさなのか? 大樹が突き破る上空で鈴が鳴る音がカタカタと聞こえる。まるで男の巨大化した欲望をあざ笑うかのように。闇の天はカタカタと鳴り響く。
両目をつぶって耳を澄ますと地面の下からもカタカタは聞こえてくる。私は右目を開いて大樹を胴を見た。大樹の胴回りは、いままで私が見たどの屋敷よりも巨大な建築物だ。その大樹からは、私が求める赤い糸は出ていなかった。大樹の根は地面から阿修羅の腕のように盛りあがるが、私が見つめた瞬間にそれらはすぐに茶色く枯れた。私は片目をつぶったままその場を立ち去ろうとする。ふと、あるものに気づく。大樹の真ん中に、立派な男性器が一つぶら下がっている。
血に濡れた地面から人間の声が聞こえる。笑い声だ。女の声にも男の声にも聞こえる。まるで大樹の活力を吸いこんで養分を吸いあげているようだ。闇を突き破る天からは大樹をあざ笑う声。呻めき声。ここは闇だ。大樹が閉じ込められた闇の中だ。私は大樹にぶら下がる男性器を握ってみた。大樹についた男性器は勃起した。
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