妄想散歩vol.9 / 夜の公園でじぶんの人生の反省ばかりする男の独白(870字)
きみとぼくはどこで知り合ったか。
どこかの掲示板だった。
一過性の掲示板だった。
男女がある種の満足感を得れば不要になるそんな掲示板だ。
あの日ぼくは確かにあの掲示板を見ていた。
きみの名を見つけて書きこんだ。
執筆で気が狂いそうだった。
手で慰めるじぶんが嫌になった。
切に人肌が恋しかった。
女と一心不乱に交わりたかった。
その場所になにかを見出そうとしたのか。
ぜんぶが含まれる。ぜんぶが真実ではない。
きみの優しさに満ち溢れる言葉はぼくの胸に槍のように突き刺さってくる。
「ぼくはそういう類の男じゃない」
その言葉はきみにはまったく通用しない。
なぜなら「ぼくはそういう類の男なのだ」。
掲示板で知り合った時点で、ぼくがじぶんをどう釈明しようが、ぼくはきみが勘ぐるような男なのだ。
ぼくは小説を書いている。
花村萬月という小説家はこういった。
「セックスの一部始終を描けばひとつの小説が出来上がる」
これは男女の交わりのなかに、ニンゲンの愛がある。憎しみがある。軽蔑がある。嘘がある。快楽がある。痛みがある。恐怖がある。偽善がある。裏切りがある。ニンゲンの本性のすべてがある。ということだと思う。
もし、ぼくが本性ではない「ある男」を演じてきみを抱く。そうなると、ぼくは、きみが「ある男」に突かれてからだをよじらせ、喘ぎ声をあげる。ぼくはそれを嫌悪する。きみを欺くじぶんを軽蔑する。
ぼくはきみのまごころに触れてしまった。
だから、ぼくが「ある男」になってきみと交わる行為はきみを無為に痛めつけるただの暴力になる。
きみの前で、ぼくは本性でありたい。
それは仮面を外したぼくだ。
執筆でいつも気が狂っているぼく。
手で慰めては自己嫌悪に陥るぼく。
時折、切に人肌が恋しくなるぼく。
女と一心不乱に交わりたくなるぼく。
あの掲示板になにかを見出そうとしたのか。
きみの名を見つけてメッセージを書きこんだ、ぼく。
醜(みにく)いぼく。
穢(けが)れているぼく。
これがぼくの本性だ。
こんな醜いぼくだけど、きみを心から守りたいと思ったんだ。
追伸。
ぼくはきみの騎士になりたい。
きみはぼくの女王になってほしい。