800字日記/20221112sat/126「プレ取材」
目覚める。汗ばんでいる。湿気を感じる。外は曇りだ。鬱っぽい。湿度のせいか。起きる。ネコはひとり遊び。そうじを終えて机に座る。オンに入らない。「オンに入ったらその日の執筆は終わったもどうぜん」小川洋子の言葉が身にしみる。決勝や打席に立つまでの準備と自己管理が仕事。頭ではわかるのだが。
ゲーム、散歩、映画、音楽、家事、料理、TVショッピング、演劇、路上ナンパ、マッチングアプリ、YouTube、なわとび、ダーツ、ボウリング、ボクシング、プラモデル、盆栽、狩猟、釣り、読経、バイク、競馬、麻雀、気晴らしがひとつ欲しい。ぜんぶやったとて気晴らしにならねば意味はないが。
ベランダに腰かけてネコと日向ぼっこ。なでるとあおむけに。櫛で毛をすく。冬毛だ。ほとんど抜けない。まじまじと見る。大きくなったな。また焦りが出る。
机に座る。一時間が経つ。「案ずるより産むが易し」と自分にいって聞かせ外に出る。
ロードバイクに乗って、いつもの空港とは逆方向へとペダルを踏む。陽気は湿気がこもって生ぬるい。初秋に逆戻りだ。県道を跨いで、国道にでると、広がる海を見てハッと思い当たる。南に走る。
「上陸の浜」と、僕が勝手に名づけた浜に到着する。新潟の浜とは違うだろうが、よくここに来るのだ。プレ取材だ。何かを感じるんだ。「Don’t think feel!」だ。
浜に靴が沈む、波の音、岩場、打ちあがった流木、貝殻、ブイ、ペットボトル、空きびん、缶、ゴミ、網、上空を舞う鳶、崖、ススキ、竹藪、鬱蒼としげる椎の樹々、足場の悪い、ゴロゴロとした石、獣道のような抜け穴、岩場に打ちつける波、崖を覆い隠す森から一斉に鳥が飛び立つ。
ここは九州の内海だ。真冬の新潟の浜とは違うが目をつぶる。岩場に乗り上げて横倒しになった工作船、上空でヘリの音、荒波に揉まれて上陸する兵士、テンションが上がる。外に出て、良かった。
写真と映像をたくさん撮った。国道に上がると、雨粒がぽつぽつとほほを濡らした。
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