「クライマーズ・ハイ」逆プロット
10708文字・(18hour)
再読したついでに、卒業と思って「クライマーズ・ハイ」のプロットの抜き出しをやったのだが。
すごいとしか言いようがない。
直木賞を蹴った大作家の腕が際っきわにひかる。
元新聞社出身で、文字が切れる。セリフが切れる。リズムよし。文句なしの傑作だ。
疲労困憊。
こんどは初読から「プロット抜き出しながら読み」したほうがよさそうだ。ウンウンと唸りながら(読み返しながら)の作業だったらプロットの抜きだし作業が進まなかった。
■クライマーズ・ハイ逆プロット(プロット抜きだし)
Mp(メインプロット)
Sp(サブプロット)
MPでは四十歳、日航全権デスクに。ラストで左遷(草津通信部へ)。
S1では五十七歳(十七年後)。
Mp➡︎日航機墜落事故によって揺れる地方新聞社の騒動。人間群像ドラマ。社内政治。
Sp1➡︎現在の衝立岩の登攀(安西耿一郎の息子の燐太郎とともに)
■Sp1での「悠木と燐太郎との会話のなか」で《Sp2》と《Sp3》の文脈が回収される(淳は父を嫌ってはいなかった)。
Sp2➡︎悠木と息子(父親になりそこねた悠木)、淳とのねじれた関係、
Sp3➡︎悠木の過去(蒸発した父とパンパンの母。悠木は過去に苛まれる)
Sp4➡︎望月彩子(悠木が死なせた記者の従姉妹、読者投稿欄「こころ」にAMで投稿、読者から苦情が殺到(だが遺族からの苦情は0件)、悠木の背を見て、後に記者になる)
Sp5➡︎安西の表の顔(衝立岩のエピソード・遠藤貢とザイルパートナー)
Sp6➡︎安西の裏の顔(専務派の手先だった・ロンリー・ハートでの黒田美波に懺悔)
Sp7➡︎植物状態の安西=病院で燐太郎とふれ合い=息子の淳が重なる
Sp8➡︎専務派の悠木だき抱え工作(飯倉専務・暮坂・)謀略
Sp9➡︎事故原因「隔壁」(抜きネタ、スクープ記事・佐山と玉置コンビ)
Sp10➡︎神沢の成長(何年も日航機墜落事故を追う記者へ)
Sp11➡︎千鶴子の佐山への想い。「あの…キャップの佐山さんてどんな人です?」p237
Sp12➡︎遺族への五百部無料サービス
Sp13➡︎悠木風邪を引く(主人公が体調不良に陥る)
Sp14➡︎読者からの苦情で社長の逆鱗にふれる。左遷(辞めるか、辺境支部へ行くか?)
Sp15➡︎日航機事故のドキュメントの出版企画(単体プロット)
Sp16➡︎安西燐太郎と悠木由香の結婚
■人物(pは初出し)
以下《大久保連赤組》
悠木和雅➡︎主人公(日航ジャンボ事件・全権デスク)
柏谷(局長・調停屋)かつて父の幻影を重ねた。
追村(局次長・癇癪玉・社長派の秘蔵っ子)かつて父の幻影を重ねた。
等々力(社会部長・金縁眼鏡)かつて父の幻影を重ねた。
守屋(政治部長)p155
岸(政治部デスク)
田沢(社会部デスク・神沢の上司)
亀嶋(整理部長・カクさん)
暮坂(広告部長・去年まで政治部デスクだった)p77
浮田(広告局長)p84
伊東(販売局長・鷲鼻に口髭・専務派)「お前んちの母ちゃんってさあ、パンパンなんだってなあ」(悠木の子どもの頃に、公園で出会った高校生だった)p130
久慈(総務局・悠木と同期・社内中立の立場)p139
工藤(前橋市局長・パニック屋、競輪好き、余裕なくなると本社に泣きを入れる)p264
貝塚(出版局次長)
茂呂(出版局長)
白河社長(水爆の異名・有望な部下に、愛犬の仔犬を与えて飼い慣らす)
土田副社長p159
飯倉専務(綽名はインテリやくざ・元編集担当重役を兼務・福田派)p159
高木真奈美(社長秘書)三ヶ月前まで住宅供給公社の職員だった。
黒田美波(元社長秘書・白河のセクハラで退職、ロハ=スナック「ロンリー・ハート」で働く)p142,p289
大隈(社外重役・県内有数の企業経営者・安西の手帳より)p267
磯崎(社外重役・県内有数の企業経営者・安西の手帳より)p267
織部(社外重役・県内有数の企業経営者・安西の手帳より)p267
藤浪鼎(事故調・主席調査官)p275
唐沢(事故調・玉置出身の郡馬大学のゼミの教授と親しい)
以下《新世代・日航組》
望月亮太(一年生記者だった時に自殺・佐山が「戦線離脱」の烙印)
佐山達哉(エース記者)
神沢(三年生記者・二十六歳・まだかけだし・田沢の部下)
川島(七年生記者・県警のサブキャップ、初日に山に登れず、教員免許をもつ)
依田千鶴子(前橋支局へ、後に佐山千鶴子、出産後は記者に復帰できず)
玉置昭彦(群大工学部出身・スクープネタ「与圧隔壁」の発見者。前橋市局・たぶん、きっと、おそらく、思います…。掴みどころのない男)
田仲(前橋市局)p264
戸塚
山田(末席の地方部デスク)p196
吉井(整理部・童顔)p197
稲岡(来年の誕生日にて定年。読者投稿欄『こころ』担当。元文化部記者)p198
市場(整理部・一度は外勤に出たが記者失格の烙印を押されて送り返された)p202
宮田(広告部・企画・暮坂の部下・神沢の暮坂部長暴行を口止めされている)p238
森脇(先月外勤に出たばかりの一年生記者)p262,p326
遠野(写真部、御巣鷹山にて、神沢が広告部長の暮坂を殴った現場を目撃)p357
安西耿一郎(どろぼう髭のドロちゃん)悠木を衝立岩に誘った夜、飲み屋街で倒れる。クモ膜下出血(夜の接待のやり過ぎ、過労死)。植物状態に。《孤高のクライマー》遠藤貢をなくして十年余りをかけて北関に山岳クラブ「登ろう会」を作った。専務派の右腕の伊東を「恩人(新聞寄宿生の時代に北関に引っ張ってくれた)」と崇める。
安西小百合(安西の妻)
安西燐太郎(安西の息子)
末次(安西の登山師匠・四十代半ば・豪放磊落型・小さな靴・凍傷で指がない)p239
遠藤貢(安西の元ザイルパートナー・衝立岩での落石事故にて死亡)p242
望月彩子(悠木が死なせた望月亮太の従姉妹、後に記者になる)
望月久仁子(望月の母)p263
県警の志摩川(悠木より二つ三つ年嵩上の、刑事畑サラブレッド)
■道具
共同通信のピーコ(送稿連絡用スピーカ)、電話ボックス、ポケベル、中曽根首相、福田、小渕恵三、靖国参拝、本殿、玉串料、「大久保事件」「連合赤軍事件」(群馬で起きた過去のビッグ事件)、遺体搬出、遺族、もらい事故、ファクシミリ、受信ランプ、無線、阪神、真弓、バース、甲子園、農大二校(ナインの一人の父親が甲子園に行くために日航123便で罹災した)、追悼詩集「鳥」、ザイルの綴じ紐(安西はもう二度と誰ともザイルは組まない)
■以下、章立て
1 Sp1➡︎十七年後の登攀⑴ 山小屋にて-----5
2 Mp➡︎Sp4望月の墓参り、望月亮太の自殺のエピソード-----p22
3 Mp➡︎「クライマーズ・ハイ」興奮状態が極限にまできて恐怖感とかがマヒしちゃう。安西の言葉「下りるために登るんさ」➡︎小説のテーマ
4 Mp➡︎《日航123便は長野・郡馬県境に墜落した模様!》郡馬有力!-----p35
5 Mp➡︎日航全権・悠木−黒板に大書き 見出しどっち?「群馬?長野?」-----p45
6 Mp➡︎二日目、ぶどう峠に佐山と神沢、《墜落現場は郡馬側の御巣鷹山!》-----p60
Sp7➡︎燐太郎からの電話、安西が倒れる
Mp➡︎等々力の差し金(輪転機)「佐山の現場雑感を落とす」
7 Mp➡︎《大久保連赤組》vs《日航組》-----p75
Sp8➡︎「お前は話せる男だって聞いたがな」と暮坂は言う。どういうことだ?
8 Mp➡︎地方紙の限界、想像を超えた現場(もはや大久保や赤連の規模じゃない)-----p83
Sp9➡︎事故原因(初出)p84「現場で他社を圧倒ー北関の伝統」
9 Mp➡︎中曽根派と福田派の靖国参拝 連載企画 もどった佐山と神沢-----p91
【御巣鷹山にて=佐山記者】 若い自衛官は仁王立ちしていた。…「カクさんこれ一面のトップで」
10 Sp2,Sp3➡︎自宅、弓子、由香、淳の「うるせえ」とも「うん」とれる「う」-----p103
11 県央病院にて。安西の表の顔と裏の顔-----p108
Sp7➡︎県央病院、小百合、燐太郎、安西耿一郎➡︎『遷延性意識障害』安西は前橋の「城東町」倒れた。そこは歓楽街だ。なぜ安西はそこに?
Sp6➡︎《安西の裏の顔》へ
「燐太郎に会っていってくれませんか?」と小百合。階下で燐太郎は悠木の腰に両腕を巻きつけぎゅうぎゅう締めつける。悠木は小さな背中を引き寄せて抱きしめた。
12 Sp1➡︎十七年後の登攀⑵ 出発の朝-----p119
13 Mp➡︎生存者(日航アシスタントパーサー)の証言「広告外し」-----p127「事件の被疑者になるかもしれない日航が捏造ともとれる証言を公表」
Sp9➡︎事故原因(抜きネタ・スクープ)へ
Sp3,Sp6,Sp8➡︎伊東の登場「安西のところ見舞いに行ったんだって? 」
Mp➡︎「佐山の現場雑感」が悠木の知らぬ間に第二社会面に「都落ち」に!
「次長が自衛隊ネタをトップにするわけがないだろう」と等々力は言った。「その手離してください」と悠木「土下座したら離してやる」と等々力(因縁の始まり)
14 Mp➡︎社長室、追村vs悠木「お前は職を失いたいのか」白河社長(車椅子)-----p141
こんなことでクビだと? どうにでもなれ。母の嬌声、骨の髄に染み入ってくる孤独…
15 Sp2➡︎零時半の自宅。トイレに起きた由香は居間に一歩も入ってこなかった。-----p148
16 Mp➡︎編集局長室、柏谷、追村、等々力、亀嶋、悠木「靖国参拝の紙面立て」-----p154
Sp8➡︎飯倉専務の静観。「どっちがトップでも構わないと思います」悠木の言葉に粕谷の顔は失望に変わった。
17 Mp➡︎奇異な写真。-----p163
体育館の内側に花輪。右に元内閣総理大臣福田赳夫、左に内閣総理大臣中曽根康弘。
18 Mp➡︎連載の第二回 初日に現場を踏めなかった川島編-----p170
Sp9➡︎事故原因『隔壁』(前橋の玉置ってのはデキるのか?)=不安がよぎる。
Sp8➡︎飯倉のスパイの伊東が登場「で、参拝はトップ記事にするの?」
Sp3➡︎悠木の過去「君さあ、昔、中新田町に住んでなかったかい?」刹那、母の白い背中が見えた。勝手口から背中を丸めて出ていく、ずるい目をした男たちが見えた。
19 Sp3➡︎やはりそうだった。昔、公園で出会ったあの高校生が伊東だった。-----p180
Mp➡︎遺族の母子の登場。母親は北関の看板を見てタクシーを降りたのだ。地元で起こった出来事なら他のどの新聞よりも詳しく載っていると信じて。「トップは日航で行きましょう」悠木は遺体安置所の写真をテーブルの真ん中に置く。二つの花輪。二つの名前(福中バランス配置で17の伏線回収)。
20 Mp➡︎地方部欄に侵食する日航ネタ(どこよりも詳細を報じるのが北関だ)-----p191
Sp9➡︎事故原因『隔壁』スクープネタ(玉置パート)。
Sp4➡︎読者投稿欄『こころ』ラストの望月彩子(自殺した従姉妹)への伏線。
21 Mp➡︎「川島は書かなければ終わる」ファックス「滑り込みセーフだ」と岸-----p202
Sp9➡︎事故原因『隔壁』玉置の応援に佐山を。
Sp10➡︎神沢の成長。
「死体の内蔵がどんな状態だったとか、読まされる(遺族の)気持ちにもなってみろ」
神沢の目からぽろぽろ涙が溢れ出した。それは後から後から流れ出た。神沢の涙は止まらなかった。神沢は見たのだ。五百二十人の死者を出した日航ジャンボ墜落事故の本当の現場を。
22 Mp➡︎事故後四日目。焼肉店「総社飯店」。悠木vs等々力(大久保赤連組) p217
等々力は悠木に輪転機の不調を知らせなかった。佐山の雑感を握りつぶした。「なぜ邪魔をした?若い連中に勝たれたくなかったからか?大久保赤連で惨敗したからか?」「俺たちはなぜ負けたのか徹底的に話し合うべきだった。下には負けない方法をおしえなきゃならなかったんだ。それを自慢話ばっかり何十年もダラダラ続けやがって。いまだに北関は大久保赤連の時代とこれっぽっちも変わってねえ。間違いなく負けるぜ、今回の日航も」
23 Sp11➡︎千鶴子「あの…佐山さんてどんな人です?」「あったかい男だ」 p234
Sp6➡︎宮田が安西の見舞いに。末次という男によると安西は「ザイルパートナーを追立岩で亡くし、山岳界の表舞台から姿を消した」という。
24 Sp5,Sp6➡︎図書館。末次と会話、遠藤貢、詩集「鳥」、クライマーズ・ハイ、p240
25 Sp2,Sp6,Sp7➡︎病院。明るい小百合、安西の手帳、燐太郎とキャッチボール、p247
26 Sp1➡︎十七年後の登攀⑶ テールリッジからアンザイレンテラスまでの行程 p254
アンザイレン➡︎互いにザイルを結び合う。燐太郎の名前の秘話。燐太郎の名前は安西連になるはずだった。だが出生届を出す直前に燐太郎に変えた。遠藤貢を死なせて息子には山には登らせない。
27 Mp➡︎事故後五日目 p260
Sp9➡︎事故原因「隔壁原因説」のウラ取りへ
Sp4➡︎望月彩子(机に伝言メモ・高崎局番・午後一時の着信・伏線)
Sp11➡︎依田は前橋市局に
Sp6➡︎安西の手帳《ロハの文字?》「大隈」「磯崎」「織部」社外重役の名前だ。
28 Mp➡︎事故後五日目 p272
Sp10➡︎神沢の成長(毎日御巣鷹山に登っていた。日課になっている)
Sp9➡︎事故原因「隔壁」のウラ取り。玉置のネタを佐山が「藤浪鼎」主席調査官へ。
29 Mp➡︎八月十六日組み十七日付紙面会議 「紙面は日航離れか継続か?」 p280
「詳報」にこだわる悠木(19にて遺族の出現により悠木の決心は固い)
Sp9➡︎事故原因「隔壁」のウラ取りへ。
Sp12➡︎遺族への新聞五百部の無料配布へ(明日から)。
30 Sp12➡︎販売局にて。vs伊東 p291
Sp6➡︎安西の裏の顔(小百合と大恋愛、駆け落ち、燐太郎を身籠る、吉川新聞販売店の住み込み従業員に、超人的な仕事ぶりが伊東の目に留まる、伊東に県内有数の優良企業である北関に誘われ)➡︎専務派の手先に「命の恩人」「外部重役への接待」「汚れ仕事」
「販売店の文句も押さえられないで、何のための販売局です」「何だと…?」
「毎晩、湯水のように金を使って店主を接待しているのは何のためか、と聞いてるんだ」
31 Sp13➡︎悠木風邪を引く p299
Sp9➡︎事故原因「隔壁」「販売と全面戦争になる」と等々力。望むところだ。
32 Mp➡︎《事故原因「隔壁」破裂が有力》 p310
Sp9➡︎「配送トラック五号車の鍵」をもち二階の制作局にたてこもるvs伊東販売局長
33 Sp9➡︎事故原因「隔壁」首席調査間藤浪鼎に佐山を当て「イエス」の感触だがp317
Mp➡︎「悠木やるんだな!」「やりましょう!世界に向けて!」悠木は動けなかった。
34 Mp➡︎《事故原因「隔壁」破裂が有力》毎日新聞の一面(…他紙に抜かれた)p323
Sp2➡︎自宅にて。悠木と息子「淳、今度一緒に山に登ってみないか」
35 Sp1➡︎十七年後の登攀⑷ オーバーハングが連続する逆層の大岩壁 p330
Sp6➡︎当時の安西の苦悩「ロンリー・ハート」(当時の黒田美波の話)
Sp5➡︎当時の安西の葬式の話。末次が棺を担いだ「もっとだ、もっと高くだ」
Sp2➡︎燐太郎の告白
「初めて親父に山に行こうって誘われた時、なんか嬉しかったって」
「嬉しかった……淳がそう言ったの?」と悠木。
36 Mp➡︎前橋支局。悠木は千鶴子に…網膜には「隔壁」の活字が、未練、 p340
「女だからコーヒーを淹れろって言ったじゃねえ、お前がぺえぺえの一年生記者だからだ」
37 Mp➡︎《日航刑事責任追及へ》「後追い」に p342
Sp10➡︎「神沢は今日も御巣鷹山か」と悠木。「そうです」と佐山。
Sp14➡︎専務(インテリやくざ)登場「君は随分と変わってるな」大部屋を出ていく。
38 Sp10➡︎神沢の成長 「え? 神沢が広告部長の暮坂を殴った?!」 p351
「なぜ、暮坂部長は休日に御巣鷹に登ったのか?」
宮田談➡︎スポンサー周りの世間話のネタだった。
39 Sp10➡︎神沢の成長(写真部にて) p360
「なぜ、神沢は暮坂部長を殴ったのか?」
遠野談➡︎「JALの主翼をバックに記念写真を撮った」
さらに「細かい機体の破片や断熱材の切れ端を拾ってポケットに入れたのを目撃」
暮坂は五百二十人の人間が死んだ現場で「土産」を持ち帰ろうとして、神沢の逆鱗に触れた。「ポケットの中身を捨てさせて、木の陰でメチャクチャ殴りました。顔面や腹を」
40 Sp10➡︎神沢の成長 p367
病院。県警の志摩川と「現場は?」「新聞読んでないの?」「身元確認は歯型と指紋」
「三年先ぐらいしたらまた会えるだろう」立件は三年先…この記事を追いかけるは神沢だ。
41 Sp10➡︎暮坂の自宅前。 白河が配った犬を連れて散歩 p370
もう老犬だ。連合赤軍事件のすぐ後だから、犬はもう十三歳。背をさすって排便を促している。よろよろと犬に合わせてゆっくりと歩き出した。嫌悪と憐憫が胸にごちゃまぜにあった。暮坂は「記者ヅラ」をしたかったのだ。
42 Mp➡︎社会面トップ用の《遺族の遺書》 p373
Sp10➡︎「山のことは心配するな」「ありがとうございます」
Sp11➡︎〈はい、北関前橋支局です〉「コーヒーを淹れてくれ」〈バカ〉「原稿の書き方は佐山に教えてもらえ」
43 Sp1➡︎十七年後の登攀⑸ ピレーポイント(二人用テラス) p379
Sp2,Sp5,Sp6➡︎安西も淳も呼んでいる。目をカッと見開き、体を思い切り反らして、上のハーケンめがけて腕を伸ばした。悠木は、この衝立岩に勝ちたいち思った。
44 Sp15➡︎vs出版局長茂呂「日航機事故で一儲け企むよりまし」出版局を出る p385
45 サブプロットの回収、それぞれの面々 p391
Sp10➡︎宮田談「暮坂部長は?」〈下山途中に何メートルか落ちたらしいです〉
Sp7➡︎宮田談「その後、安西は?」〈変わりはない。でも奥さんは妙に元気そうで〉
Sp11➡︎依田千鶴子へ「原稿なんてお茶汲みとおなじだ。すぐにうまくなる」
Sp2➡︎昨日、岸は四十に。岸をバイ菌扱いしていた二人の娘がいい顔を見せたという。
Sp9➡︎〈玉置です、呼びましたか?〉「悪かったな、お前のネタを生かせなかった」
〈悠木さんがデスクじゃなかったら、あの原稿、載っていましたか?〉「おそらく載った」
46 Mp➡︎紙面調整会議 (依田千鶴子による望月彩子来社のメモ) p397
47 Sp4,Sp14➡︎日航全権デスクとしての最後の決断 望月彩子の登場 p405
「人の命って、大きい命と小さい命があるんですね」悠木は息を呑んだ。「重い命と、軽い命。大切な命と、そうでない命……。日航機の事故で亡くなった方たち、マスコミの人たちの間では、すごく大切な命だったんですよね。私、そのことがわかったんです」
(省略)
「それは違う」
「うそ」
「あなたが亮ちゃんを死なせたんですよね」
「そうだ」
「もう、月命日には来ないでください」
「わかった。二度といかない」
「それと、これ私になりに考えた小さな命のことです。『こころ』の欄に載せて欲しいんです」
「わかった。載せる。約束する」
読み進めて悠木は血の気が引いた。体の芯が震えた。最後の四行がそうさせた。
《私の父や従兄弟の死に泣いてくれなかった人のために、私は泣きません。たとえそれが、世界最大の悲惨な事故で亡くなった方々のためであっても》
48 Sp4,Sp14➡︎「北関の悠木だ。さっきはどうも」〈あ、はい…何でしょう?〉「あの投稿、本当に載せていいのか」〈載せてくれるんですか〉「怖くないか」〈怖いのは悠木さんじゃないんですか〉「そうだ」と悠木。「貴様、気でも狂ったのか!」と追村次長。「千人からの遺族がこの怪文書を読むんだぞ!」
「俺は『新聞』を作りたいんだ。『新聞紙』を作るのはもう真っ平だ」忙しさに紛れて見えないだけだ。北関は死にかけてる。上の連中の玩具にされて腐りかけてるんだ。この投稿を握り潰したら、お前ら一生、『新聞紙』を作り続けることになるぞ」
49 Sp1➡︎十七年後の登攀⑹ 第一ハング。その巨大な庇の下で宙吊りになる悠木p420
「もう無理だ、ハーケンが遠すぎて届かないんだ」
「そんなはずありません」
「さっきやってみて駄目だったんだ。一番近いハーケンでも俺には遠すぎるんだ」
「届くはずです。だって−」
燐太郎の声に力がこもった。
「そのハーケン、淳君が打ち込んだんですから」
えっ……?
ベタ打ちされたハーケン。錆の浮いたそれらの中で、一番近い場所に打ち込まれたハーケンだけが銀色に鈍い光を発していた。淳が……。俺のために……。
50 Sp2➡︎自宅。悠木は家族に安西燐太郎を紹介する p426
Sp16➡︎由香「カッコいい?」「うーん。それはどうかな。優しい顔してるけど」
Sp2➡︎「なあ、淳」「その子のお父さん、すごく山登りがうまくてな、父さんも習ったんだ。そのうち、燐太郎君も連れて一緒に山に行ってみようや」淳の反応も、見る間もなく由香は「ずるーい! あたしも行きたい」「どうだ? 行くか」「……考えとく」お兄ちゃん、ずるい、ずるい。由香が淳のシャツを引いて体を揺らせた。うるさがる淳の顔に、しかし、微かな笑みが浮かんでいた。
51 Mp➡︎抗議電話殺到⑴ p437
Sp4➡︎「遺族からは」〈一本もありません〉
Sp14➡︎自宅「弓子、覚悟だけはしておいてくれ」弓子の頬も目元も攣(つ)れた。
52 Mp➡︎抗議電話殺到⑵
Sp14➡︎全部で二百八十三件。一昨年の総選挙で、顔写真の取り違えに次ぐ異例の数。
Sp4➡︎望月彩子から電話
「どうしました?」
〈私……とんでもないことを……遺族の方に申し訳なくて……本当に申し訳ないことをしてしまって……〉
遺族のためには泣かないと書いた、その彩子が泣いていた。
「遺族の人は何も言ってきていない」
〈………〉
「わかってくれたんだと思う」
〈でも……私……謝りたいんです。遺族の人たちに〉
「だったらまた書けばいい」
〈えっ……?〉
「そうしたらまた載せる」
噛み締めるように言った、その時、局員の顔が一斉にドアに向いた。大部屋に車椅子が入ってきた。白河社長が直々に局に乗りこんできた。
53 Mp➡︎社長の最後通告 p445
Sp14➡︎「北関を去れ」「クビ……ということですか」「嫌か?」返答が浮かばなかった。「情けないツラしやがって。だったら、山奥の通信部で飼ってやらんでもないぞ。ただし、死ぬまで本社には戻さん。どうする? 好きなほうを選べ」辞職か飼い殺しか。
ペンバッジを外しに掛かった。「ふざけるなよ、悠木!」田沢だった。「お前、全権だろうが。日航ほっぽらかして逃げる気か? 辞めんなら、ちゃんと引き継ぎをしてから辞めろ。今日組みの紙面はお前が責任を持って作れ」
54 Mp➡︎悠木を止めるもの、悠木を追うもの p451
Sp14➡︎「辞めるなら本当に辞めたい時に辞めろ!」「同期じゃねえか。俺たちの同期だろうが。一人で勝手に辞めるな!」「どこへ行ったって、俺たちの日航デスクは悠さんから」きっと今は幸せなのだろう。こんな幸せな男はどこを探したっていないのだろう。その時だった。音がした。目の前のファックスが作動した音だった。
Sp4➡︎見覚えのある字が動いていた。
悠木さんへ
どうもありがとうございました。
私、新聞記者を目指します。 望月彩子
55 Mp➡︎草津通信部。単身赴任する前日。病院にて。 p455
Sp7➡︎植物状態の安西が!
「いつか起きるよな。そうしたら一緒に衝立に行こうな」
その時だった、安西の顔に変化が起こった。
悠木は、あっ、と声をあげた。
56 Sp1➡︎十七年後の登攀⑹ オーバーハングの出口。 p459
「やりましたね、悠木さん!」
「うん、やった。やったよ」
Sp11➡︎編集局次長に抜擢された佐山と千鶴子の三男の名前は「悠三」に。
Sp10➡︎神沢は日航事故から一歩も離れなかった。以後は数々の華々しいスクープを。共同通信社に移籍。
Sp4➡︎望月彩子は日航事故から三年後、北関に入社。他社が恐れるほどの敏腕記者へ。女性初の県警キャップへ。
北関は大きく変わった。
Sp14➡︎白河社長は失脚。
Sp8➡︎飯倉専務は新社屋不正流用疑惑で社を去る。
粕谷は漁夫の利で社長の座。
追村は役員室でふんぞり返っているという噂。
等々力は県立大学講師に。
同期の岸は編集局長に。
田沢はいまや人事を与(あずか)る総務局長だ。
その二人から季節が変わるたびに「本社に戻らないか」と打診が来る。
悠木は十七年間、草津通信部から動かなかった。地元に根を張った。由香が東京の大学へ入った後、高崎の家を売り払い、草津に居を構えた。
「下りるために登るんさ」
安西の言葉いまも耳にある。
クライマーズ・ハイ。一心に上を見上げ、脇目も振らずにただひたすら登り続ける。そんな一生を送れたらいいと思うようになった。
「実は僕、来年、チョモランマを目指します」
悠木は肯いた。
「それで?」
悠木は先を促した。燐太郎が頬を染めたのを見逃してはいなかった。
「チョモランマから戻ったら、由香さんを僕にください」
弓子に聞いて知っていた。由香は隣太郎のことが好きで好きでたまらないのだ、と。
「今度は、俺がトップで登っていいかな?」
「えっ………?」
「やってみたいんだ、トップを」
(省略)
「じゃあ、行こうか」
隣太郎があたふたする。
「悠木さん……あの、由香さんのこと……」
ここぞとばかり悠木は言った。
「上で話す」
二つの真顔が同時に崩れた。
明るい笑い声は澄みきった空気を伝い、谷川の山々のすべてに響き渡った。
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