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800字日記/20221018tue/100「別府まで走る」
九時五二分。ロードバイクで別府にむかう。サイクルショップでタイヤ交換のためだ。片道四〇キロの道のりだ。階段をおりて外にでた。秋晴れだ。
となりの杵築市にきた。十時半だ。ハイペースだ。腰がいたむ。それからあやふやだった頭の地図が裏目にでる。平地の道をはしるはずが峠の国道を登っていた。後ろから十トントレーラーが数珠つなぎにやってくる。あおられる。怖くて歩道をはしる。右手に赤松温泉。寄りたい誘惑をふりきって峠をおりる。
海が広がる。別府湾だ。崖の下の浅瀬はマリンブルーだ。吸いこまれそうだ。写メを撮ろうと立ち止まる。崖がわの柵に花束が添えられていた。事故か自殺か。
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ヤシの木が生える芝生の公園に寄る。芝生のうえにあぐらをかいてやすむ。サイクルショップに到着した。一時だった。
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担当の店員は、昨日、電話にでてくれた男性だった。店長だった。以前パンクしてちかくの自転車がその場しのぎで着けてくれたタイヤがすっかり摩耗していたのだ。彼は、ぼくに手取り足取りロードバイクの知識をたくさん教えてくれた。チューブとタイヤの内圧について、正しいグリップのにぎりかた、ディレーラーの切り替えのタイミング、チェーンのたるみぐあい、ワイヤーの経年劣化、車体が軽くなると坂で体にかかる負荷がどれだけ軽減されるか、それとフレーム素材のカーボン(軽いが割れやすい)と鉄(重いが曲がる)のちがいなど。勉強になった。
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彼は前のワイヤーをいじった。するとフロントギアが解放された。ぼくは買ったときにフロントギアを固定していたのだった。いちばん重いギアに入るようになった。サドルの高さもぼくに合わせてくれた。最後に駐車場で乗ってみる。自分のロードバイクに、新たな地平をかんじる。直進で五〇キロはでそうだ。
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帰りは、トビが高いところで旋回していた。女子高生の立ち漕ぎがあかね空に映えていた。日は沈みかけていた。ネコが心配になって急いでペダルを踏んだ。
(800文字)
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